5 この目で確かめる
「見間違いやろ」
翌日の昼休み、華子が昨日旧校舎で体験した事を紳士クンと笑美に話したところ、
笑美が半ば呆れた様な顔でそう言った。
しかし華子はそんな事では引き下がらず、至って真剣な口調で声を荒げた。
「あれは見間違いなんかじゃありません!私は確かにこの目で見たんです!
図書室のすりガラス越しに映った、白い人影を!
あれは間違いなく昔あの校舎で自殺をした、女子生徒の幽霊です!
それが証拠に、この学園の女子部の制服を着ていましたし!」
しかし笑美は信じる様子もなくこう返す。
「それだけじゃあ幽霊とは言い切られへんがな。
もしかしたらあんたみたいな物好きが、旧校舎の中を探検してたのかもしれへんし」
それに対して華子。
「だったら図書室の鍵なんか閉めずに、
堂々と私の前に姿を現せばいいじゃないですか!
どうして幽霊みたいにコソコソする必要があるんですか!」
「それはアレや。あんたは前髪を目が隠れるくらい長く伸ばしてるやろ?
だからあんたの事を幽霊やと思って、その子は図書室から出てこられへんかったんや」
「私の何処が幽霊ですか!この前髪は私のチャームポイントです!」
「チャームかチャーシューか知らんけど、
とにかくあんたが見たのは幽霊なんかとちゃうって」
「幽霊です!」
「ちゃうって」
「幽霊!」
「ちゃう!」
「幽霊だって言ってるでしょ!」
「幽霊とちゃうって言うてるやろ!」
「ま、まあまあ、二人とも落ち着いて」
エキサイトする笑美と華子を、横で見ていた紳士クンがなだめる。
その紳士クンに、笑美と華子はほぼ同時に言った。
「乙子ちゃんはどない思う⁉」
「乙子さんはどう思います⁉」
「え?え~と・・・・・・」
凄い形相の二人にそう迫られた紳士クンは、
頬をポリポリかきながら視線を泳がせ、しぼり出すようにこう言った。
「ボ、ボクは幽霊とかは苦手だから、例え本当に居るとしても、
あんまり会いたくないなぁ・・・・・・」
「分かりました!」
紳士クンの言葉に華子はそう言って頷き、やにわに立ち上がってこう続けた。
「それでは放課後、その幽霊を見に行きましょう!」
「えぇっ⁉ボク今幽霊には会いたくないって言ったよね⁉」
「私の言う事が本当か嘘か、その目で確かめてもらいます!」
「だ、だからボクは、どっちにしてもそういう所には行きたくないんだけど・・・・・・」
泣きそうな声で紳士クンは言ったが、傍らの笑美は立ち上がってこう言った。
「面白い!あんたの言う事がホンマかどうか、この目で確かめたるわ!」
「え、笑美さんまで・・・・・・」
「もし私の言う事が正しいと証明された時には、笑美さんと乙子さんに、
私のオカルト研究会に正式に入会してもらいますからね!」と華子。
「望むところや!その代わりあんたのいう事が嘘やったら、
その前髪で目を隠すスタイルをやめて、
前髪を全部後ろに梳きつけるデコ出しスタイルにしてもらうで!」と笑美。
「いいでしょう、それでは今日の放課後、旧校舎に集合ですよ?」と華子。
「よっしゃ!」と笑美。
「うぅ・・・・・・何でボクまで・・・・・・」と紳士クン。
はてさて、この後どうなる事やら。




