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29 シューティングゲームにはならない

 突撃してきたキラーホーネットが【反射の守り】カードの効果でバシバシと弾かれていく。

 勢いをつけたまま飛来したので反発力も相応にあるのだが、すぐに体勢を立て直す。

 おまけに表情筋なんてものがないから痛みを感じているのかダメージを受けたのかがわからない。


 ヴヴヴヴヴヴ


 独特の羽音をさせてホバリングしている姿を見るとダメージはともかく痛みはないのだと思う。

 あれ? 虫とかは痛みを感じたんだっけ?

 そのあたりは詳しくないので不明だ。

 それにコイツらは魔物だしな。

 普通のハチとは異なることがあってもおかしくない。


 そんなことを気にするよりも倒す方が先決だ。

 向こうは早々に体勢を立て直して再び突進してきている。


「タフだな」


 人があの勢いで衝突していれば【反射の守り】で弾き飛ばされる前に致命傷を受けていたはずだ。


「そんな呑気なことを言っている場合じゃないでしょう」


 オロオロした様子のイリアにツッコミを入れられた。

 キラーホーネットは凶悪な面構えをしているし完全に防いでみせても怖いものは怖いのだろう。

 俺などは特撮ヒーローものの強い敵怪人を連想してしまった。

 そんなのが数十匹もいる上にどんどん体当たりしてくるのであればイリアがビビるのも無理からぬことか。


「わかった、わかった。攻撃するよ」


 【念動力】カードを使いスクリュー釘を1本だけ撃ち出す。

 一度にすべてのキラーホーネットに対して攻撃しないのは釘が通用するか確認するためだ。

 かわされたり弾かれたりすれば撃った分だけ無駄弾になってしまう。

 もったいないのは罪だろう?


 ちなみに【遮断する壁】カードで展開した防壁は内側からは素通りするように設定している。

 でないと撃ち出した釘が防壁に阻まれてキラーホーネットに届かないからな。


 撃ち出されたスクリュー釘は勢いよく飛んでいき狙い通り堅そうなキラーホーネットの頭部に命中した。

 そのまま突き刺さってキラーホーネットの頭の中へ埋もれてしまう。

 思ったほど堅くはなかったが貫通もしないようだ。


「おいおい、その状態で動けるのかよ」


 頭の中に釘が刺さっているはずのキラーホーネットだが死なないどころか動きを鈍らせただけだったのだ。


「虫の魔物はタフなことで知られています」


 とイリア。

 これを知っているからビビっていたのかもしれないな。


「タフとかいう問題じゃないだろぉ」


 アンデッドじゃあるまいし頭に釘が刺さっても動けるなど尋常ではない。

 虫以外の魔物はそういうことがないらしいのが、せめてもの救いであると言えよう。

 それとキラーホーネットが回避する素振りを見せなかったのは有益な情報だ。

 スクリュー釘が細いせいで視認しづらいのか射出の速度に対応できないのか。

 当てるのが苦ではないものの今ひとつ決定打に欠けるのは問題である。


「シューティングゲームのようにはいかないか」


 ならばトドメを刺すのは後回しにして動きを封じるとしよう。

 スクリュー釘の束は亜空間に戻しつつ代わりの武器を引っ張り出す。

 今度は所々に切れ目が入った直径10センチほどの円盤である。

 ディスクグラインダー用の刃のひとつであるダイヤモンドカッターだ。


 これは石材などをカットするための金属の円盤である。

 名前から誤解されてしまうこともあるが決してダイヤモンドを切るためのものではない。

 切断する部分にダイヤモンドの砥粒が埋め込まれているからこそのネーミングだ。

 この砥粒が対象を削り落として切断するので鋭い刃はなく円盤も厚みがある。


 熱に弱いそうだが、それは高速で回転させて対象を削り切る本来の使い方をした場合の話である。

 摩擦熱がダイヤモンドの砥粒に影響するというだけなのでイレギュラーな使い方をする俺には関係ないけどな。

 大事なのは厚みから来る重量だ。

 手に持てばズッシリした感触がある。


 これを【念動力】で操作して複雑な軌道でジグザグに飛ばす。

 真っ直ぐに飛ばさないのは大きくなった分、キラーホーネットに回避される恐れを考慮してのことだ。

 結論から言うと、その心配はなかったのだが。


 今度は頭部ではなく別の場所を狙った。

 ターゲットにされたキラーホーネットはダイヤモンドカッターには反応せず俺たちの方を執拗に攻撃しようと突進を繰り返すのみである。


「飛べなくなれば満足に動けなくなるだろ」


 そう、狙ったのは羽だ。

 高速で飛び回る手段を失えば満足に動けなくなる。

 どんなに獰猛で執念深くても機動性を封じられてしまえば攻撃対象を捕まえることができなくなってしまう訳で。

 それは結果として強力なアゴや鋭い針による攻撃を封じることにつながる。


 ダイヤモンドカッターを操作し次々と羽を切り落としていく。

 いや、【念動力】で飛ばす勢いを利用して千切っていると言った方が認識としては正しいか。

 カッターと名はついているが刃がないからな。


 いずれにせよ羽を失ったキラーホーネットどもは次々と落下していく。

 残らず落とした後は今度こそトドメを刺す。

 満足に動けないキラーホーネットの首にダイヤモンドカッターをめり込ませる。

 そのまま千切るつもりだったが弾力性が高いのか勢いをつけてぶつけただけでは貫通しない。

 ならばと回転させて切断する。


「なかなかグロいな」


 頭部と胴体が完全に分断され体液が派手に飛び散っているので無理もないだろう。

 なにより、死んでいるはずなのにアゴや脚などが動いているのがヤバい。

 虫の生命力の高さがグロさをより強調していた。


 だが、気持ち悪さに眉をしかめている場合ではない。


「次が来るのか」


 いまの襲撃と同じくらいの数だ。

 威力偵察に出した奴らが戻ってこないから次の偵察部隊を編成したというところか。


「まだ来るんですか!?」


 イリアが頬を引きつらせながら聞いてきた。


「この連中は偵察に出てきた一部にすぎないんだろうよ。いまこっちに向かってるのはその第2陣ってところかな」


「そんなに沢山いるんですか!?」


「あんなの一部だよ」


「なっ!」


 イリアの表情が驚愕と恐怖が入り交じったものになる。


「そんなにビビらなくても対応できるのは証明しただろ」


「それはそうですが……」


「向こうはバカだしな」


「え?」


「自分が攻撃されているのに猪突猛進だし、戦力の逐次投入をしてくれてるじゃないか」


 いくら執念深くても頭を使わない奴の相手はやりやすい。

 最後までこのままでは終わらないだろうけどね。

 頭は悪くても本能で危機を察知する能力まで欠如しているとは思えないし。

 第2陣はこのまま同じように対処するとしても何か別の手を考えておくべきだ。


「イリアは攻撃系の魔法を使えたよな」


「はい。ですが最後まで持ちませんよ」


 魔力が続かないと言いたいのだろう。

 しかしながら俺が知りたいのは別のことだ。


「冷気を操ることは?」


「できますが」


「雷は?」


「威力は保証できませんが可能です」


「ほほう、イリア殿は優秀じゃな」


 リムが感心している。

 イリアに聞いた話だがこちらの世界の魔法使いで複数の属性の魔法を使えるのは珍しいそうだ。


「俺をこっちの世界に召喚したのがイリアだからな」


「なんと!? 世界間を行き来する切っ掛けを作ったのはイリア殿であったか」


「いえ、あれは……」


 未だに気に病んでいるようでイリアの反応が鈍い。

 思い出したくないというなら、この話を引っ張るのは良くないだろう。


「とにかくイリアの協力が必要だ」


「は、はい。頑張ります」


 まだ作戦を伝えていないんだが大丈夫かな。

 あれだけビビっていたことを考えると不安ではある。

 果たして、どうなるやら。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] …グルメ漫画のトリ◯で知りましたが、哺乳類との神経の違いで、虫ってバラバラにされても動き続けるらしいですよ!…ト◯コが敵の虫使いに苦戦するほどで、私も厄介な印象を持ってます! …てか虫は嫌い…
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