41 商売をするには元手が必要です
「杜の屋敷で住むのはわかったけど、それだとここは不要じゃない?」
マヤが首をかしげながら聞いてきた。
「倉庫にする意味もわからぬな。主の能力で色々と格納しているであろう。それとも大量に格納すると負担があるのかえ?」
リムが追随して疑問を呈してきた。
それに対しイリアは見守っている感じで傍観している。
「負担はないな。半分はカモフラージュ用といったところか」
「どういうこと?」
マヤの首がさらに傾く。
「異世界では商人の真似事もしたいから倉庫ぐらいは持っておかないとなぁ」
「山ほどため込める能力があるなら、倉庫なんていらないんじゃない?」
「そういう能力持ちだと思われると面倒だろ」
「主を扱き使おうと画策する愚か者も出てくる恐れはあるな」
神妙な面持ちでリムが頷いていた。
「そうでなくても亜空間に格納するから時間経過はしないし」
「それもバレると利用しようと企む者が現れそうですね」
イリアもこの会話に参戦してきた。
「愚か者どもは妾が生まれてきたことを後悔させてくれるわ」
リムがフンスと鼻息も荒く意気込んでいる。
「そういうのは無しの方向でね」
「何故じゃっ」
「騒動を起こせば周りの印象が悪くなるだろ。商売をする上でそういうのはマイナスにしかならないんだよ」
「むう」
承服しかねるとまではいかないようだけどリムが不服そうに歯噛みする。
「限度はあるから、いざという時は任せる」
俺がそう言うとパッと瞳を輝かせた。
「もちろんじゃ!」
やたらと良い笑顔で応諾されましたよ?
もしかして単に暴れたいだけとか言わないよな。
これ、何かあったときに俺がブレーキかけても止められるんだろうか。
すごく不安である。
「そういえば、残り半分の理由は何ですか?」
イリアは先程の言葉を聞き流すつもりがないようだ。
「大した理由じゃないよ。亜空間じゃ熟成させることができないだろう?」
「もしかしてお酒ですか」
「それもあるかな」
「大丈夫なんですか?」
心配そうな顔をして聞いてくるイリア。
その様子だと法律周りの知識も蓄えつつあるようだ。
ホント、スゴいよな。
「部外者はここには入れないし、酒を売るのは向こうの世界だけだよ」
そう言うと納得したらしくイリアの表情も和らいだ。
「酒以外にも何か作るつもりなんじゃろう?」
リムが興味深げに聞いてくる。
「ああ、味噌とか醤油とか異世界で売れるかもしれないだろ?」
焼きおにぎりや味噌汁などはイリアやリムに好評だったからな。
「どうでしょう? レシピが広まらないと難しいかもしれませんよ」
「最初からそのものを売るつもりはないさ」
イリアの言うように売れない恐れもあるからね。
「何かしらの料理を屋台販売でもして反応を見てからだな」
「あっ、それいいねー。文化祭みたーい」
とはマヤの言である。
「文化祭なんてよく知ってるな」
「多美ちゃんの学校でやってたからね。模擬店の唐揚げ、美味しかったなぁ」
「おいおい」
唐揚げなんて香辛料とか使ってるだろうに猫に食べさせるんじゃないよ、中学生たち。
まあ、妖怪猫のマヤには猫がダメな食べ物も関係なく食べられるみたいだけど。
卵かけご飯がお気に入りだと言うくらいだしな。
最初に食べさせたのが誰かは知らないが、猫は生卵が食べられると誤解していそうである。
「そうは言うても向こうでは文無しなのじゃろう?」
俺は召喚されるなり地下牢に放り込まれたしイリアは奴隷にされたからなぁ。
リムは俺たちが財産を持っていないことが何かネックになると思っているように見受けられる。
「商売を始めるにしても無一文では差し支えがあるのではないかえ?」
ごもっとも。
屋台をするにしても釣り銭は必要になるはずだし、それ以前に大きな街に入るには税金を取られると聞いている。
税金は物納でもできるみたいだけど、とにかく多少なりと元手は必要になるだろう。
「行商人と取引するとかどうかなー。街の外にいる商人といったら行商人でしょー」
マヤは行商人をプッシュしてくるな。
多美ちゃんのラノベに影響されてるのか?
「店舗を構えていない商人はどうなんだろうな」
すべての行商人がそうだとは言わないが、客を騙して逃げるような輩もいるだろう。
こっちは商材になりそうなブツは持っているものの相場がわからんからなぁ。
騙されたかどうかも判断できない。
「いまひとつ信用できないな」
「無一文よりマシなんじゃない?」
「ふむ」
マヤの言うことにも一理ある。
「納得できなきゃ売らずに別の相手を探せばいいんだし」
「そんな簡単にゃいかんぞ」
とは言ったものの現状でそれしか思いつかないんじゃ仕方ない。
リムやイリアも代案はないようで反対してこないし。
案ずるより産むが易しという言葉もあることだし行動しないことには始まらない。
失敗しても、それは経験という財産になるだろう。
「やってみるか」
「決まりだね!」
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「どうしてこうなった」
行商人を探して街道沿いをホウキに乗って飛んでいたら盗賊団に襲われている馬車の一団に遭遇してしまいましたよ。
野営準備を始めたところへ強襲を受けたように見受けられる。
警戒はしていたみたいだから一気に押し込まれるようなことはなかったみたいだけど劣勢であるのは間違いない。
「うはー、ラノベ的展開だぁ」
マヤは飛び始めたときよりもテンションが高い。
「このままだと死人が出てしまいますよ」
イリアが悠長にしている場合ではないと言ってくる。
ごもっとも。
「リム、人化した状態で格闘はできるか?」
「もちろんじゃ。あのような脆弱な者どもに不覚など取らぬ」
「頼む」
「任せよ」
言い終わる前にリムは乗っていたホウキを急降下させ目の前から消えていた。
「イリアは上から魔法で援護な」
「はい」
「アタシは?」
「イリアと同じだ。妖術で護衛を守ってやれ」
「えー」
不服そうに唇を尖らせる。
「乱戦に介入するから護衛からも攻撃されかねないだろ」
リムは人の姿をしているけれど頑丈だから心配ないがマヤはそうはいかない。
「カイ兄ちゃんはどうするのさ」
「俺はこれを使う」
そう言って【無権収納】カードを使い亜空間からコンパウンドボウを取り出した。
複合素材による高い張力とカムを用いた引きの効率化によって高威力を発揮する近代的な弓だ。
「この距離から盗賊だけに当てられるのぉ!?」
「必中だ」
矢をつがえリリーサーを使って弓を引き適当に狙って放つ。
「ええーっ!?」
マヤが驚くのも無理はない。
飛んでいくはずの矢は何もないはずの地面に飛んでいったからだ。
だが、地面には突き刺さらない。
突き刺さったように見えた矢は飛んでいった勢いのまま地面に沈んで……
「ぎゃあっ!!」
盗賊の影から飛び出し太ももに突き刺さっていた。
【影の門】カードを使った必中攻撃だ。
刺さった矢は【影の門】で回収し次の攻撃に使うので必中だけでなく攻撃回数制限もない。
「えぐぅ」
マヤはドン引きしていた。
「ほら、援護しろ援護」
「へーい」
間延びした返事をしながらも地上の影を触手のように操って盗賊の動きを妨害する。
「影縛りぃ」
という妖術のようだ。
複数の相手を拘束できるおかげで一気に形勢が逆転した。
まあ、それ以前にリムがホウキで盗賊ども相手に無双していたから敗走しかけていたけど。
「慈悲はなしー」
逃げようとする盗賊を中心にマヤが妖術を使ったおかげで全滅するのも時間の問題となった訳だ。
「私、ほとんど何もしてませんよ」
苦笑するイリアだが、風魔法で非戦闘員を守っていたのは知っている。
「それは俺の台詞だよ」
護衛にトドメを刺そうとしていた盗賊に矢を当てて逆襲の切っ掛けを作っただけだからな。
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