14 紳士クン、なり切る
そんな二人に、令が声を潜めて言った。
「二人とも、そんなぎこちない動きじゃあすぐに周りにバレちゃうわよ?
特にタッちゃんに」
「そ、そうは仰いますけど、結構難しいですよ、これ」
令の言葉に撫子はそう返し、紳士クンもそれに相槌をうつ。
しかし令はニコッと笑いながら言った。
「大丈夫。二人は見た目も声もそっくりなんだから、堂々としていればバレないわよ」
しかし紳士クンと撫子は、
(そうかなぁ・・・・・・)
と、心の中で不安に思いながら、大きな溜息をついた。
するとその時、前の方から、
「コラ、遅いぞ」
という声が聞こえ、不機嫌そうな顔をした太刀がやって来た。
そしてそれを見た紳士クン役の(・)撫子が思わず何かを口走りそうになったが、
それより一瞬早く、令が太刀に言った。
「おはようタッちゃん、今日もいい天気ね」
それに対して太刀は、怒りのこもった口調で答える。
「天気なんかどうでもいい。
それより今日は例の件の打ち合わせをするから、
早めに登校しろと言っておいただろう」
「ゴメンなさい。乙子ちゃんの事を待っていたら、遅くなっちゃって」
そう言って令は、身をすくませた撫子の方を見た。
その視線を追って、太刀も撫子を見やる。
その撫子は反射的に目を逸らし、顔を俯けた。
そんな撫子の行動を不審に思ったのか、太刀は目を細めた。
そして撫子に対し、
「おい、お前は──────」
と、何かを言いかけた時、傍に居た撫子役の(・)紳士クン(・・)が、
それをさえぎるように撫子に言った。
「乙子、私達は今から生徒会の用事があるから、先に行ってていいわよ」
紳士クンのその言葉には、さっきのようなぎこちなさは無く、
いつも撫子が紳士クンに言う時と、全く同じ様な口振りだった。
それに対して撫子は一瞬声を詰まらせたが、すぐに
「う、うん、分かったよお姉ちゃん」
と言って、
「それでは令お姉さま、太刀お姉さま、ボクはここで失礼します」
と令と紳士クンに一礼をし、小走りに校舎の方に駆けて行った。
「また後でね~、乙子ちゃ~ん」
走り去る撫子の後姿に、令は手を振りながら言った。
一方太刀は、そんな撫子の後姿を見送った後、紳士クンの方に顔を向け、
その顔を真っ直ぐに見据えた。
それに対して紳士クンは、ニコッと笑いながら言った。
「私の顔に、何かついてますか?」
「・・・・・・」
太刀は数秒間、黙ったまま紳士クンの顔を見詰めた。
そしてその後、こう尋ねた。
「お前は(・)、撫子か(・)?」




