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紳士クンの、割と不本意な日々  作者: 椎家 友妻
第三話 紳士クンの再会
39/103

1 撫子の心配

(あの子、今日もバレずにやってるかしら・・・・・・)

 春の日差しがポカポカと暖かいある日の昼休み。

エシオニア学園女子部の校舎二階にある生徒会室で、

撫子がそう心配しながら大きな溜息をついた。

彼女の心配の種は、言わずもがな紳士クンである。

彼がこの学園に入学してからもうすぐ二週間が過ぎようとしているが、

元々見た目が女の子みたいだったという事もあり、

今の所紳士クンの正体はバレていない。

しかし、何かの拍子にバレるかもしれないという不安が、

撫子の頭に常に渦巻いていた。

生徒会役員である撫子は、今生徒会室で書類の整理をしているのだが、

紳士クンの事を思うと、なかなかその仕事もはかどらなかった。

すると、撫子の隣の席に座って書類の整理をしていた、

副会長の鎌井(かまい)太刀(たち)が、鋭い目つきで撫子に言った。

 「何をボーっとしているんだ。もっとテキパキ手を動かせ」

 「え?あ!す、すみません!」

 ハッと我に返った撫子は、慌てて仕事を再開する。

それを見た太刀は、目を細めて言った。

 「最近ボーっとする事が多いな。何か悩み事でもあるのか?」

 「へ?あ、いえ、悩み事なんかないですよ?

強いていうなら、最近また体重が増えたなぁ、なんて、あ、あははー」

 そう言って作り笑いを浮かべる撫子だったが、

太刀はそんな撫子の心を見透かすように、彼女の顔を覗き込んで言った。

 「お前、()の(・)目尻(・・)が(・)ひきつって(・・・・・)いるぞ?」

 「えっ⁉」

 太刀の言葉に全身を硬直させる撫子。

ちなみに撫子は、嘘をついた時に左の目尻がひきつるクセがあり、

太刀がそれを指摘したという事は、撫子の嘘を太刀が見抜いたという事でもあった。

その太刀が、続けてこう言った。

 「この前入学した()の事が気になるんだろう?」

 「なっ⁉何を仰るんですか太刀お姉さま⁉

私には弟なんか居ませんよ⁉居るのは乙子という()だけです!」

 「妹、ねぇ。まあ、そういう事にしておこうか」

 撫子の必死の訴えを受け流すように太刀は言い、

 「だがな──────」

 と言って、撫子の顔を覗き込むのをやめた。

 「な、何ですか?」と撫子。

太刀は静かな声で続けた。

 「私は、学園の規則はその学園に通う生徒が平等に日々を過ごし、

そして正しく学問を学ぶ為に必要不可欠なものだと信じている。

だから、その規則や風紀を乱す者は、何人(なんぴと)たりとも見逃すつもりはない。

例えそれが身近な人間であったとしても、な」

 「じ、重々承知しています・・・・・・」

 撫子は左の目尻をひきつらせまくりながら頷いたが、

太刀はそれについては何も言わず、代わりに不機嫌そうに溜息をついてこう言った。

 「それなのに、規則上一番この場に居なければならない人間が、

どうしてこの場に居ないんだ!」

 「ああ・・・・・・」

 その人物が誰なのかがよく分かっている撫子は、

おずおずとその人物の名を口にした。

 「令お姉さま、ですね?」

 そう、その人物とは、この学園の女子部の生徒会長の、(すご)茎令(くきれい)だった。

令は今、この場に姿を見せていないのだ。

 「生徒会の集まりで生徒会長が顔を出さないとはどういう事だ!」

 再び怒りの声を上げる太刀。

その太刀に、撫子は遠慮気味に言った。

 「令お姉さまなら、

『私、ちょっと行きたい所があるから、後の事はよろしくね♡』と言って、

何処かに行ってしまわれました」

 「なっとらんっ!」

 そう言いながら机の書類をひっくり返す太刀。

それを慌てて撫子が拾い集める。

 「お、落ち着いてください太刀お姉様っ」

 「これが落ち着いていられるか!

そもそも私達がこうして昼休みにまで生徒会の仕事をしなくちゃならないのは、

あいつが放課後の生徒会をちょくちょくサボるからだ!

マッタクあいつは!生徒会長としての自覚があるのか⁉」

 太刀のその叫びに対し、撫子はこう答えるしかなかった。

 「ないかも、しれませんね・・・・・・」

 と、いう具合に、撫子は撫子で何かと大変な学園生活を送っていたのだが、

彼女にとっての一番の悩みは、やはり紳士クンだった。

 (紳士、今頃学園の何処で何をしてるのか知らないけど、

絶対に正体をバラしちゃダメよ?

まずないとは思うけど、

じゃれあって他の女子に胸なんか触らせちゃ絶対にダメだからね!)

 生徒会室の中で、撫子は切にそう願うのであった。



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