じゃあ、言わせてもらうけど。
「沙恵子は俺にどんな施しをしてくれるわけ?」
透は今までに顔を赤く染め静かに言い放った。
その表情は7年間一緒にいて今まで一度も見たことがなかった。
「施しって何?透は神様にでもなったつもり?もういいよ。」
気付いた時には財布とスマホを持って、部屋を飛び出していた。
わかってる。透が言いたいことは痛い程わかっている。
でも、あの言い方はないよ。午後10時。開いてるお店なんてこんな田舎にはない。
それでもあの部屋にいたくなかった。透の顔なんて見たくなかった。
9月の終わり、夏の暑さがまだまだ抜けきらない蒸し暑い夜に沙恵子は行く当てもなくただただ泣きながら歩いていた。
透と出会ったのは、新卒で入った事務用品を扱う会社だ。
沙恵子より3歳年上の透は、沙恵子のメンターとしてついてくれた。
沙恵子自身、振り返ってみてもおかしいと思うが、沙恵子の一目ぼれだった。
「私はこの人と結婚する。」昔テレビ番組で大物女優が言っていた。
「電気が走ったかのように、この人と結婚するなって思ったんです。」
当時はありえない話だと思った。そんなはずあるわけない。
大袈裟に言い過ぎた。と呆れていた。むしろ、小馬鹿にしたぐらいだ。
いい歳をして、よくこんなことが言えるな、と思ったぐらいだ。
なのに、あの時馬鹿にした大物女優と同じことを今自分は感じている。
恥ずかしかった。今の今まで忘れていたのに、何で今頃思い出しちゃうの…。
それでも、高鳴る鼓動を隠し切れなかった。
1か月も経たないうちに、沙恵子から透に猛アタックが始まったのだった。
面白ければ、ブックマーク、評価をお願い致します。