15 ティッシュを求める幽霊
このトイレの便器は和式だったが、何処もかしこも非常に汚れているので、
こういう場合は洋式よりも都合は良かった。
トイレットペーパーも当然切れているが、
紳士クンはポケットティッシュ(トイレに流せるタイプ)
を持ち合わせているので無問題である。
なので紳士クンはイソイソと便器の上に腰を下ろし、
トランクスも下ろし、ようやっと用を足した。
ジャッパァーッ。
ちゃんと水が出たのは幸いだった。
迫り来る便意からようやく開放された紳士クンは、心の底からホッとした。
しかしホッとした分、この建物の不気味な光景が改めて目に飛び込んできた。
(改めて見ると、やっぱり気味が悪いなぁ・・・・・・)
そう思った紳士クンは、個室を出てさっさとここから立ち去る事にした。
そしてトイレの出入り口付近まで来たその時、
「ちょっとお待ちを!」
という叫び声が、紳士クン以外誰も居ないはずのトイレに響き渡った。
それを聞いた紳士クンは、
「えええっ⁉」
と叫び声を上げ、そのあまりの驚きと恐怖のせいで、その場に立ちすくんでしまった。
(な、な、何なの今の声⁉も、もしかして幽霊⁉)
紳士クンは完全にパニックに陥った。
そんな中、正体不明の叫び声は尚も続いた。
「そこに誰か居るんですよね⁉そこを動かないでください!
もしそのままここを出て行こうものなら、化けて出ますからね⁉」
「ひぃっ!」
その脅迫的な物言いに、身を震わせる紳士クン。
(ど、どうしよう!このままトイレを出て行ったら、あの幽霊に魂を奪われちゃう!)
そもそもこの声の正体が幽霊だという事実は全くないのだが、
紳士クンは完全にそう思い込んでいる。
ちなみにこの正体不明の声は、ちょっとハスキーがかった少女の様なそれであった。
そしてその声は、どうやら唯一扉が閉まっている、
出入り口に一番近い個室から聞こえてくるようだった。
その声は更に紳士クンに言った。
「そこのあなた!あなたは今、私の隣の個室で用を足しましたね⁉」
「は、はいっ!足しました!」
「その際に、手持ちのポケットティッシュを使いましたね⁉」
「はいっ!使いました!」
(な、何でこの幽霊さんは、ボクにそんな事を聞くんだろう?)
質問の意図がよく分からない紳士クンは、そう思いながら答えた。
すると正体不明の声は、一際大きな声で紳士クンに言った。
「ならばそのポケットティッシュを、私にめぐんでください!」
「へ?」
思わぬ言葉に目を丸くする紳士クン。
ポケットティッシュなんかをどうするんだろうと思う間もなく、その声は続けて叫んだ。
「早く!もう私の膝はガクガクなんです!」
「え?あ、はいっ」
声の勢いに気おされた紳士クンは、スカートのポケットからティッシュを取り出し、
それを声のする個室の中に投げ込んだ。すると次の瞬間、
「やったぁっ!ありがとうございます!」
という声がしたかと思うと、
ほどなくしてジャッパァ~と便器に水が流れる音がし、
その後ゆっくりと個室の扉が開いた。
「ひっ⁉」




