18 怪盗と悪霊?
社長室に入るだけならイマジナリーカードがあるので問題はない。
【監視カメラ】は任意の位置に送り込めるので、これと【モニター】を使って先に向こうの様子を確認。
【光学迷彩】で見えなくしておいて【影の門】で中に入る作戦だ。
ただ、そこから先の家捜しは問題がある。
ここの監視カメラは録音はしないので物音などに気を遣う必要はないだけマシと言えるのだが。
それでも引き出しが開いたり机の上のものが移動したりすれば社長が設置した監視カメラで記録されてしまう。
半ばホラーな動画が残ってしまうことになる訳だ。
ポルターガイスト現象とか言われるんだろうか。
テレビ局とかに売れそうだよな。
ただ、証拠がなくなれば社長たちは戦々恐々とするだろう。
ホラーな映像におののくことも忘れて透明人間が証拠を探していたとか言い出すかもしれない。
社長が怪奇現象と誤認してビビるのかは何とも言えないところだが、証拠の発覚を恐れて何らかの行動を起こすことだけは間違いあるまい。
それは望ましくないことだ。
証拠隠滅されないよう捜査機関が動き出すまで社長には油断しておいてもらわないと。
「さて、どうするかな」
などと言ってみたが困っている訳ではない。
切り札は俺の中にある。
問題はどのイマジナリーカードを使うかだ。
「よしっ、【サーチ】を使おう」
これは指定したものを探し出してくれるカードだ。
今回の場合は粉飾決算の証拠を指定する。
事前情報が乏しいせいで具体性に欠けているのは仕方がない。
証拠は裏帳簿だけではないはず。
社長と経理部長のやりとりのメモやメールなんかもないとは言い切れないだろう。
他にも俺が想定していないような思わぬものが証拠になることもあるかもしれないし。
が、イメージで想像されるイマジナリーカードであれば問題はない。
曖昧な条件であっても【サーチ】を使えば即座に反応が出る。
「ちっ、面倒な」
思わず舌打ちしてしまったが、社長が使用するノートパソコンも証拠になるという反応が出たせいだ。
他にも机の後ろにある大きな本棚に収められたファイル。
おそらく裏帳簿とかだろう。
これも社長が設置した監視カメラに写るので一筋縄ではいかない。
「こういうことで、あまり使いたくないんだがなぁ」
生き物以外であればありとあらゆる物を複製できる【秀逸な贋作】カード。
問題なのはオリジナルを視認する必要があるとはいえ完璧なレプリカができてしまうことだ。
もしも名画なんかを複製したら、どちらもオリジナルということで大混乱を引き起こしてしまうだろう。
もちろん本棚のファイルは言うに及ばず社長のノートパソコンだって中身のデータまで複製してしまえる訳だ。
そのこと自体は助かるのだけど。
これに頼りすぎると感覚が麻痺してしまいそうになるんだよなぁ。
当たり前のように使っているうちに罪悪感が薄れてしまったら法律に触れるようなヤバいものまで複製しかねない。
そうならないよう、このカードだけはなるたけ使わぬよう自重しているのだ。
そうは言っても美味しいものをもっと食べたいなんて時には、ついつい使ってしまうんだけどね。
「今回は社長の犯罪を暴くためだ」
腹をくくって【秀逸な贋作】を使う。
視認していれば離れていても問題はない。
目の前に社長室にあるノートパソコンとファイルが出現した。
中に入らずとも証拠がゲットできたも同然だが、これで終わりではない。
複製品なのに本物そっくりなのは問題だ。
でっち上げとか言われかねないし説明のしようがないのでデータもファイルもコピーしたものを証拠として提出する必要がある。
どうやって入手したかは永遠に謎になるだろうけど。
ファイルの方はコピー機でコピーする。
ただし、こんな時間に会社の機材を使用すれば侵入したことがバレる恐れがあるので脱出してからだ。
自前の複合機があるので、その辺は何ら問題はない。
いや、コピーに時間がかかるという問題はあるか。
証拠の確保は急ぐべきだと判断したから今ここにいるんだし。
「今夜は徹夜になるかな」
怪盗気取りのテンションが一気に冷え込んでしまったさ。
せめてもの救いはノートパソコンの処理がファイルほど手間ではないことだろう。
ノートパソコンの方には打って付けのイマジナリーカードがあるからな。
イマジナリーカードで収集したデータを任意の媒体に記録できる【データコピー】カードは何度かブラッシュアップしたことでデジタルデータの吸い出しも可能になっている。
さっそく【データコピー】を使って外付けハードディスクにデータを移しにかかる。
後でデータを精査して必要なものだけUSBメモリにコピーするつもりだ。
これも手間だとは思うが乗りかかった船だし仕方がない。
いや、中のデータも【サーチ】カードで選別してから再び【データコピー】を使えばいいのか。
とにかくハードディスクへのコピーが完了すれば社長のノートパソコンは用なしだ。
これには【なんでも収納】を使う。
本来の使い方は亜空間への収納ではあるが、廃棄も可能にしてある。
ただし、廃棄してしまうと二度と戻って来ないので使う際には慎重さが求められるけどね。
「まあ、コイツに未練などないがね」
躊躇うことなくノートパソコンを廃棄する。
廃棄の場合は黒い穴が出現するので収納と間違うことはない。
ファイルもそうする予定だがコピー機でコピーしてからになるので普通に亜空間へ収納した。
「任務完了。撤収だ」
【どこで門】カードを使おうとしたところで異様な気配を感じた。
「おいおい、誰かいるのかよ」
そんなはずはないと軽口を叩きながらも背筋が凍るような寒気がする。
しかも寒気はどんどん増していく。
「マジか……」
この感覚には覚えがある。
あれはイジメの首謀者が死んで間もなくのことだった。
就寝時に今と同じような異様な気配を感じて寒気がしたと思ったら金縛りにあったんだよな。
それだけじゃなくて首を絞められたから堪ったもんじゃなかったさ。
目を開いても誰もいないのに、どんどん苦しくなっていくあの感覚は悪夢以外の何ものでもなかった。
飛び起きようにも金縛りで動けず声も出せないから助けも呼べない。
イマジナリーカードがなければ死んでいたかもな。
あの時の見えざる敵は正体は首謀者の死霊だった。
見えなくても目の前にいるのは間違いなかったので【賢者の目】カードを使えば判明したよ。
逆恨みして悪霊化したんだと。
迷惑な話だ。
人が痛めつけられたり死んだりすることには罪悪感も抵抗感もないのに自分がその立場になると微塵も受け入れられないとか何様のつもりなんだろうね。
反撃される覚悟のない奴が好き勝手してんじゃないっての。
まあ、そういう常識が著しく欠落した輩だったから平気で他人を虐げることができたんだろうけど。
「あれの同類なのか?」
せっかく証拠を回収できたというのに悪霊発生イベントなんて勘弁してほしい。
そもそも今回は恨まれる相手がいない。
いや、逆恨みしそうな奴はいるか。
元上司はまだ死んではいないはずだけれど。
「冗談キツいんですがね」
愚痴りながらも対応すべくイマジナリーカードを脳内で展開する。
怪しい気配を感じるとはいえ前回と違って目の前にいるかどうかがわからない。
今も使用中の【闇夜の目】では霊の存在を目視できないせいだ。
近寄ってきていると感じはするが、どの方向からかまでは感知できないのが不利である。
そんな訳でまずは【遮断する壁】で見えない壁を俺の周囲に展開し防御しておく。
見えない敵には見えない壁ってね。
続いて【敵意レーダー】を使う。
前に異世界で使った時は対人レーダーとして対象を絞ったが、今回はそうではない。
何であれ俺への攻撃意思があれば赤い光点が脳内で表示されるため霊にも有効だ。
この近辺では赤い光点しかない。
バチバチッ!
背後で【遮断する壁】によって構築された見えざる障壁が何者かを拒む音がした。
「結構、派手な音がしたなぁ」
振り返るが敵の姿は見えない。
ならば、今こそ見えざるものを見えるようにする【裏の瞳】を使う時だろう。
イジメの首謀者の悪霊に襲われた一件の後にいつか使う日が来るかもと創造したイマジナリーカードだ。
まさか本当に使う日が来るとはな。
さぁて、どんな悪霊が俺に襲いかかってきたんだ?
読んでくれてありがとう。
ブックマークと評価よろしくお願いします。




