4 何か、居る
音がした。
決して大きくはないが、確かに音がした。
何かが落ちたか、ぶつかったような音だった。
その瞬間、華子は身構えた。
そして直感的にこう思った。
(何か、居る)
華子は今の音に、何か霊的なものを感じ取った。
感じ取ったというより、そうであって欲しいと願ったのだが。
とにかく彼女は、自分の耳のカンを頼りに、その音がした場所に行ってみる事にした。
(音の出所は、そう遠くはないはず)
華子は霊感は全くと言っていいほどないが、視覚や聴覚に関してはすこぶる鋭かった。
そしてその聴覚を頼って辿りついたのが、図書室だった。
(私の耳が確かなら、さっきの音はここから聞こえたはずです)
そう思ったその時、図書室のすりガラス越しに、中に人影があるのが見えた!
すりガラス越しなので顔や姿はハッキリしないが、その人影はどうやら、
華子と同じ制服を着ているようだった。
(もしやあれが、この校舎で自殺をした女子生徒の幽霊!)
そう確信した華子は、その姿を直に確かめるべく、
図書室の入口へ行き、その引き戸に手をかけた。
しかし引き戸は中から鍵がかけられているらしく、いくら引いても開かない。
「どうして⁉昼間来る時にはいつも開いているのに!」
思わずそう叫ぶ華子。
仕方がないのでもう一方の入口に行き、その引き戸を開けようとしたが、
こちらもやはり開かなかった。
その間に中の白い人影は、華子から逃げる様に図書室の奥の方へと消えていった。
(ああっ!このままではせっかく見つけた幽霊に逃げられてしまう!
こうなったら、何とかこの窓ガラスを割って───────)
と、強行手段に打って出ようとした、その時だった。
カラーン、カラーン、と、教会の鐘が鳴り、新校舎の方から、
『午後六時になりました。学園内に残っている生徒は、速やかに下校しましょう』
という放送が聞こえ、華子はハッと我に返った。
そして引き戸から手を離し、
「次に来る時は必ず、この目で正体を突き止めます!」
と独りごちて、駆け足で旧校舎から去った。
華子の足音がなくなった後、旧校舎に、
閉まっていたはずの図書室の引き戸がガラッと開く音が響いた。
しかし既に旧校舎を出て校門に向かっていた華子は、その音に気づかなかった。




