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紳士クンの、割と不本意な日々  作者: 椎家 友妻
第一話 紳士クンの入学式
9/103

5 彼女はスゴクキレイ

そんな中、撫子が彼女に向かって言った。

 「れ、(れい)お姉さま⁉」

 「え?お姉さま?」

 撫子の言葉に、紳士クンは目を丸くした。

 (お姉ちゃん、この人の事知ってるの?しかもお姉さまってどういう事?)

 と紳士クンが頭の中で考えていると、令と呼ばれた彼女が、

空に輝く太陽の様に眩しい笑顔で口を開いた。

 「あら、撫子さんだったのね。ゴメンナサイ、怪我はなかった?」

 「あ、はい!全然大丈夫ですよ!」

 撫子は一転して笑顔になって言った。

 「そう、それは良かったわ。あら?」

 頷いた令は、紳士クンの背中を見て目を丸くした。

 「その子の背中、水びたしじゃないの。

もしかして、この車で水を跳ね上げてしまったのかしら?」

 「申し訳ございません令お嬢様。このわたくしの失態で、

お嬢様のお知り合いにご迷惑をかけてしまいまして・・・・・・」

 運転手の老人は、そう言って令にも頭を下げた。

すると令は「大丈夫よ」と老人に返し、紳士クンのすぐ近くに歩み寄った。

 「う・・・・・・」

 撫子から身を離し、思わず後ずさる紳士クン。

間近で見る令は一層美しく、それが紳士クンをひと際緊張させた。

そんな紳士クンに、令は申し訳なさそうに言った。

 「あなたの制服をダメにしてしまってゴメンナサイ。

この弁償はこちらでさせて頂くわ」

 「あ、え、えーと・・・・・・」

 緊張のあまり、何を言っていいのか分からない紳士クン。

その紳士クンに、撫子が言った。

 「いい機会だから紹介しておくわ。

こちらはエシオニア学園で生徒会長をなさっている、(すご)茎令(くきれい)様。

私も生徒会に入っているから、学園ではいつもお世話になっているの」

 「凄茎令です。よろしくね」

 撫子の紹介を受け、令はそう言って紳士クンに微笑みかけた。

それに対して紳士クンは、

 「あ、は、はい、どうもです・・・・・・」

 と返すのが精一杯だった。

するとそれを見た撫子が、たしなめるように紳士クンに言った。

 「こら紳士、令お姉さまがご挨拶してくださったのに何なのよその態度。

あんたもちゃんと自己紹介なさい」

 「う、うん・・・・・・」

 撫子に促され、紳士クンはおずおずとした口調で令に自己紹介をした。

 「えと、ボク、蓋垣紳士っていいます。その、お姉ちゃんがいつもお世話になっています」

 「こら!そういう時は『お姉ちゃん』じゃなくて『姉』でしょ!」

 と撫子。

 「うう、ゴメンナサイお姉ちゃん・・・・・・」

 ヘコむ紳士クン。

するとそれを見た令は、クスクスとおかしそうに笑って言った。

 「別に構わないわよ。それにしても二人はよく似てるわね。

紳士ちゃんって、撫子さんに似てとっても可愛いわ」

 「な、何を仰るんですか令お姉さま⁉」

 撫子が慌てた声を上げる。

一方可愛いと評された紳士クンは、内心複雑だった。

そんな紳士クンに、令は続けて言った。

 「ところで紳士ちゃんは男子部の制服を着ているけど、もしかして、男の子なの?」

 「えぇっ⁉もちろん!ボクは男です!」

 あまりにショッキングな質問に、さすがの紳士クンも思わず声を荒げた。

しかし令はそれを気にするでもなく続けた。

 「それは残念ね。紳士ちゃんだったら、

将来とってもステキなレディーになれると思ったのに・・・・・・」

 「レ、レディー・・・・・・」

 令の言葉に、紳士クンは呆然となった。

するとそれをかばうように、撫子が令に言った。

 「あ、あの、令お姉さま?この子はですね、

この女の子みたいなルックスにコンプレックスを持っているんです。

だからエシオニア学園の男子部に入学して、男らしい男に生まれ変わろうとしているんです」

 しかしそれに対して令が次に言った言葉はこれだった。

 「男らしい男になんかならなくてもいいから、

女子部の方に入学しちゃうっていうのはどうかしら?」

 「どえぇっ⁉だ、ダメですよ!何て事言い出すんですか⁉」

 令の爆弾発言に、今度は撫子が声を荒げた。

すると令は心底残念そうに、

 「その方がきっと面白いと思うんだけどなぁ・・・・・・」

 と呟いた。

 「面白いっていうだけで、私の弟の人生をもてあそばないでくださいっ」

 「あら、残念」

 撫子の言葉に令は少し唇を尖らせたが、すぐに笑みを浮かべてこう言った。

 「まあいいわ。とりあえず二人とも、学園まで送るから車に乗って?」

 「え、そんな、悪いですよ」

 撫子は恐縮してそう言ったが、令は首を横に振って続けた。

 「迷惑をかけたのはこっちなんだから、それくらいさせてちょうだい。

向こうに着いたら、紳士ちゃんの制服のお詫びもちゃんとさせてもらうから」

 「どうか送らせてくださいませ」

 そう言って運転手の老人も頭を下げる。

かくして紳士クンと撫子は、令の車で学園まで送ってもらう事となった。

ちなみに紳士クンと撫子が車に乗り込んだ時、

令は一瞬ニヤリと不敵な笑みを浮かべたのだが、二人はそれに全く気づかなかった。



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