53 大繁殖?
イマジナリーカードのトリプルコンボ。
【耳目の式神】へ【帯電雷】と【影の門】を付与して空中から大量にばらまく。
【敵意レーダー】に反応のある所に送り込んで待つことしばし。
レーダーの光点が次々と消滅し始めた。
それと同時に直下の影からゴブリンどもの死骸が湧き上がってくる。
「フフフ、作戦通り」
「カイ兄ちゃんが悪い顔してる-」
「主の狩りは効率的じゃのう」
「式神にこんなことができたんですか!?」
3人の反応はまちまちだが否定的な意見が出てこないのであれば構わない。
楽をしすぎとか言われたらゴブリンの多さに辟易した直後だけにヘコんでしまうのだよ。
「耳目の式神は偵察用だから追尾対象を設定すれば自動で追いかけてくれるんだよ。それにいくつか付与して攻撃と移送をさせた結果がこれだ」
「コンボ技なんだー」
「便利じゃのう」
「そうでもないさ。電撃で感電死するような雑魚しか倒せないからね」
「それでも手間が大幅に省けるじゃないですか」
「まあね」
そのために実行したようなものだし。
こうしている間もゴブリンの死体は山となって積み上がっていく。
「勘弁してくれよぉ。マジでゴブリンだらけじゃないか」
「これはおそらく大繁殖じゃな」
「そのようですね」
リムの推測にイリアが同意するということは、この世界ではよく知られている現象のようだ。
「大繁殖ってなーに?」
当然、知らないマヤが質問した訳だが俺も初耳だ。
大繁殖と言うくらいだから爆発的に増えるんだろうとは思うが不穏な雰囲気を感じる言葉に本能が警鐘を鳴らし続けている。
これは知っておくべきだろう。
「端的に言えば単一種の魔物が何年かに一度の頻度で爆発的に増える現象です」
こうしている間も死体が積み上がっていくし、これがしばらく続くと思うと辟易させられるな。
おっと、下のが潰れると面倒だから格納っと。
「スタンピードみたいなものかなー」
「いいえ。スタンピードは魔物の種類が複数ですし、規模はもっと大きくなる傾向があると言われています」
「そうなんだー。じゃあ、爆発的に増えると言っても数百とかそのくらいなの?」
多くても千に達するかどうかくらいを俺も想像していたのだが。
「いいえ」
あっさりと否定されてしまった。
「その時によって異なるそうですが数千を下ることはないと聞いています」
「何それ、怖い」
思わずツッコミを入れてしまいましたよ。
最低でも千単位ということは桁がもうひとつ増えることも無いとは言えないだろう。
それでもスタンピードよりマシなのか。
「この間のキラーホーネットみたいな感じか。シャレにならんぞ」
「あ、いえ、キラーホーネットの時よりはマシではないかと思います」
「なんでさ?」
「大繁殖はゴブリンのような弱い魔物にしか起こりえないことだと言われているので」
イリアが否定しているものの俺が言いたいのはそういうことじゃない。
そもそもキラーホーネットの時は条件付きではあるがクイーンを仕留めれば群れごと滅することができたが、ゴブリンではそういうことがない。
「そういうことじゃないんだよ」
このあたりは田舎の小国らしいからゴブリンといえど大量に湧けば、どうなるやら。
村ならあっという間に飲み込まれてしまいかねない。
奴らだって弱いからこそ生き延びるために群れるのだから。
単体であれば村人でも対処できるかもしれないが、群れになれば人の少ない村落では大いに脅威となり得る。
それが簡単には減らないほどの集団にまで膨れ上がったとしたらどうなるのか。
村は壊滅をまぬがれず、高い壁に囲われている街でも閉門のタイミングなど対処を間違えれば被害が甚大になりかねない。
ましてや街道を移動している最中に遭遇などしようものなら悲惨である。
「あの時は秘境レベルの奥地だったが今回は違う。こんな状態だってことに気付いてなかったら何処かで被害が出ていた恐れがあるんだ」
いまも影を通して送られてくるゴブリンが積み上がってるし。
格納だ、格納。
「そうでした」
「それこそロゼッタの婆さんたちにもな」
今回はたまたま俺たちが気付いて対処した格好になっているが素通りしていたらどうなっていたことか。
考えるだけでも背筋が凍りそうだ。
「あ……」
指摘されたイリアも顔色を悪くさせていた。
とにかく大繁殖とやらが発生している恐れがあるなら徹底的にゴブリンを狩る必要があるだろう。
仕方がないから出血大サービスだ。
元手がかかっている訳じゃないので出血は言い過ぎだとは思うけどな。
要は索敵範囲をさらに広げてイマジナリーカードを追加投入するだけである。
「そのあたりは対処するから大丈夫」
せっかく知り合った気の合う相手が危険にさらされるかもしれないと知っていながら助けないなどあり得ない話だ。
これが敵対しているような相手なら見捨てたんだが。
脂肪キング、退職した会社の元社長、テレビ局のオッサン、黒幕王太子などなど。
「私も魔法で手伝います」
イリアはそう言うが俺だけでやった方が早く終わる。
下手に分担すると大量生産しなきゃならないイマジナリーカードに余計な指示を組み込む必要ができてしまうからね。
ただでさえ数を作らなきゃならないのに精神的な消耗を増やすような真似はしたくない。
好意をまるっと無視するのはどうかと思うが。
「いや、もう終わってるから」
こう言っておけば角を立てずに済むかな。
「え?」
「あとは自動でゴブリンの死体が送られてくるのを待つだけだ」
「いつの間に……」
「すぐだよ。索敵範囲を広げるだけだから」
コンボ状態のカードを作り続ける必要はあるが違うものに組み替える必要がないなら意識しているだけで充分だ。
イマジナリーカードとの付き合いも長いから反復作業もお手の物である。
「規格外すぎませんか?」
半ば呆れ顔で行ってくるイリアさん。
「それは妾も同意じゃな」
竜であるリムまで乗っかってくるとは予想外である。
本気になれば俺みたいにチマチマとゴブリンどもを始末していくのと違って、あっという間に辺り一帯を灰燼に帰すことができるだろうに。
「だって、こうして話している今もゴブリンが積み上がっていくよねー」
マヤもか。
「ある程度まで溜まったらゴソッと減っちゃうけどさー」
それは【無権収納】カードを使って定期的に回収しているからだ。
「いつまでも回収しないでほったらかしにしてると下の方のが潰れてしまうだろ」
要するに理由はそういうことである。
ぺしゃんこになってもゴブリンの場合は希少部位とかないので素材は取れるけれどグロ注意な状態になるのはいただけないってことだ。
「あー……」
マヤもスプラッタな場面を想像したらしく、ゲンナリした表情になっている。
「主よ、終わったようじゃぞ」
リムに促されて下を見ればゴブリンの山が増えぬままだ。
探査範囲を広げたレーダー上にも敵性反応がある相手は見つからない。
では、最後の回収っと。
「なんだか呆気なかったですね」
「うむ。一見して何事もなかったように見えてしまうのが何とも言えんのう」
「確実に4桁には達してたよねー」
3人はそんなことを言いながら唖然として俺の方を見てくる。
「そんなことより他の魔物がいなかったことの方がショックだっての」
結構な広範囲で魔物がいなくなってるから、このままだと丁度いい案配の素材をゲットできないままだ。
通行税の物納はどうしようかね。
読んでくれてありがとう。
ブックマークと評価よろしくお願いします。




