11 出会いの館と、告白の池
カラーンコローン、カラーンコローン。
時間は進み、五時間目の授業が終った。
「はぁ~・・・・・・」
授業終了の礼を終えた紳士クンは、再び自分の席にへたり込む様に座り、
果てしなく深い溜息をついた。
昼休みのあの出来事が、紳士クンの頭の中をグルグルと回っていた。
(ま、まさか、伴君がこの学園の男子部に入学していたなんて・・・・・・)
これは紳士クンにとって非常に深刻な事態であった。
何しろ兆太郎はおっかない不良であるとか以前に、ホモなのである。
しかも紳士クンにゾッコンラヴなのである。
その人物と同じ学び舎に通う事がどれ程恐ろしい事なのか、
紳士クンは中学時代に嫌と言うほど経験している。
そして問題はもうひとつあった。
それは兆太郎が、この(・・)学園で(・)紳士クン(・・)が(・)男で(・)ある(・・)事を(・)知って(・・・)いる(・・)人物であるという事だ。
現在この学園で、
紳士クンが男の身でありながら女子部に通っている事を知っているのは、
姉の撫子と、そう仕向けた張本人の令だけである。
この二人が紳士クンの正体をバラす事はまずないが、
兆太郎はどうだろうか?
本人にバラす気がなくとも、彼の言動で、
紳士クンが男だとバレてしまう可能性は十二分にある。
そう考えると、紳士クンの気持ちはまた更に沈むのであった。
「お~い、乙子ちゃ~ん」
とそこに、笑美と華子がやって来た。
「どないしたん乙子ちゃん?何か元気なさそうやけど」
「え?そう?ボクは元気だよ?あ、あはは」
心配そうな顔をする笑美に、紳士クンは努めて明るく笑って言った。
「もしかして、あの会長さんと何かあったんですか?」
と華子。
「い、いや、そんな事ないよ。あの後令お姉さまとは、すぐに別々になったし」
「え~っ?それやったらすぐに私らの所に戻って来てくれたらよかったのに~」
紳士クンの言葉に、笑美が不満の声を漏らす。
しかし華子は変わらぬ口調で続けた。
「その後、何処かへ行っていたんですか?」
「う、うん。実は、図書館の方に行ってたんだよ」
「え⁉乙子ちゃん、『出会いの館』に行っとったん⁉」
笑美がやにわに驚きの声を上げる。
それに対して紳士クンは、目をパチクリさせて尋ねた。
「え?出会いの館って、何なの?」
すると華子が神妙な面持ちで言った。
「この学園の図書館は、男子部と女子部の生徒が共同で使える数少ない場所なので、
異性との出会いを求めてあの図書館へ行く生徒が結構多いそうです。
なのであの図書館は別名、『出会いの館』と呼ばれているんです」
「へぇ~、そうなんだ」
感心する紳士クンに、笑美が更に続けた。
「そんでもって出会いの館で出会った異性に、
校舎前の庭園にある丸池の所で告白をすると、その恋は成就するって言われてんねん。
この丸池の事を別名、『告白の池』って言うんやで」
「こ、告白の池・・・・・・」
(と、いう事は、出会いの館で伴君に出会ってしまったボクが、
その告白の池で彼に告白されたりしたら、ボクと伴君は結ばれちゃうって事⁉)
最悪のシナリオが頭に浮かび、紳士クンは軽い目眩を覚えた。
その紳士クンに、笑美がニヤついた顔で尋ねる。
「で、乙子ちゃんはその出会いの館で、誰かイイ人に出会えたんかいな?」
「え⁉そ、そんな、ボク、そういうつもりであの場所に行ったんじゃないから!」
そう、紳士クンは決して、兆太郎に会いたくてあの図書館に行った訳ではない。
その想いが、紳士クンの口調を一層強くさせた。
しかしそれを見た華子がからかう様にこう言った。
「でも、そこまで強く言われると逆に怪しいですね。
もしかして誰かお好みの男性と出会えたんじゃないですか?」
「と、とんでもない!」
紳士クンは力一杯否定した。
が、笑美と華子は全く信じる様子がなかった。
「ま、今の所はそういう事にしとこうか」
「そうですね。何か進展があった時、じっくりと聞かせていただきましょう」
「うぅ・・・・・・」
(ま、参ったなぁ・・・・・・)
心の底からそう思う紳士クンであった。




