11 白くて細長い腕
それはともかく、ようやく図書室の中に入った紳士クン達。
中は教室ふたつ分くらいの広さで、半分以上が本棚の並ぶスペースになっている。
その部屋を紳士クン達は一通り見て回ったが、それらしいものには全く遭遇しなかった。
「やっぱり何も出ぇへんやんか」
早々と幽霊探しを諦めた笑美は、そう言って読書スペースにあった椅子に腰掛けた。
それに対して華子は、部屋のあちこちを懐中電灯で照らしながら言った。
「まだそうと決まった訳ではありません。
もしかしたら姿は消したままで、既にこの近くに居るかもしれませんし」
「そういうのは霊感がある人やったら分かるんやろ?あんたは何も感じへんの?」
「はい。あいにく私は霊感というものが一切ないので」
「あんたな・・・・・・そんなんでよく幽霊に会いたいとか思うなぁ」
「霊感がないからこそ、余計にそういうものに会ってみたいんですよ」
「そんなもんかなぁ?」
そんな二人のやりとりを、紳士クンは部屋の出入り口近くに佇んで眺めていた。
目が馴れて大分周りが見えるようにはなってきたが、
それでも恐怖心は変わらず紳士クンの心の中にあった。
(華子さんには悪いけど、このまま何も出ませんように)
心の中で密かにそう願う紳士クン。
と、次の瞬間、紳士クンの背後から、白くて細長い二本の腕がヌッと現れた。
そして右手は紳士クンの口を塞ぎ、左腕は紳士クンの上半身をガッチリと抱え込んだ。
「──────っ⁉」
いきなり口と体を封じられ、パニックに陥る紳士クン。
紳士クンはその二本の腕に引きずり込まれるように、廊下の闇に消えた。
時間にして二秒とない、ほんの一瞬の出来事だった。
その為笑美も華子もこれには全く気がつかなかった。




