24 サイズが問題です
「考え込んでいても何も始まらないよな」
「そうですけど……」
イリアも同意見のようではあるが、解決策を思いつくことができないようで言い淀んでいる。
思いつけないなら、まずは問題点をピックアップしてみよう。
何か解決の糸口が見つかるかもしれない。
「ドラゴン自身の攻撃が跳ね返された結果とはいえ、やり過ぎだよな」
「はい。かなりドラゴンの機嫌を損ねたのではないでしょうか」
きっといまの状態のまま赤竜嬢が目覚めたら一悶着あると思う。
交渉に至れるまでの道のりは遠のいたかもしれない。
「まさかと思うが仲間を呼んだりしないだろうなぁ」
「それは大丈夫かと」
特に躊躇する様子も見せずにイリアは返事をした。
「神の山に住まうドラゴンは唯一無二の存在だと言われています」
その情報の信憑性が気になるところだが、とりあえずはスルーしておく。
大挙して押し寄せてくる恐れがないことだけは確実みたいだからね。
でなきゃ岩山に別荘を作ることはできなかっただろう。
あの時は留守にしていたのか眠っていたのか、とにかく何らかの理由によって気付かれなかった訳だ。
何十というドラゴンがいるなら、そんな幸運は望むべくもなかったはずだ。
故に赤竜嬢の身内か仲間がいるとしても数体程度だろう。
ただ、一番の下っ端だから様子を見に来させられたくらいは想定しておくべきか。
同じ手で撃退しようとしたけど通用しませんでしたなんてこともあり得るだろうし。
そんな訳で使ってみました毎度おなじみのイマジナリーカード。
【敵意レーダー】で神の山の周辺を探ってみたのだけれど。
「あー、うん。何もいないね」
先程までキレていた赤竜嬢の反応が赤ではなくなっているのが首をかしげたくなるところなのだが。
まあ、敵対するつもりがなくなったのなら好都合である。
神の山にもドラゴンのような大型の反応はないし。
「じゃあドラゴンのお姉さんと和解するか」
「へっ?」
俺の提案は思いっきり想定外だったようでイリアは呆気にとられた顔をさらしている。
思考停止すること数秒。
「どどどどういうことですかっ!?」
再起動したと思ったらバグったようにどもりながら詰め寄ってきた。
普段は沈着冷静な立ち居振る舞いをするイリアもドラゴンのこととなると泡を食うらしい。
「どういうことも何も向こうに敵対する意思がなくなってるんだよ」
「………………」
無言の間が訪れる。
ただし、目は口ほどにものを言うという言葉があるようにイリアからはジト目を向けられてしまったけれど。
イマジナリーカードを使うって先に言っておけば良かったな。
「でも、どうするんですか?」
「何が?」
「ドラゴンは気を失ったままなんですよね」
「それは何とでもなるだろう」
「だとしても空の上で和解の話し合いなんて落ち着かないですよ」
そうだろうか? そうかもしれない。
静止状態で浮きながら会談というのは足下がスカスカで心許ない気はする。
移動しながらであれば飛ぶということにいくらかは意識が向くため、あまり下を気にしないと思うのだけど。
今回はその必要がない状況だしな。
ただ、赤竜嬢をこちらに引き込むのは無理がある。
トンネル状に掘った通路は人間には余裕があっても巨体を誇るドラゴンにはその身を収めきることはできないからだ。
「そのためだけに拡張するのも何か違うしなぁ」
最悪、そうせざるを得ないけどね。
何か解決策はないものかと赤竜嬢に対して【賢者の目】カードを使ってみると説明文の中に面白い単語を発見した。
「へえ、ドラゴンって人化することがあるのか-」
「えっ!?」
俺の独り言にイリアが過剰に反応した。
「あー、イマジナリーカード使ってる」
「いえ、そうじゃなくて」
「何?」
「ドラゴンが本当に人化するとは思わなかったので」
「一般的には知られていないんだ」
「はい。あっ、いえ、ちょっと違いますね」
どっちなんだよ。
「おとぎ話の類いだと思われているので、ほぼ誰も信じていないのです」
信じるのは小さな子供くらいってことか。
それはドラゴンにとっては好都合ではなかろうか。
人の中に紛れ込んでもバレたりはしないのだろうし。
まあ、こんな場所に群れずに暮らしている赤竜嬢が好き好んで人里に行くのかという疑問はあるけれど。
「丁度いいや。人化してもらおう」
「その前にまず起きてもらわないといけませんよ」
どうやって起こすつもりですかと目で問われた。
強靭な巨体を鉄壁の鱗が覆っているドラゴンだからなぁ。
少々の刺激では目を覚まさない恐れがあるとイリアが懸念するのも頷ける。
だが、俺の考えていた順番とは逆なので引き込むことだけはできるはず。
「別に逆でもいいだろ」
「は?」
訳がわからないという顔を見せるイリアだったが説明はしない。
百聞は一見にしかず、である。
俺は立て続けにイマジナリーカードを2枚使った。
まずは望んだ姿に変身できる【変身願望】だ。
無防備な状態であれば他者も変身させられるのだが、ここで俺は【賢者の目】の情報を利用した。
赤竜嬢の人化した姿がわかるなら、その方がいいだろう。
【変身願望】ならば服を着た状態にさせられるからな。
さっそく使ってみたのだが。
「おや?」
カードが効果を発揮するためのイメージを送り込んでいる間に変身が完了していた。
「ななな何ですか?」
「いや、大したことじゃない。強制的に変身させようとしたら勝手に人化した」
「はあっ?」
おそらく【変身願望】の発動を切っ掛けに自動で人化したのだろう。
無意識下でも人化できるとは思わなかったがありがたい。
懸念していた素っ裸で人化することもなかったし。
人化した赤竜嬢の少し紫がかった濃い赤の巻き毛は燃えさかる炎のようで勝ち気そうに見える面立ちを強調しているかのようだ。
服装も動きやすさを重視しているのかパンツルックである。
出るところが出ていなければ男に間違われそうだ。
顔を見れば違うとわかるんだけどね。
ヅカファンな女子や百合系の人たちには受けが良さそうである。
とにかく、これで赤竜嬢は人間サイズになった訳だ。
大きさの問題は解決したので続いて【影の門】カードを使って彼女を引き寄せた。
いつまでも【念動力】で浮かせたままなのも何なのでソファを引っ張り出して横たわらせる。
向かい側にもうひとつソファを出して俺たちも座った。
「ここからどうするんですか? 彼女が目覚めるまで待つつもりはないんですよね」
「こうする」
俺は【なんでも収納】カードを使って亜空間からミネラルウォーターを引っ張り出し水滴を垂らした。
ピトッ
「……そんなので大丈夫なんでしょうか?」
「さあ? まずは穏便にやってみようと思ったからこれにしただけなんだけど」
「そんな適当な」
「いきなり過激なのを試すより安心だろう?」
「それはそうですけど……」
イリアは困惑の表情を浮かべていたが、不意に目を見開いて驚きをあらわにする。
「過激なのを試すって何をするつもりなんですかっ!?」
「ん? 殺傷力はない方法だから危険はないぞ。耳はちょっとツーンとするかもしれんが」
「それは私たちにもダメージがある方法では?」
イリアは察しがいいようだ。
俺が爆音を聞かせるつもりだということに気がついたらしい。
もっとも半分は不正解だが。
「俺たちは大丈夫だ。ヘッドホンを被せてデスメタルを聞かせるだけだから」
昔、イジメで使われた方法だけど相手はドラゴンだからこのくらいでは鼓膜が破れたりはしないだろう。
仮にそうなったのだとしてもイマジナリーカードで治癒するけど。
まあ、何をしても起きなければの最終手段である。
そう簡単に使うことにはならないだろう。
たぶん……
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