第19話 おっさん、サンドシャークダンジョンに行く
イゼゼオアシスでの交易は終わった。
モレクが30頭に成人女性33人。
それに子供51人の大所帯だ。
子供は全員浮浪児だ。
成人女性は職がなくあぶれていた者たちだ。
食い詰めて明日を知れない命。
特殊技能は全員もってない。
持っていたらそんな環境にはないだろう。
鍛冶屋や生産職がいれば楽なんだが、そんなに都合の良い訳がない。
農家出身が何人かいるだけだ。
家事は一通りできそうだが。
子供はなにもできない。
できるのはかっぱらって走る事だけ。
食事を与えているから俺達に従っているが、食事が無くなった途端に離反するだろう。
忠誠心の欠片もない。
シミュレーションゲームで最悪のスタートを切った感じだ。
何もかもがない。
武将すらいない。
税収も上がってこないし、戦争なんて以ての外だ。
侵略する余裕など、どこにもない。
唯一の戦争行為がダンジョン討伐だ。
これしか現状生き残るすべがない。
サラクオアシスに戻ると俺はさっそくダンジョンの準備を始めた。
モレクにまたがって、エリナをお供にサンドシャークダンジョンに向かう。
二人だけではない。子供10人を引き連れてだ。
チョコレートを褒美にやると言ったら、こぞって志願した。
児童労働待った無しだ。
武装は玩具のスリングショット。
その値段200円。
モレクは群れで生きる生き物なので、俺がモレクに乗って先導すると後を黙々とついてくる。
子供達がはぐれる心配はない。
二日でサンドシャークダンジョンに着いた。
さあ、魔力通販二日分のロスを取り返すぞ。
ダンジョンは砂の丘にぽっかりと入口を開けていた。
中に入ると砂漠のうだるような暑さではなくて、ひんやりとして涼しい。
床は砂で天井も壁も砂だ。
壁を殴ってみたが硬かった。
砂岩という奴だろうか。
「よし、小石の袋は持ったな。撃ち方始め」
子供達がでたらめに小石をスリングショットで放つ。
地面が割れ、サンドシャークの口が現れた。
口は30センチほどだ。
マイクロサンドシャークだな。
「唐辛子、撃て」
1キロ1000円の安い唐辛子をご飯粒で固めた物を子供達が放つ。
10人も連続で撃てば一人ぐらい当たるというもの。
見事、口の中に唐辛子が入りマイクロサンドシャークが魔石になった。
ダンジョンのモンスターは肉体を残さない。
魔石のみを残す。
どういう仕組みでこうなっているのかは分からないが、俺はダンジョンのモンスターは魔力のみで出来ていると考えている。
生き物ではなく機械の方が近いとみている。
「魔石もーらいっと」
子供が駆けて行って魔石を拾う。
「こらこら、気をつけろ。サンドシャークがいるかも知れない」
「分かってるさ」
「やった、レベルアップだ」
攻撃を成功させた子供がレベルアップしたようだ。
「よし、魔力回路でチェックだ」
魔力回路に子供が触ると光の棒が伸びた。
俺はそれを定規で測る。
台帳と見比べて上がったかどうか判断する。
上がっているな。
「ボーナスのビーフジャーキー1袋だ」
「やった。これ好き」
「次のレベルアップではボーナスはたい焼き3個だ」
「よし頑張る」
「慎重に進むぞ。接近戦になったら、唐辛子を撒いて撤退だ」
先導する俺の足元が割れた。
不味い。
唐辛子の玉を投げながら撤退する。
子供達はというと俺が声を掛けるより前に撤退していた。
さすが元かっぱらいだ。
行動が素早い。
見るとエリナが腕をマイクロサンドシャークの口に突っ込んでいた。
怪我をしないとは言え心臓に悪い光景だ。
腕には唐辛子を握っていたのだろう。
ミニサンドシャークがのたうち息絶えて魔石になる。
「エリナ、でかした」
「だって私は無敵なんでしょ」
「でもな。その体については分かってない事もある。欠損は治るのかとか。死ぬような怪我になったらどうなるとか。まさか試してみる訳にもいかないだろう」
「気をつけるわ」
仕切り直しして、慎重に進む。
何回か戦闘を繰り返し1階層のボス部屋の前に辿り着いた。
ボスはマイクロサンドシャークより二回り大きいだけの敵だった。
ミニサンドシャークと名付けた。
標的が大きくなったので、あっけなく退治。
次の階層に歩を進めた。