27 ドラゴンの姿で飛ぶのは禁止
結局、リムからは主と呼ばれることとなった。
俺が鬼畜呼ばわりされるのは我慢ならないそうだ。
インパクトのある単語をチョイスして正解だったな。
「さて、それじゃあ出掛けるか」
「主よ、何処へ行こうというのじゃ?」
不思議そうに首をかしげながらリムが聞いてきた。
「とりあえずドワーフの大勢いる国だな。デュエル国だったっけ?」
「はい」
イリアに確認を取ったが間違えてはいなかったようだ。
「人の足では結構な時間がかかる場所ではないか」
リムはそう言うが、麓の人里以外は何処も遠いのは【敵意レーダー】カードで把握済みだ。
少しバージョンアップさせて未知の相手は白い光点で表示されるようにした。
接触後も中立の黄色のままとは限らないからな。
何らかの理由により態度が明確だったり指示を受けるなどして対応が決まっている場合は見知らぬ相手でも最初から色がつく。
これにより麓の住民たちは、ほとんどが白色の光点となって脳内でレーダー表示された。
まれに青い光点がみられるのは神の山の上の方に住まう者に対して無条件に恭順しようと決めているのだろう。
知らんけど。
なお、もっと広い範囲で見ると人が多く集まる場所は何処も距離がある。
この静かな環境をずっとキープできそうなので俺にとっては好都合というかありがたい。
移動に時間がかかる問題はイマジナリーカードが解決してくれるしな。
「心配は無用だ。初めての場所でも飛んでいけば半日でたどり着ける」
「ほうほう、主たちは結構な速さで空を飛べるのだな」
リムが感心したようにウンウンと頷くが、イリアがギョッとした表情を見せた。
「わっ、私は無理ですよ」
慌てて顔の前で両手を振って否定している。
「カイさんのおまけですから」
飛べないのは事実だけど、そこまで卑下しなくても良いと思うのだが。
「別に飛ぶときの負担になっている訳じゃないんだし気にしなくていいって」
「ふむ、イリア殿は飛べぬか」
リムが腕組みをして考え込み始める。
とはいえ深くずっとという感じではなく、ちょっと考えを整理しようとしているように見受けられた。
そのせいか、じきにパッと表情を和らげて腕組みを解く。
「ならば妾が主たちを乗せて飛ぼうではないか」
何か突拍子もないことを言い出しましたよ、このお姉さん。
いや、ドラゴンの姿に戻れば俺たちを乗せるくらいは余裕のサイズだけどさ。
「それはまた別の機会にな」
「何故じゃ!?」
俺の返答にショックを受けたのか仰け反りながら驚愕の表情を浮かべている。
機嫌を損ねないよう完全拒否はしないように注意したつもりだったが、それでもダメなのか。
「人の大勢いる場所にドラゴンが姿を現したらどうなる?」
「人間どもは騒ぐじゃろうな」
騒ぐどころじゃないよ。認識が甘すぎる。
「ほとんどの人がパニック状態に陥って街は大混乱になるって」
「いやいや、それは言い過ぎじゃろう」
ハハハと笑いながら流されてしまった。
「麓に住まう人間たちは妾が姿を見せても騒ぎはせぬぞ。平伏はするがのう」
何故かはわからぬがと不思議そうに首をかしげている。
「それは身に染みてドラゴンの怖さがわかっているから刺激しないようにしてるだけだ」
「なんとっ!?」
本気で驚いているよ。
マジで自分が恐れられていることに気付いていなかったんだな。
リムは天然だったか。
いや、人間の常識に疎いと考えるべきかもしれない。
ほとんど交流なんてないだろうしな。
接触がなければ生の情報は入ってこない訳だし。
そう言えば今更ながらに思ったのだが、リムは人間の言葉を知ってるどころか流暢に喋っているのが謎だ。
「その調子じゃ、まともに人間と喋ったことも数えるほどしかないんだろう」
「うむ、ほとんどないのじゃ」
「それでよく人の言葉を喋ることができるんだな」
「下界の様子を魔法で覗き見しているうちに自然と覚えたのじゃ」
「暇人かっ」
「いいや、妾は歴としたドラゴンじゃ」
そういう意味じゃないんだが。
俺のツッコミを天然ボケでかわされるとは思ってなかったよ。
恐るべし、ぼっちドラゴン。
「暇は持て余しておったがのう」
「そんなの自慢にならないぞ」
「なんとっ?」
「そもそも面と向かって話をしなければ感情の機微なんてものは理解できないだろう」
毎日のように顔を合わせている相手でもわからないことがあったりするんだし。
「そういうものかの」
リムはいまひとつピンときていないようだけど。
イリアと視線を交わしたが同じことを考えているのがなんとなくわかった。
先が思いやられる。
「人間とドラゴンじゃ考え方も違うんだよ」
「ふむ、一理あるの」
それすら理解されなかったら、どうしようかと思ったよ。
「どんなに強がっても基本は臆病なんだよ」
「なるほど。平伏するのも道理じゃな」
「言っとくけど、そうするのは静かにしてればリムも暴れたりしないとわかっているからだぞ」
「よそに行けば違うというのじゃな」
「十中八九、さっき言ったような感じになると思う」
「言われてみれば、昔そういうことがあったような」
経験あるんかいっ。
だが、身に覚えがあるなら都合がいい。
「わかったろ? 俺としては騒ぎになるのは避けたいんだ」
でないと異世界間貿易も冒険者活動も夢のまた夢になってしまう。
「ううむ。残念じゃが仕方あるまい」
どうにか納得してもらえたようだ。
ならば、さっそく飛んでいくとしよう。
まずは【影の門】カードで岩山の内側から外に出て適当な岩場の上に立つ。
「おおっ!? 主は便利な魔法を知っておるのじゃな」
「魔法じゃないよ。まあ、似たようなものだけどさ」
「なんでも良いのじゃ。次は飛ぶのじゃろう?」
「ああ」
【台風の目】カードで空気抵抗への対策をしてから【念動力】カードで3人まとめて浮かび上がらせる。
「ほほう、本当に人の姿のままで飛べるのじゃな。愉快、愉快!」
どうやらリムの感覚からすると翼もないのに浮くことができるのは不思議なことのようだ。
それを言うならドラゴンの翼だって同じことだと思うんだが。
あの巨体を浮かせるだけでも相当な大きさが必要になるはずにもかかわらず、そう大きなものじゃなかったからな。
とはいえ、小難しく考えてもしょうがない。
飛べるものは飛べる。それだけだ。
「じゃあ、出発!」
目的の方角に向けて徐々に高度を下げながら飛び始める。
念のために俺を起点にした周囲の空間に【光学迷彩】カードを使って目撃されないようにしておいた。
ドラゴンが飛ぶ訳じゃないが人間だって飛んでいるのを目撃されれば騒ぎになりかねない。
神か悪魔かなんて噂になったらどうなることやら。
用心に越したことはない。
なお、空間に対して【光学迷彩】を使ったのは対象がひとつで済むからだ。
個別に3人分とか面倒だし俺たちが互いに視認できなくなるのもマズい。
おかげでイリアやリムには光学迷彩がかかっていることに気付かれていないんだけど。
外が見えなくなる訳ではないので特に説明する必要もないだろう。
あと移動すれば光学迷彩のかかった場所から出てしまうということもない。
そのために俺を起点にしたのだ。
イマジナリーカードだからこそできる芸当かもしれないが細かいことはどうでもいい。
できるんだからできる、それだけだ。
「主よ、この調子では日が暮れても到着できぬのではないか」
セーブして飛んでいるとリムから疑問を投げかけられた。
要するに遅いと言いたいのだろう。
「イリアが飛ぶのに不慣れだから徐々にな」
「それは仕方ないのう」
ダメ出しされるかと思ったが寛容な返事がもらえたようで助かったよ。
読んでくれてありがとう。
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