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31 なんでもから無限へ

 キラーホーネットどもはクイーンの死とともに事切れた。


「どうなってるんだ?」


 訳がわからない状況に戸惑いの色を消すことができない。

 集団自殺でもしたのかというくらい急に動きを止めてボタボタと落下していったからな。

 ありがたいと言えばありがたいが難を逃れたと思うからこそ緊張がゆるんで動揺するというものだ。


「どうやらクイーンを倒せば死ぬようですね」


 イリアはそう言うが、そんなことがあるだろうか。

 何というか俺たちにとって都合が良すぎるために得体の知れない気持ち悪さがあるのだ。

 罠にはめられているんじゃないのかとか勘繰ったりまではしないにしてもね。


 そもそも誰が俺たちを罠にはめようというのか。

 こっちの世界には俺たちのことを知る者なんていないはずだ。

 脂肪キングは俺の世界の無人島へ島流しにしたので戻って来られるはずはないし。

 奴の関係者にしたって俺が何処に消えたのかなんてわかるはずがないし気にもしていないと思う。


 それ以前に連中がこんな大がかりな魔物の群れを操ることができるとも思えない。

 できているなら勇者召喚などせず、こちらを軍事利用していたことだろう。


「おそらくクイーンの支配が強すぎるのじゃろう」


 リムがそんな推測を述べた。


「どういうことだ?」


「クイーンは配下のハチどもを手足のように扱っておったじゃろ」


 そこまで言われると、なんとなくわかったような気がする。

 手足のようにというよりはリモートコントロールできる手足と言うべきだったのだろう。

 見えない神経でつながっているというか。

 故に手足が失われようと耐えることはできても頭が死ねば残りの体も死に至る。


「そういうことかな」


 俺の仮説が正しいか聞いてみる。


「うむ。それ以外に考えられまい」


「それにしては知られていない話だな」


 【賢者の目】カードで検索をかけると確かにそうなってはいた。

 先にこっちを確かめれば良かったな。

 動揺していたせいか的確な判断ができなかったのは反省点だ。


「はい、私も知りませんでした」


 キラーホーネットの習性には詳しかったイリアも事実を初めて目の当たりにして目を丸くさせている。

 それだけレアな情報ということだ。


「当然じゃろ。こんな倒し方をする者が他におると思うか」


「う、確かにそうですね」


 先程の特攻にも似た攻撃を思い出したのかイリアが顔色を悪くさせている。


「いやまあ、安全は確保していたからな」


「心臓には良くありません」


 そう言われると反論しづらい。


「いずれにせよ他に真似のできる者もそうおるまいて」


 それには同意する他ない。

 クイーンだけを狙うには群がるキラーホーネットを無視しても大丈夫な防御力が必要になるからな。


 普通はキラーホーネットを駆逐しながら巣に近づいていくと検索した情報にも記載があった。

 で、損耗と殲滅のバランスを考えて最終的には途中で撤退することも珍しくないらしい。

 小さな巣であればともかく、中規模以上の巣になると徐々にハチの数を少なくしていくことで弱体化させ駆除するとある。


 今回の巣は大規模なものだったようで、本来であれば駆除には年単位で時間がかかっただろう。

 有り体に言ってしまうと非常識なことをしてしまった訳だ。


「そうなると、コイツらの素材で一攫千金とはいかないんだろうな」


「これほど巨大な巣は人の住む領域で発見されたことはないと思います」


「やっぱりかー」


 もったいない話だが素材を売りに出すのは避けた方が賢明なようだ。

 出所を探られることになるのは火を見るより明らかだし、そうなると俺たちが強者であると目をつけられることも考えられる。

 後ろ盾のない状態でそんなことになれば勧誘も激しくなるのは想像に難くない。

 あるいは事あるごとに都合のいい助っ人扱いされたりとか。

 そういうのは真っ平ごめんだ。


「少しなら大丈夫だと思います」


「そうなのか?」


「民間でもはぐれの駆除依頼が出ることがありますし」


 群れていないのが出没することもあるみたいだな。


「なるほど」


 いわゆる冒険者ギルドってやつか。


「できて間もない小規模な巣は依頼が出る前に潰すことが推奨されていますから」


「大きくなると被害も拡大しやすいからだな」


「はい。ですので報酬も出ます」


「それはありがたいね」


「でも、今回のクイーンは大きすぎますから出さない方がいいですね」


「だろうな」


 それはクイーンのサイズに見合うサイズの巣を殲滅した証しに他ならない訳で誰が討伐したのかという話になりかねない。


「まあ、回収はしておかないとな」


 亜空間に保管すれば腐ることはない。

 いつかは有益に使える日が来るといいなぁ。


「気が遠くなりそうですね」


 ドーム球場何個分なんだろうかという巣は大きいは大きいが単体だ。

 【なんでも収納】カードを使えば問題なく格納できた。

 問題はキラーホーネットである。


「何匹いるんだろ」


 弾き飛ばされてグシャグシャになったのだけでも軽く3桁を超えている。


「数えるまでもなく万の数はこえているであろうよ」


 リムさんや、それは言われなくても承知しているよ。

 答えを求めて聞いたんじゃなくて現実逃避が声になっただけだから。

 全部回収するなんて、すっごく大変なのは考えるまでもないことだろう?

 というより考えたくない。


「これ、何日かかるんだ?」


 回収できるだけして残りは放置という選択はないのが頭痛のタネだ。

 巨大な巣があった痕跡を誰かに知られる恐れが出てくるからな。

 このあたりにまで足を伸ばしてくる人間がいないとは言い切れない訳だし。


「何を言うておるか、主は。今日中に終わるに決まっておるではないか」


 リムが呆れ顔で嘆息した。


「どういうこと?」


「見える範囲のものは一度で収納できるであろう」


「いや、収納口がひとつなんだから無理だよ」


 収納する物のサイズは関係ないので誤解されやすいが、まとめて抱えたブツを放り込もうとしても入るのは一度にひとつだけなのだ。


「んー、改良するかぁ」


 【なんでも収納】カードの弱点もわかったことだしバージョンアップ……、いやモデルチェンジしよう。

 新たにイマジナリーカードを想像して【なんでも収納】の上位版カードを創造する。

 視野範囲にある同一種のものは数に関係なく収納できるのが必須条件だ。

 亜空間の中での分類もフォルダーに入れる感覚で可能にする。

 今までは分類してなかったからなぁ。

 検索できるので困ったことはないんだけど分かりやすい方がいいに決まっている。


 名付けて【無限収納】カードだ。

 ついでだから解体機能も追加しておこう。

 対象の単体もしくはフォルダーを指定して解体を指示することで自動的にバラしてくれるようにする。

 ゲームでは割とおなじみの機能なんだが今までは必要性を感じなくてつけてなかったんだよね。


 仕様が決まればイメージを固めるだけだ。

 ここは俺の得意分野なのでサクッと完成させてしまう。


「よしっ、できた!」


 でもって【なんでも収納】のカードをこれに放り込めば内容物が分類されて移し替え完了。


「何がじゃ?」


「新しい収納方法」


「何かとんでもないことを言っておる気がするんじゃが」


「カイさんですから」


 呆れているリムにイリアが失礼なツッコミを入れているが気にしな~い。

 どう考えたってイマジナリーカードは非常識なチートだからね。


「そんな訳で、まとめて収納だ」


 視野範囲にあるキラーホーネットが一気にガバッと消えた。


「おおっ、本当にできるようになったのじゃな」


「こんな短時間で……」


 リムは瞳を輝かせて喜びイリアはジト目でいささか呆れ気味である。


「当然」


 でなきゃ新カードを作った意味がない。

 とはいえ、まだまだキラーホーネットは残っている。

 トングからブルドーザーの大型バケットに変わったくらいの差だろうか。

 先は長いが、これなら今日中には終わることができそうだ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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