22 真犯人、暴れる
その隠子にさっきまでの穏やかな表情は微塵もなく、
まるで別人ような鋭い目つきで、目の前の太刀を睨みつけている。
それがまだ信じられない撫子は、思わず隠子にこう言った。
「ほ、本当に、あなたが犯人なの?」
すると隠子は撫子の方に振り向き、
「ああそうだよ!」
と叫ぶと同時に、左腕でガバッと撫子の首を絞め上げた。
「きゃっ⁉」
「あっ!バカ!」
太刀がそう声を上げたが時既に遅く、隠子は撫子の首を絞めたまま、
スカートのポケットから小型のナイフを取り出した。そして、
「動くなぁっ!」
と叫ぶと同時に、隠子はそのナイフを撫子の頬に当てた。
「きゃあっ⁉」
「乙子ちゃん!」
悲鳴を上げる華子と笑美。
そして愛雛先生が、
「都乃方さん⁉あなた自分で何をしているのか分かっているの⁉」
と声を上げたが、隠子は、
「分かってるよ!」
と乱暴な口調で返し、再び太刀を睨みつけて言った。
「せっかくいい小遣い稼ぎだったのによ、てめぇのせいで全部台無しだ!」
「そいつは悪い事をしたな。
わびと言っては何だが、二度と女装などできなくなるよう、
その端正な顔をボコボコにしてやろう」
太刀はそう言いながら、後ろ襟に手を回し、背中から木刀を取り出そうとした。
しかしそれを見た隠子が、
「おっと、妙な事しやがったらこの女の顔に傷がつくぜ?」
と言いながら、あくどい笑みを浮かべた。
それに対して太刀は目を細め、手に持った背中の木刀を離した。
「太刀お姉さま!私の事はいいですから、この女装盗撮魔をやっつけてください!」
撫子は隠子に首を絞められながらそう叫んだが、
太刀は黙ったまま首を横に振った。
そしてそれを見た隠子はさも愉快そうに笑いながら言った。
「ぎゃははっ!そうだそうだ!
お前はそうやって大人しくしてろ!俺がここから逃げるまでな!」
そして隠子は撫子を連れて、ジリジリと保健室の出入口に近づいて行く。
太刀を始めとする周囲の人間は、それをただただ見ているしかなかった。




