19 喧嘩番長のカミングアウト
そのあまりに淋しそうな兆太郎に、紳士クンは少なからず同情心を抱いた。
「え、え~と、げ、元気を出して下さい」
紳士クンは励ましの言葉を兆太郎にかけた。
すると兆太郎は、俯いたままこう言った。
「俺、実は、ホモなんだよ」
「ああ、知っ──────」
知ってますと普通に言いそうになった紳士クンは、慌てて自分の口を塞いだ。
そして代わりにこう言った。
「へ、へぇ~。そ、そうなんですか。何だか、意外ですね」
「おかしな奴だと、思うだろ?」
「と、とんでもない!」
紳士クンはブンブン両手を横に振って否定した。
確かに兆太郎はノーマルからは幾分外れてはいるが、
それなら男の身で女装して女子校に通う自分はどうなんだよと考えると、
紳士クンは思わず強く否定してしまうのだった。
そんな紳士クンに兆太郎は、静かな口調で続けた。
「俺は、あんたの兄貴に惚れていたんだよ。恋愛対象としてな。
生まれて初めてだったんだ、こんなに人を好きになったのは。
あいつに会うまでの俺は、ケンカや悪さばかりするどうしょうもねぇ奴で、
恋愛なんてクソくらえだと思ってた。
だからどんなに可愛い女に出会っても、俺の心がトキメく事はなかった。
ところがだ。
中学に入って俺は初めて恋をした。
蓋垣紳士に。
俺は自分が恋をした事に驚いたが、
それ以上に驚いたのは、あいつが男だという事だった」
「それは確かに、驚きますよね」
「そこで俺は悟ったんだ。『あ、俺ってホモなんだ』って」
「ず、随分あっさり悟ったんですね・・・・・・」
「恋愛で一番大事なのは、相手の性別よりも、
その相手を愛する気持ちの強さだと思うんだ」
「正しいような、正しくないような・・・・・・」
「だから俺は中学二年になったある日、あいつにこの想いをぶつけたんだ。
・・・・・・けど残念ながら、その時は告白がうまくいかなかった。
だがどうしてうまくいかなかったのかは、俺が一番よく分かっている」
「やっぱり、男同士、だったからですよね?」
「違う。俺に、男らしさが足りなかったからだ」
「えぇっ⁉もうこれ以上ないくらいに男らしいと思いますけど⁉」
「いや、ダメだ。こんな事じゃああいつのハートを射止める事はできない。
だから俺はもっと男らしさを磨く為、この学園の男子部に入ったんだ」
「そ、そうだったんですか・・・・・・」
(伴君がこの学園に入学した動機は、ある意味ボクと同じだったんだ・・・・・・)
「でも、今日あんたに出会って、
あいつは俺の手の届かない遠い所へ行っちまった事を聞かされた。
これで俺の最初で最後の恋は、幕を閉じたんだ」
そう言うと兆太郎は、悲しげな眼差しで明後日の方向を見やった。
するとそれを見た紳士クンは、そんな兆太郎の隣に座り、慰めるようにこう言った。
「あ、あの、最後の恋なんて言わないでください。
伴君のように男らしい人なら、きっと他にイイ人が見つかりますよ!」
「そう、かな?」
紳士クンの言葉に、兆太郎は幾分元気を取り戻したように言った。
その兆太郎に、紳士クンはひとつ付け加えた。
「でも今度は、ちゃんと女の子に恋をした方が、うまくいきやすいと思います」
「女の子に、恋を・・・・・・」
兆太郎はそう呟き、紳士クンをじっと見詰めた。




