10 あっさり入る二人
そして二階へ続く階段を上がり、目的の図書室前へと辿りついた。
「昨日私がここに来た時、このすりガラスの向こうに、幽霊が居たのです」
華子はそう言って、右手の人差し指で図書室の窓をトントンと叩いた。
「今のところ、中には何も居らんみたいやけど?」
笑美はすりガラス越しに図書室を覗きながら言った。それに対して華子。
「常に姿を見せているとは限りませんからね。昨日だって、途中で姿が消えましたし」
「嘘くさいな~」
「本当ですよ!」
と、笑美と華子が言い合っているかたわらで、紳士クンは図書室に背を向け、
頭を抱えて縮み上がっていた。
この行動は勿論恐怖からくるものだが、心の中では葛藤もしていた。
(も、もし華子さんの言うとおり、ここに幽霊が出たらどうしよう。
そしてその幽霊がボク達に襲い掛かってきたら・・・・・・
い、いや!こんな弱気じゃダメだ!
内緒にしているとはいえ、ボクはこの中で唯一の男なんだ!
こういう時こそ体を張って、笑美さんと華子さんを守らないと!
・・・・・・でも、やっぱり幽霊には会いたくないなぁ・・・・・・)
幽霊に対する恐怖と、こんな時こそ男らしく振舞わなければならないというプライドが、
紳士クンの中で激しくぶつかっている。
この学園に入学してからこっち、ずっと女の子として振舞ってきた紳士クンだが、
男らしい男になりたいという気持ちは、まだ失っていなかったのだ。
そして紳士クンは遂にこう決心した。
(よし!ここはボクが笑美さんと華子さんを守るんだ!
だからまずはボクが最初に図書室に入ろう!)
紳士クンは勇ましく笑美達の方に振り向いた。
すると、
「お?鍵は開いてるみたいやで?」
「おかしいですね、昨日は確かに閉まっていたのに・・・・・・」
と言いながら、笑美と華子はさっさと図書室に入って行った。
それを見た紳士クンは、
「ま、待ってよ二人とも!」
と言いながら慌てて後を追った。
どうやら紳士クンが男らしさを発揮するのは、まだまだ先のようだった。




