51 砂像の処分と合流地点
「訳のわからないことを言うんじゃないよ」
ロゼッタが抗議してくる。
強力な炎で焼却処分すると言っていたのに燃え広がらないようにすると聞かされれば、それも当然のことかもしれない。
「リム、魔道具は石化させられるだろ」
「もちろんじゃ。しかし燃やすのとさして変わらぬぞ。あの愚か者ごとなんじゃからな」
「周りのものも石化することはないだろう?」
炎のように高熱でどうこうということはないし飛び火するようなこともないはずだ。
「そうでもないじゃろう。まんべんなくブレスを当てねば、すべて石化させることなどできぬからのう」
「あー、地面に当たって拡散するのか」
「左様じゃ」
「なら、こうすればいい」
【念動力】カードで亡骸を上へ持ち上げる。
宙に浮いた状態なら他のものに当たることはないし炎と違って間接的な影響もない。
空気まで石化するのであればどうしようもないけれど、さすがにそうはならないだろう。
「なるほどの」
リムも納得している。
「ならば妾としても否はない」
そう言うと髪の色を黒く変じさせていく。
属性が闇に変わった証拠だが、それを知らぬ者たちがザワつき始める。
闇の狼を消し飛ばすブレスを吐き出したときに髪の色が青くなっていたことには気付いていなかったのかね。
ブレスのインパクトで上書きされたってところか。
ともかく落ち着いた状態で髪の色が変わるところを見るのは初めてだから動揺もひとしおなのかもしれない。
ロゼッタでさえ言葉なく呻いていたくらいだから俺たちが思っている以上のインパクトがあったのだろう。
「で、俺たちに任せてもらって構わないのかな」
ロゼッタに声をかけると、すぐ我に返ったので重症ではないと思いたい。
「ああ、頼むよ。このまま放置する訳にはいかないからね」
即答した割に表情が渋い。
他に選択肢がない苦渋の決断となったのがうかがい知れるというものだ。
向こうの思惑はともかく始めないことには次の行動に移れない。
俺はすぐにリムへ頷いてGOサインを出した。
合図を受けてリムは浮かんでいる遺体に向けて灰色で球状のブレスを吐き出した。
それを見た周囲の者たちがどよめく。
戦闘時の慌ただしい状況下ならともかく落ち着いた今の状態でブレスなんて見せられれば無理もないか。
そんな人間なんて、まず見ないだろうし。
ブレスの方は王太子だったものに直撃し全体を包み込んだ。
そして煙が吸い込まれるように小さくなっていき遺体はそれに合わせて灰色になっていった。
さらなるどよめきが聞こえてきたがスルーだ、スルー。
そうこうするうちに王太子の成れの果ては完全に石化した。
「リム、あれって硬いのか?」
「いいや。脆くしておいたぞ、主よ」
石化させた後の状態を調節できるんだな。
「下に落とせば……」
「粉々じゃな」
「そりゃありがたい」
壊す手間が省けるというものだ。
念のためにロゼッタの方へと目を向けてみたが、ためらいなく首を縦に振った。
「やっておくれ。この状態でも残っているのはマズいからね」
そうだろうか?
別人と言っていいほど老化して死んだし、石化が解除されても生き返ったりはしないんだが。
何にせよ、了承は得られたのでその通りにするまでだ。
破片の飛び散りなどを考慮して【遮断する壁】カードを展開し見えざる壁で石像を筒状に囲う。
そこから【念動力】カードをオフ。
浮かせていた力が失われ自然落下した石像は地面に激突し砕け散った。
飛び散った破片が見えざる壁に当たり、さらに細かく砕けてしまう。
最終的には原型など見る影もないまでの状態になり砂の山を築いていた。
考えていた以上に脆い。
「これはもう石というより固まった砂糖か塩だな」
「言うたであろう。粉々じゃと」
「確かに」
その後は特に問題が発生することもなく謝礼の話となった。
内密にしなきゃならないことなんだから何もなしってことにしておけばいいのに律儀なことである。
俺たちとしても表沙汰にされるのは自由を阻害されかねないんだと説明しても引き下がってくれないのには参った。
らちが明かないので折れてしまったが王城に招待されることとなってしまったのは計算外だ。
馬車で数日の距離だそうだが大幅なタイムロスである。
という訳で先に片付けなきゃならない用事があると言ってロゼッタたちが城に到着する直前で合流することにした。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
「それでこの後はどうするのー、カイ兄ちゃん」
ホウキに乗って飛びながらマヤが聞いてくる。
「まずは合流地点近くの森へ行く」
別れる前にロゼッタから聞いた合流地点の目印は森だった。
「マーキングだね」
【どこで門】カードを使えるようにするための移動だと即座に理解してくれたみたいだな。
用事にどれだけ時間が食われるか読めないから飛んで行っても間に合いそうにないときの保険をかけておく訳だ。
「ああ」
森の中なら余人に目撃されにくいだろうし万全を期すために仕掛けを施しに行くから変なのに嗅ぎつけられることもないだろう。
仕掛けはもちろん【監視カメラ】カードだ。
それを【モニター】カードで確認して転移する。
念のために【アラート】カードも使っておこうか。
「それよりも主よ、用事とは何なのだ?」
リムが眉間にシワを寄せている。
皆目見当がつかないのかもしれないが、そこまで考え込まなきゃならないことじゃないぞ。
「身分証は必要だろう?」
「ふむ、それを作りに行くのだな」
「そゆこと」
「じゃが、登録できるのか?」
「どういうことだよ?」
「ギルドカードは大きな街でなければ発行できぬのであろう」
言いたいことはなんとなくわかった。
「城門で止められるのではないのかえ」
こっちの世界じゃ文無しだから税金が徴収されることを心配してくれているのだろう。
「物納できるからリムが危惧しているような門前払いにはならないぞ」
「そういうことは先に言うてくれぬか」
「でもさー、物納できるものってあるの?」
マヤが首をかしげながら聞いてきた。
ロゼッタに卸すことを先約してるから在庫を気にしているのだろう。
「マヤには見せたことなかったけど売れるものは山ほどあるんだよ」
積み上げればマジで山になるからな。
だが……
「それなんですがキラーホーネットの素材は出さない方が良いかと」
イリアに水を差されてしまった。
何がなんでも反対という訳ではなさそうだが嫌な予感を感じているような空気を出している。
「素材の出所を追及される恐れもあります」
こういう場合の方が強行しづらいよな。
そうでなくてもイリアのありがたくない予想を聞いてしまうと別の案を考え始めている俺がいる。
「途中でなんか適当なのを狩っていくか」
「いいねー」
マヤにとっては異世界初の狩りとなるからかノリノリだ。
「それならマヤが一人で狩ってみるか」
「いいのー?」
「ああ。単独で狩れそうにないと判断したら手は出すけどな」
「やりぃ!」
ますますテンションを上げているマヤさんである。
意欲的なのは良いことだが元が猫だから魔物が見つかる前に飽きてしまいそうだけど。
運が悪いとなかなか魔物が見つからずなんてこともありそうだが【敵意レーダー】カードを使っているのでそれはない。
「9時の方向だ」
「えっ、もう見つけたのー?」
もうではなく端からである。
「あそこだ」
斜め下方を指差すと、その先には灰緑の色をした何かの集団とコケの塊のようなものが入り乱れていた。
集団が塊を取り囲んでいるところを見ると狩りの真っ最中といったところか。
「ゴブリンと森ガニじゃな」
さすがリムは竜だけあって並みの視力ではない。
「ゴブリンどもめ、無謀にも森ガニを狩るつもりのようじゃぞ」
読んでくれてありがとう。
ブックマークと評価よろしくお願いします。




