5 怒るタッちゃん
「やっと見つけたぞ」
という、低く冷たい声がしたかと思うと、令が、
「イタタタタ!」
と声を上げながら、紳士クンから体を離した。
一体何があったのかとそちらに顔を向ける紳士クン。
すると、いつの間にか背後に現れた太刀が、
令の右の耳たぶをギュウッとつねり上げていた。
「痛い痛い!離してよタッちゃん!」
泣きそうな声で太刀に訴える令。
その姿はまるで、姉に叱られる妹の様だった。
そしてその令の耳をつねる太刀は、怒りのこもった口調で言った。
「いつもいつも生徒会の仕事をサボりおって!
お前には生徒会長としての自覚がないのか⁉」
「ご、ごめんなさいぃ・・・・・・」
(な、何か、凄い場面に出くわしちゃったなぁ・・・・・・)
何やら見てはいけない光景を見てしまったという気持ちで、
紳士クンは二人のやりとりを眺めた。
そんな中太刀は、つねり上げていた令の耳たぶをようやく離し、
その痛みから解放された令は、耳たぶを両手でさすりながら言った。
「うぅ~、今日のタッちゃん、いつにも増して乱暴ね・・・・・・」
その言葉に太刀がすぐさま反論する。
「それだけお前が私を怒らせるからだろうが!
生徒会の仕事をサボって何をしているかと思えば、
一年の女子生徒と白昼堂々イチャイチャと!」
そして太刀は紳士クンを鋭く睨んだ。
「ひっ⁉」
睨まれた紳士クンは恐怖のあまりに背筋がピンと伸び、
そのまま動けなくなってしまった。
その紳士クンをかばうようにして、令が言った。
「乙子ちゃんは私の大切なお友達なの。
そのお友達と仲良くして、一体何が悪いって言うの?」
それに対して太刀は、全く無感情な口調でこう返す。
「生徒会の仕事をサボるのが悪いと言うんだ」
「そ、そんなごもっともな意見を・・・・・・・」
全くの正論を言われ、たじろぐ令。
すると太刀は神妙な口調になり、こう続けた。
「どうやらお前は随分とその生徒を気に入っているようだが、
この学園の生徒会長が、特定の下級生をひいき(・・・)にする事は感心せんな。
他の生徒の反感を買うかもしれんし、つまらん噂が立つ事だってありうる」
「そんな噂が立っても、私は気にしないわよ?」
「お前が気にするしないの問題ではない!とにかくさっさと生徒会室に戻れ!」
太刀はそう叫ぶと、令の後ろ襟をムンズと掴み、そのまま引きずるように歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってよタッちゃん!私まだ乙子ちゃんと一緒に居たいの!」
「黙れ!そういう事は生徒会の仕事を片付けてから言え!」
「あぁ~ん、乙子ちゃ~ん」
というやりとりをしながら、令は太刀に引きずられていった。
その場に残された紳士クンは、とりあえずホッと胸を撫で下ろした。
(た、助かった。一時はどうなる事かと思った・・・・・・)
紳士クンがこの学園に入学してから約半月が経った今も、
彼の周りでは何かと騒ぎが絶えないのであった。
(もう少し、平穏な学園生活を送りたいんだけど・・・・・・)
日頃から切にそう願っている紳士クンだったが、その願いは今日も儚く散ったのだった。
「はぁ・・・・・・」
紳士クンは大きな溜息をつき、近くの教室の窓から、中の時計を覗き込んだ。
それを見ると、昼休みはあと二十分程残っていた。
(とりあえず、これからどうしよう?)
腕組みをして考え込む紳士クン。
このまま笑美達の所に戻ってもよかったが、
さっきの事もあるので、今戻るのは危険に思えた。
(何処か、一人でゆっくりできる所はないかな?)
そう考えた時、
(あ、そうだ、あそこに行ってみよう)
と、ある場所を思いつき、早速そこに向かうべく、トコトコ歩き出した。




