第7話 おっさん、パンを売る
「助手、来いアルマ」
露店の場所でアルマを呼び出した。
「ただでこき使って悪いな。魔石に魔力を充填してみてくれ」
「ええよ。最近は二重生活にも慣れたわ」
魔石の充填はやってみたが、駄目だった。
魔力は少しも充填されない。
「この草の名前は?」
俺は道端の雑草を指差した。
「ホキカ草や」
「凄いな。分かるのか」
「頭に浮かんだんや」
凄いぞ鑑定が出来るのか。
チートだな。
あと分かっているのはビーコン機能だな。
「この街の地図が書けるか」
「出来るわぁ。行った事がある所だけや」
マップ機能もありか。
「ホキカ草は食えるのか」
「ええ、胃にええ成分が少し入っているわ」
「意外に使えるな」
「使えるって何や。うちは有能やで。失礼してまうわ」
「悪い。お宝が眠ってる所が分かるか」
「無理や」
「これは駄目か。看板の字が読めるか」
「酒屋ヤルクムや」
文字の翻訳もばっちりだな。
能力は大体分かった。
これから俺が目指すのはダンジョン攻略だ。
それをしないとレベルが上がらない。
が一つ問題がある。
俺が酔った時に言った願いで、大器晩成と願ったのだ。
おかげで、経験値が固定になってしまった。
普通の人が経験値10でレベルが2になるとする。
俺のは経験値10万でレベル2だ。
だが、良い点もある。
普通の人がレベル3になるのには経験値が40要るのに対して、俺は10万固定だ。
いくらレベルアップしても10万固定。
レベルが上がれば上がるほど有利になる。
もっかの問題は戦闘力で、助手は頼りにならない。
俺がレベル1から上げるのは至難の業だ。
やっぱり、しばらくは物を売って暮らそう。
助手を最大限に生かす仕事も考えないと。
そうだ、掘り出し物だ。
骨董の安いのも売ってるはずだ。
鑑定が使えるのなら、偽物と本物も見分けられると思う。
露店で安く仕入れた骨董も売ってみよう。
「まだ、無能扱いした事を怒ってるんやさかい」
「ごめん。お詫びにレベルが上がったら、通販スキルで好きな食べ物をだしてやるよ」
「うちはそない安い女ちゃう」
「カップ麺、好きだろう」
「カップ麺の仕入先が分からなくて、食べられなくて苦労してたんや。ええやろ機嫌直したる」
隣の露店には絨毯が敷いてあって、綺麗な石が並べてある。
どれも銅貨1枚だ。
綺麗な石だが、特別な宝石でもない限り安いのは分かっている。
念のためだ。
「アルマ、鑑定を頼む」
「右から三番目のが、金貨1枚や」
俺は右から三番目の石を手に取った。
これが宝石の原石か。
傷があって色のついたガラス玉と違いが分からない。
鑑定を信じよう。
銅貨1枚で金貨1枚をゲットしたぜ。
だが、露店では売れないな。
買って行く奴もいないだろう。
俺は宝石店に入った。
「先祖が残してくれた宝石の原石だ。買い取ってくれ」
「拝見いたします。ふむ、銀貨80枚でいかがでしょう」
少し安いが良いか。
「よし、売った」
「ムニ言うたな。少し見直したで。商売上手いやん」
「アルマの鑑定があるおかげだ。拝んでも良いぐらいだ」
「持ち上げても、絆されたりせえへんからな」
「素直にそう思っただけだ」
今日は働かなくてもいいな。
だが、料理人と約束がある。
いつもの場所に座っていると料理人が現れた。
「ほれ、約束のパンだ」
「パンだといくら高級でも一つ銅貨5枚しか払えない」
8枚だから、銅貨40枚だな。
2リットルの水より高いが、玉子よりは安い。
「ふむ。うぉ、これは。絶句するしかないな。美味すぎるパンだ。うちのレストランで特別な客に出すのに相応しい」
ただの食パンなんだがな。
「気に入ってくれて何よりだ」
「製法は知ってるのか。おい、どうなんだ」
料理人が気色ばんでいる。
「果物を水に入れてパン種の素を作るんじゃなかったかな」
「ほう、それは試した事がなかった。果物は高いから、何度も試せないな」
「とにかく頑張れ」
「ありがとよ」
料理人が去って行き、通行人が集団で歩いてくるのが見えた。
「バラム様がただで水を恵んでくれるらしい」
「そいつは急がないと」
通行人がそう言って通り過ぎた。
水をただで配るのか。
人気取りの一種なんだろう。
今日の仕事は終わったし行ってみるか。