12 死んだら謝る
・・・・・・暫くした後、華子が言った。
「乙子さん?そっちは何か変わった事はありませんか?」
が、当人からの返事はない。
「乙子さん?」
天井を懐中電灯で照らしていた華子は、そう言って周囲を見回した。
しかしいくら懐中電灯で照らしてみても、紳士クンの姿は見当たらなかった。
「笑美さん、乙子さんは何処に行ったんですか?」
華子は笑美にそう聞いたが、その笑美からも返事はなかった。
ただし笑美はさっきと同じ読書スペースの椅子に座っていて、
そこでスヤスヤと眠りこけていた。
「グピー、スヤスヤ・・・・・・」
「・・・・・・」
それを見た華子は、無言のまま笑美の正面に歩み寄り、両手で笑美の口と鼻を塞いだ。
「グピー、スヤス・・・・・・グ・・・・・・ゴホッ⁉
ゴッホォッ⁉な、何すんねん⁉」
呼吸困難に陥った笑美はすぐに目を覚まし、目の前の華子に怒りの声を上げた。
それに対して華子は至って冷静にこう返す。
「あなたが居眠りなんかしているからです」
「だからって息を止めさす事ないやろ!死んだらどないすんねん⁉」
「その時は謝ります」
「謝って済む問題か⁉」
「それよりも、乙子さんの姿が見えないんですけど」
「え?乙子ちゃんやったら出入り口の所に──────」
と言って出入り口の方に顔を向けた笑美だが、そこに紳士クンの姿はなかった。




