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4 姉の進学先

そんな男らしい姉の撫子が、女らしい弟の紳士クンに言った。

 「私ね、高校は、国立エシオニア学園を受験する事にしたの」

 「え?エシオニア学園っていったら、あのお嬢様学校の?」

 撫子の言葉に、紳士クンは目を丸くした。

ちなみに国立エシオニア学園とは、

日本政府が最近の男女の『男らしさ』と『女らしさ』の希薄化を憂い、

学校教育において、それぞれの優位点を伸ばしていく目的で創立された学園である。

学園は『男子部』と『女子部』とに分けられており、

男子部では、真のジェントルメンになる為の教育を。

そして女子部の方では、大和撫子の名に恥じない淑女(しゅくじょ)になる為の教育を、

学問としてだけではなく、人間性の部分から徹底的に教育される。

それが国立エシオニア学園の方針である。

 そのエシオニア学園の女子部に、撫子は入学すると言い出したのだ。

それはつまり、男勝りな撫子が、生粋の淑女を目指すという事。

そのあまりにミスマッチな姉の発言に、

紳士クンが目を丸くするのも無理はなかった。

しかし当の撫子はそんな事お構いなしに、自信満々でこう言った。

 「やっぱりあの学校が、私に一番合ってると思うのよねぇ」

 ハタから見ると、男勝りでガサツで乱暴者で短気でその他もろもろな撫子だが、

撫子自身は、自分の事を『本当はおしとやかで可憐な少女』だと思い込んでいた。

しかしやはり紳士クンからすれば、姉のその言葉はあまりに突飛に聞こえたので、

思わずこう呟いてしまった。

 「お姉ちゃんは、お嬢様って雰囲気じゃあないと思うんだけど・・・・・・」

 「何ですってぇっ⁉」

 紳士クンの呟きを聞き逃さなかった撫子は、

眉間にシワを寄せて紳士クンにズズィッと詰め寄った。

その時、地面に倒れていた兆太郎の背中を踏んでしまったのだが、

撫子はそのままの体勢で続けた。

 「あんたは私が男勝りでガサツだから、

お嬢様学校に入学するような器じゃないって言うの⁉」

 「え、いや、あの、その・・・・・・」

 姉の物凄い剣幕に、目を泳がせる紳士クン。

今の撫子は、間違いなくさっきの兆太郎よりも迫力があった。

その迫力でもって、撫子は更にこう言った。

 「そもそも私がこんな性格になったのは、全部あんたのせいなんだからね!」

 「えぇっ⁉ぼ、ボクのせいなの⁉」

 「当たり前よ!あんたがもっと男らしい性格で、誰にも虐められたりしなければ、

私ももっとおしとやかで女らしい性格になっていたのよ!」

 「そ、そうなの・・・・・・?」

 「そうなの!だからあんたもこの学校を卒業したら、

エシオニア学園の男子部に入学しなさい!」

 「どえぇっ⁉な、何で⁉」

 「あんたはそのままの性格じゃダメでしょ!

あの学校に入学して、骨の髄まで男らしさを叩き込んでもらうのよ!」

 「そ、そんな大げさな・・・・・・」

 「あんたはもっと男らしい男になりたいとは思わないの⁉」

 「う・・・・・・それは、このままの性格じゃあ、

ダメだとは思ってるけど・・・・・・」

 「そう思うなら入学しなさい!これはチャンスなんだからね⁉

このチャンスを逃したら、あんたはこれからも女男って言われて馬鹿にされたり、

男から愛の告白をされたりするのよ⁉」

 「こ、告白は嫌だなぁ・・・・・・」

 「でしょ⁉だからあんたもエシオニア学園に入学なさい!

私は一足先に入学して、おしとやかで可憐な乙女に生まれ変わるから!」

 「お、お姉ちゃんが、可憐な乙女に・・・・・・」

 「何か言いたそうね紳士?」

 「い、いや、そんな事ないよ⁉えーと、わ、分かったよ!

ボクも頑張って、エシオニア学園に入学するよ!

そしてちゃんとした男らしい男に生まれ変わるよ!」

 「その意気よ紳士!私も応援するからね!」

 「う、うん!」

 

 これは、紳士クンが中学二年の時の出来事である。

この次の年、撫子は見事にエシオニア学園の女子部に合格し、

更にその翌年、紳士クンもエシオニア学園の男子部に合格する。

 果たして紳士クンはこの学園で、

立派なジェントルメンに生まれ変わる事ができるのか?

彼の新たな学園生活が、始まろうとしていた。



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