13 華子が食べたか、神隠しにあったか
「あれ?トイレかな?」
「この三人の中で一番怖がりな乙子さんが、一人で他の場所に行ったとは思えません。
万が一そうだとしても、私達に何も言わずに居なくなるのは不自然です。
となると、考えられるのは・・・・・・」
「あんたが、乙子ちゃんを食べた・・・・・・」
「人を化け物みたいに言わないでください。そうじゃなくて、これは幽霊の仕業ですよ」
「ゆ、幽霊の?そんなアホな」
「いーえ、幽霊が乙子さんを、霊界へ連れ去ってしまったんです。
いわゆる神隠しというやつですね」
「そ、そんなん非現実的すぎるやろ!
怖くなったから一人で先に帰ったんかもしれんやんか!」
「乙子さんが私達を置いて帰ったりすると思いますか?」
「それは、思えへんけど・・・・・・でも、他に理由がないやろ!」
「だから、幽霊の仕業なんですって」
華子はそう言って、自分の顔を懐中電灯で照らし、笑美にズズイッと詰め寄った。
「あ、あんたの方がよっぽど幽霊みたいやないか」
笑美がそう言った時、外に突風が吹き、校舎の窓がガタン!と大きな音を立てた。
「ひいっ⁉」
「──────ッ!」
その音に思わず身を屈める笑美と華子。
そして二人で顔を見合わせ、笑美が顔をひきつらせながら言った。
「もし、万が一、乙子ちゃんが幽霊に連れ去られたとしたら、
このままやと私らも連れ去られるんかな?」
「それは、充分にありえる事ですね・・・・・・」
そう答える華子の声も、わずかに震えていた。
「ひょっとして私ら、これ以上ここに居るのはマズイんとちゃう?」
「ええ、速やかに退散した方がよさそうですね」
「でもやっぱり、乙子ちゃんはこの校舎の何処かに居るかもしれんし・・・・・・」
「かといって、今からこの校舎の中を探して回る勇気がありますか?」
「・・・・・・正直言うて、ない」
「私も、この状況が少し怖くなってきました・・・・・・」
「とりあえず、逃げへん?」
「乙子さんは、どうします?」
「えーと・・・・・・明日!明日の朝!またここに探しに来よう!」
「私もそれに賛成です」
「じ、じゃあ、二人の意見もまとまった事やし・・・・・・」
「そう、ですね・・・・・・」
そう言って頷き合った笑美と華子は、ひとつ間を置いた後、
「「逃げろーっ!」」
と二人同時に叫び、必死のパッチで図書室から逃げ出した。
「乙子ちゃんゴメーン!」
「明日必ず探しに来ますからねっ!」
笑美と華子はそう叫びながら、一階への階段を駆け下りていった。
その直後に外の風もやみ、あたりは時が止まった様に静かになった。




