54 オッサンに因縁をつけられた
皆で話し合った結果、ゴブリンの素材で通行税を支払うこととなった。
「ゴブリンのような弱い魔物でも魔石はあります。価値は微々たるものですが今回は数がありますからね」
というイリアの話が決め手となった。
「少しでも多く処分できるのはありがたいけど4人分ともなると嫌な顔をされそうだな」
なにしろゴブリンの魔石は日本円に換算してひとつ1円相当らしいからね。
通行税は街によって違うらしいが最低でも銅貨5枚になるというので、ゴブリンの魔石だと50個以上は必要だ。
「それは何とも言えませんね」
イリアが苦笑するのも無理はない。
安く見積もっても2百個の魔石を数えることになるのだから大変なのが目に見えている。
「嫌な顔をされるくらい何ほどのものよ。堂々としておれば良いのじゃ」
「でもさー、受け取り拒否とかあるかもねー」
リムの言うことにも一理あるのだけど問題はマヤの言ったことが現実となった場合だ。
「その時は引き上げてロゼッタの婆さんたちと合流するまで狩りをするしかないだろうさ」
もちろん別の場所でということになる。
大量に発生したゴブリンがいなくなったことで近隣から他の魔物とか獣が流入してくるとしても何日かはかかるだろうからだ。
そう考えると全滅させたのは考えが足りなかったか。
このあたりを活動拠点にしている冒険者たちの獲物を根こそぎ奪い取った格好になるからなぁ。
いくら素材の価値が低いといえども代わりのいない状況では非難されてもおかしくはないし、俺としては返す言葉もございませんとしか言いようがない。
まあ、済んでしまったことはしょうがない。
いずれ元に戻るということを考慮すれば致命的なミスでもないしな。
という訳で反省終了。
そんなこんなで街までひとっ飛び……と言いたいところだけど、ホウキで街まで飛んでいくのは自重する。
ロゼッタたちの反応を見る限りでは空を飛ぶのは相当にレアな行為のようだ。
間違いなく街の方では騒ぎになるだろう。
それだけならともかく──
「下手をすれば街に近づいただけで迎撃されるかもしれません」
とはイリアの言である。
「面倒じゃな」
「しょうがないさ。そのための準備も日本でしてきているだろ」
ホウキで飛ぶアイデアを出した際にこういうことは想定していたし対応案も考えていたのだ。
空を飛ぶのがダメなら陸路を走るものを用意しようというだけのものだけど。
ただ、こういう状況で自動車は使えないだろう。
せっかく地上に降りても魔物と間違われて攻撃されたんじゃ意味がない。
だから日本で中古の馬車を購入してきましたよ。
これを魔改造して馬なしで走るようにしたのがポイントだ。
「じゃあ、街道に出て後は陸路なんだ-」
「もっと街に近づいてからだけどな」
要は街道上と街の両方で目撃されない必要があるが、そこさえクリアできれば街のすぐ近くでも構わない。
このあたりは森や林が点在しているし街道の方は難しくないだろう。
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陸路で行けば目立たないと思っていた時期が俺にもありました。
「何だっ、この乗り物はっ」
門衛に取り囲まれて詰問されることになろうとは。
おまけに順番を守って並んでいたはずなのに列から出されてしまったし。
おかげで並んでいる面々からも注目の的ですよ。
ざわざわしてるし居心地が悪いったら。
「馬車ですが何か?」
「馬なしで走る馬車などあるかっ」
あるんだな、これが。
推進力についてはホバークラフトの推進器から着想を得てみましたよ。
あっちは大きなプロペラだけど、こちらは馬車の前後左右に取り付けた塩ビ管から魔法で風を送り出すことでその代わりとなる。
だというのに門衛の中でも良さげな装備を身につけたオッサンが現実を受け入れてくれない。
走っているところを目撃したはずでしょうが。
「風の魔法で走っているので馬は必要ないんですよ」
「なに? 魔法だと」
「ええ。筒の部分から風を送り出すことで走るんです」
「ウソをつくな!」
と信じようとしないので色々と説明してみたのだが頑なに信じようとしない。
風の力で物が飛ばされることを言っても帆船のような乗り物もあることを言ってもダメ。
この調子だと何を言っても街には入れないつもりだろう。
通行税の話すら出ていないし。
目的が今ひとつわからないのが困ったところである。
「そうですか。では、結構」
街へ入れないというのならそれまでだ。
ここでゴリ押しするよりは、よそへ行った方が建設的であろう。
オッサン相手に長々と問答を繰り返して実に無駄な時間であった。
「なに?」
オッサンは俺の言葉を聞き逃したのだろうか。
今となってはどうでもいい。
「入れないと言うから、この街に入るのはあきらめたんですがね」
「なんだとっ!?」
急にオッサンが焦り始めた。
「逃げるつもりだな。そうはいかん」
「入ろうとしなければ関係ないでしょう」
「コイツらは犯罪者だ。捕らえよ」
突拍子もなさ過ぎる指示に部下たちも困惑するばかりで動こうとはしない。
「ええいっ、何をしておるかっ」
いら立ちながらオッサンが地団駄を踏む。
癇癪を起こした子供のようで実にみっともない。
まあ、当人はそのことにまるで気付いちゃいないんだが。
「いくらなんでも無理がありますよ、小隊長」
取り囲んでいた門衛たちの1人がおずおずとオッサンに声をかけた。
「んだとぉ?」
まるでチンピラのような睨みをきかせて部下たちを威圧するオッサン。
大半がたじろいでビビっているが仕方あるまい。
上役に睨まれれば出世ができないどころか職を失うことになりかねない。
ただ、声をかけてきた門衛は怯まなかった。
「彼らが犯罪者である証拠は何処にあるんですか? ないですよね」
どうやら良識ある門衛もいるようだ。
それで安心できるものではないんだけどね。
「貴様ぁっ!」
なんだか俺たちに向けられていた矛先が変わったような気がする。
だからといって放置も出来やしないんだが。
念話を使わずマヤに目配せすると、わずかに表情がゆるんだ。
この方が言葉で説明するより早いからな。
ズデッ
オッサンが蹴つまずいて顔面から地面へとダイブした。
マヤが妖術でオッサンの影に軽くちょっかいをかけた結果であるのは言うまでもない。
見ればドヤ顔で返されましたよ。
「何をしておるか」
ここでオッサンよりも上の役職であろう人が現れた。
オッサンよりは若く見えるが精悍な顔つきをしており風格が感じられる。
「こっ、これはランゲル隊長!」
オッサンが痛みを堪えて立ち上がり直立の姿勢を取った。
他の門衛たちも姿勢を正すがオッサンほどガチガチではない。
どうやらオッサンはこの人物を苦手としているらしい。
「報告するつもりがないようだな」
「いえっ、そういう訳では……」
「ならば報告せよ」
「はっ! 不審な馬車に乗ってきた者がいたため尋問しようとしていたところであります」
「ウソをつくでないわ。妾たちを犯罪者と断じておったではないか」
いままで口を挟まなかったリムがここぞとばかりにツッコミを入れた。
場が荒れそうな気もしたが実力行使に出る様子は見受けられないので様子見を決め込む。
「貴様っ!」
「控えよ」
オッサンが身を乗り出すようにして食って掛かろうとしたが隊長さんが睨みをきかせながらたった一言で抑え込んだ。
若そうに見えるのに威厳があるとは立場がそうさせるのか若作りしてるだけなのか。
なんにせよオッサンに同調して俺たちに因縁をつけてくる感じではないのはわかった。
オッサンが因縁をつけてきた時点でこの場を離れた門衛が隊長さんを連れて来たみたいだから、あまりそっちの心配はしてなかったんだけど。
果たしてどうなるのかな。
読んでくれてありがとう。
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