16 姉の名案
そんな紳士クンに撫子は聞いた。
「それよりどうしたのよ?私に何か用だったの?」
「あ、そうだった」
静香のおかげで本題をすっかり忘れていた紳士クンは、声を潜めて撫子に言った。
「実は、ちょっと相談に乗って欲しい事があるんだ」
「まあ、今日は生徒会の仕事もないから構わないけど、何の相談よ?
もしかして、あの伴兆太郎が実はこの学園の男子部に入学してて、
そいつとバッタリ会っちゃったとか?」
撫子は軽い冗談のつもりでそう言ったが、それがズバリ正解だった紳士クンは、
その言葉を聞いて口から魂が漏れそうになった(というか漏れた)。
それを見た撫子は、目を丸くして尋ねた。
「あ、あれ?当たり?」
「うん・・・・・・」
力なく頷く紳士クン。
すると撫子はガバッと紳士クンの肩を掴んで顔を近づけ、至極声を潜めて言った。
「ど、どうしてあの不良でホモの伴兆太郎が、この学園の男子部に入学してるのよっ?」
「わ、分からないよ。でも、今日の昼休みに図書館で、偶然会っちゃったんだよ」
「まさかあんたの事を追いかけて、この学園に入学したんじゃないでしょうね?」
「そ、それは流石に偶然じゃないかなぁ?あの人にはボクの進学先は秘密にしてたし」
「いーや!あいつはきっとあんたを追っかけてこの学園に入学したんだわ!
そして懲りずにまたあんたに告白するつもりよ!」
「そ、そうなのかなぁ・・・・・・」
「そうよ!きっと今日も告白の池辺りで待ち伏せしているはずだわ!」
「ど、どうしよう・・・・・・」
「一番手っ取り早いのは、あんた自身がキッパリあいつに言ってやる事ね。
『あんたなんか大嫌い!』って」
「で、でもそんな事言ったら、後でどんな目にあわされるか・・・・・・」
「そんな事でどうするの!そもそも中学時代にあいつに告白された時も、
あんたがハッキリ断っていれば、あいつもあんたの事を諦めたなずなのよ!」
「そ、そうかなぁ・・・・・・」
「そうよ!そんでもってあいつはきっと、あの時は私が途中で邪魔をしたから、
告白がうまくいかなかったと思い込んでいるはずだわ。
だから今度こそはあんたが直接言ってやらないと」
「う、う~ん・・・・・・」
「もう!シャキッとしないわね!」
「だ、だって・・・・・・」
「あーっ!もうっ!」
紳士クンの態度に、撫子は苛立たしげに頭をかいた。
そして暫くそうした後、
「あ、そうだわ」
と、何かを思いついたように声を上げた。
「ど、どうしたの?」
そう尋ねる紳士クンに、撫子はこう言った。
「そもそもあなたは、乙子ちゃんじゃないの(・・・・・・・・・・)」
「え?う、うん、まあボクは、(この学校では)乙子だけど」
「だったら何もうろたえることはないじゃない」
「え?ど、どういう事?」
目を丸くする紳士クンに、撫子はニヤッと笑って言った。
「つまり、伴兆太郎が好きなのは蓋垣紳士クンなんでしょ?
そしてあなたはそんな紳士クン(・・)の(・)双子の(・)妹の、蓋垣乙子ちゃんという事」
「双子の、妹?」
「そうよ。それだったらあいつがあんたに告白する筋合いは何処にもないじゃないの」
「そ、そうなのかな?」
「そうよ。だってあいつはホモだから、女子には興味ないだろうし」
「そ、そういうものなの?」
「少なくとも伴兆太郎はそうに違いないわ。
だって女子にも興味があるのなら、
あんたと殆ど見た目が変わらない私の事も好きになるはずでしょう?
女らしさと可憐さなら、断然私の方が上だし」
「んん?」
「何よ?何か文句があるのかしら?」
「い、いえ、ありません・・・・・・」
「とにかくあなたは乙子ちゃんなんだから、例えあいつが告白してきても、
『ボクは紳士じゃありません』って言えばいいのよ。これで問題は解決よ」
「そ、そんなにうまくいくかなぁ・・・・・・」
「大丈夫よ。いざとなれば私が助けてあげるから」
「う、うん・・・・・・」




