表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/72

40 オッサンの末路のち山

 テレビ局が杜の屋敷に取材に来た翌日。

 俺たちが朝食を食べていた時のことだった。


『──高速道を逆走する乗用車とワゴン車の正面衝突事故がありました』


 つけっぱなしにしていたテレビから気になるニュースが流れてきた。


「酷いものじゃな。こちらの世界は決まったルールに則って行動するものだと感心しておったのじゃがのう」


 リムが嘆かわしいと頭を振っている。


「いえ、逆走する車を運転していた人は正常な判断ができなくなる病だったようですよ」


 イリアがニュースを見ながら簡潔に認知症の説明をした。


「治癒魔法が使えぬ世界には面倒な病があるのじゃな」


「いえ、向こうでも同じ症状の人を見たことがあります」


 異世界でも認知症はあるんだなぁ。

 まあ、同じ人間だってことか。


「病気だとは認識されていませんでしたが」


 認知症は身近にいる者だと気付きにくいだろうし、年のせいで色々と片付けられてしまうのも大きいと思う。


「それよりも昨日のいけ好かない連中が死んだみたいだよー」


 ずっとニュースを見ていたマヤが会話に入ってきた。

 いまは中学生くらいの女の子に人化しており、その隣でアイラがコクコクと頷いている。


「いけ好かないってテレビ局のオッサンのことか?」


「それ以外に誰がいるって言うのさ」


 そりゃそうだ。そうそう何組も嫌な相手の訪問があっては堪ったものではない。


「逆走車に突っ込まれて、そのニュースを見ることになるなんてねー」


 俺がイマジナリーカードを使って何かをした訳ではない。

 オッサンたちが昨日のうちに事故に見舞われたのは単なる偶然だ。


「さすがに天罰と言ってしまうのは辛辣がすぎるかな」


 少なくとも俺たちは辟易させられた程度の被害しか受けてないからね。

 連中の隠し撮りも阻止したから失敗しているし、せいぜい帰ってから何も撮れていないと知ったオッサンがイライラするくらいだと思っていたのだが。


「それはどうかなぁ」


 マヤは俺の意見には否定的なようだ。


「アイツのせいで死んだ人もいると思うよー」


「わかるのか?」


「よどんだ気配してたもんねー。殺されてもおかしくないくらい恨まれてるのは間違いないよ」


 同意して頷くアイラ。

 伊達に長生きしてきた妖怪ではないということか。


「まあ、どうでもいいか。二度とかかわらないのは確実なんだから」


 この屋敷がテレビで放送されなければ、それでいい。


「そんなことより今後の予定だ」


「もち異世界だよね」


 ワクワクした顔で身を乗り出してくるマヤ。


「いいや、山へ行く」


「山ぁ~!?」


 俺の返事を聞いたマヤは素っ頓狂な声を出して驚きをあらわにした。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 車で移動することしばし。

 俺たちは人気のない山の中にいた。


「へえー、山って買えるんだねえ」


 マヤは妙な感心の仕方をしている。

 ちなみにアイラは本体とも言うべき木から離れられないから留守番だ。


「小さい山じゃのう」


「そりゃあリムが住み家にしてた山と比べればね」


 それでも一応はそこそこの広さがある。

 車を停車させてからそれなりに歩かねば目的地には辿り着かない。

 が、そんなことをしていると日が暮れてしまうので、ここはイマジナリーカードの出番だ。

 【夢現に】カードで俺たちの存在を感知されないようにしつつ【影の門】カードで向こう側へと移動する。


「はへ~、まるでアタシの妖術みたいだねえ」


「マヤは影を使って移動できるんだな」


「そだよー。アタシの妖術は影に関連することだからね」


 フフンと鼻を鳴らしてドヤ顔をするマヤである。

 残念感が漂うのは無い胸を反らしている姿が背伸びしているように見えてしまうからだろうか。

 スルーしておくのが大人の優しさというものだろう。

 まあ、マヤも実年齢は結構なものなんだけど。


「それじゃあ始めますかね」


「ちょっと無視しないでよぉ」


 プウッと頬を膨らませて抗議してくるマヤ。


「晩ご飯が遅くなってもいいならな」


「それはヤダー」


「やれやれ、子供じゃのう」


「賑やかな方が楽しくていいじゃないですか」


 リムが呆れる気持ちもわかるしイリアが言いたいことにも頷ける。

 仕事じゃないからワイワイ楽しくやるのが一番だ。


 とはいえ人目につくようなモノを作る訳にはいかない。

 ここはあくまで隠れ家なのである。

 ただ、この地を訪れる理由付けのために簡単なキャンプ設備はあった方が良いかもしれないとは思う。

 有り体に言えばカモフラージュだな。


 そんな訳で目的地の近くに簡易のかまどを設置してみた。

 立派なモノだと目をつけられかねないので素人が即席で作りました的な外観にしておく。

 もちろん屋根などはなしだ。

 衛星写真なんかで発見されたら面倒極まりない。


「カイ兄ちゃん、スピード優先しすぎだよ。雑じゃね?」


「ああ、わざとそうしたからな」


「えー、すぐに壊れちゃうよー?」


「それはイマジナリーカードでなんとでもできるからいいんだ」


「屋敷を修復したときのような?」


「ああ、そうだ」


 壊れても【最適復元】カードを使えば元通りにするのも簡単だ。


「なんだか無駄だなぁ」


「そういう見た目にしておけば誰かが見つけても変に興味は持たれないだろ」


 こんな不便な場所にもかかわらず出来が良いとテレビ局や動画配信者なんかが興味を持ちかねない。


「ボロい方が虫除けになるものさ」


「でも、使いづらそうだよ」


「これでいいんだよ。使わないから」


「えーっ!?」


 マヤにとっては予想外の返事だったらしく目を丸くさせて驚いている。


「これはダミーだぞ。それに使いやすいと不法侵入してきた連中に使われそうだし」


「あー、そっかぁ」


 納得してくれたようなので先に進めよう。

 というか実は話をしている間に【岩石流転】カードを使って崖部分の内側をくり抜いていた。

 壊れると困るので手前側は空気穴しか開けていない。

 念のため補強しながらカモフラージュと周辺の監視体制を整えることもちゃんとしている。


「じゃあ、中に入ろうか」


 予告してから【影の門】カードで中に入る。


「おーっ、もう穴掘ってたんだぁ」


 キョロキョロと周囲を見渡すマヤ。


「出入り口がないのに明るいのう」


「カイさんが先に照明を設置したんでしょう」


 リムやイリアも興味深げに通路内を見渡している。


「あの、たぶん崖側だと思うんですが」


 不意に背後を見たイリアが首をかしげながら話しかけてきた。


「どうしてドアがあるんですか?」


 イリアの言う通り何の変哲もないドアが設置されている。


「俺がいないときに皆はどうやって出入りするつもりだ?」


 そう問い返すとハッとした表情を見せた。


「なるほどのう。このドアを使えば妾たちも自由に屋敷と行き来できるようになる訳か」


 リムがウンウンと頷きながら感心している。


「その通り」


 何の変哲もないドアに【どこで門】カードの効果を付与させたのだ。

 ドアなのに門とは、これ如何にってね。

 ちなみに俺が許可した者しか通れないようにしてある。


「でもそれってセキュリティ上の問題がありませんか?」


 イリアは懸念の方が大きいようだ。


「大丈夫なんじゃない? 向こうにはアイラがいるから誰も屋敷の中には入れないよ」


 マヤの言う通りである。

 でなきゃ、こんな大胆な真似をしようとは思わなかったさ。


「それよりさー、なんかどの部屋もやたらと大きくて倉庫みたいなんだけど?」


「何を言っておるのじゃ、マヤよ。お主はここから移動しておらぬではないか」


 困惑顔で指摘するリム。


「影とつながって見聞きできる妖術を使ったんだよ」


「ほほう、居ながらにして離れた場所の様子を探れるとは便利じゃのう」


「あんまり遠いとダメなんだけどねー」


 満更でもなさそうにして笑みを浮かべながらマヤは胸を張ってドヤっている。


「とにかく、どういうことなのか説明してよね。あれじゃあ住みにくいったら」


「ここには住まないぞ」


「えーっ!?」


 マヤは驚きをあらわにし、リムやイリアもギョッとした表情を見せた。


「俺たちがここに住むとアイラは屋敷にひとりぼっちになってしまうじゃないか」


 異世界に一緒に行けないだけでなく帰ってきてからも別々っていうのはなぁ。


「「「あ……」」」


 俺の指摘に3人はばつの悪さを感じたのか意気消沈している。


「状況は刻一刻と変わるから臨機応変に対応しないとな」


 あんまりフォローになっていないが他に良い言葉が見つからない。

 屋敷に住まう上での懸念材料であるセキュリティもアイラのおかげで解決したも同然だし、逆に落ち込ませそうだもんなぁ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ