13 いい考えというヤツ
翌日の朝、紳士クンと撫子と令の三人は、一緒にエシオニア学園の正門をくぐった。
そして令は、撫子の右腕に自分の左腕を組みながら言った。
「ウフフ♡今日もいい天気ね、乙子ちゃん(・・・)♡」
それに対して撫子は、ぎこちない口調でこう返す。
「や、やめてください令お姉様。ボク(・・)、恥ずかしいです・・・・・・」
その撫子に紳士クン(・・・・)が、これまたぎこちない口調で言った。
「お、乙子ったら、何顔を赤くしている、のよー」
それに対して撫子が、再びぎこちなく答える。
「そ、そんな事ないよぅ。お、おね、お姉ちゃん」
このやりとりから分かるように、今日の紳士クンは撫子で、
一方の撫子は、紳士クンなのだった。
これが昨日令が言っていた、いい考えというやつだった。
紳士クンと撫子は、性格こそ正反対だが、見た目と声はそっくりな姉弟である。
中学時代は紳士クンの方が背が小さかったが、
最近になって二人の体格はほぼ同じになった。
そこで令が思いついたのが、この作戦である。
名づけて、
『紳士クンとナッちゃん、今日だけ中身入れ替わっちゃいなさい大作戦』
語呂が悪い上に、大作戦というほど大した作戦でもないのだが、
要するに今日抜き打ちで行われる身体検査を、
紳士クンに扮した撫子に受けさせようというのである。
念の為に記しておくが、撫子は女である。
なので撫子が紳士クンになりすまして身体検査を受ければ、
紳士クンが男だとバレずに済む。
紳士クンのクラスは今日の一時間目に体育の授業があり、
その体育の時間に抜き打ちの身体検査があるので、
それが終わるまでの間、入れ替わっておこうというのだ。
紳士クンと撫子は、ここに来る前に、お互いの言葉遣いや振る舞い方、
親しい友達の名前と顔、話題等、入れ替わっている事が周りにバレないよう、
入念に打ち合わせをした。
しかしいくら見た目がそっくりの姉弟とはいえ、
いつもと全く違う人格を演じるのはなかなかに難しく、
二人ともやたらとぎこちなくなってしまっているのだった。




