10 大きい方の災難
それは昼休みでの事。
紳士クンは笑美と一緒に教室でお弁当を食べ、それが終わった後、
紳士クンの身に、災難が降りかかった。
そう、『便意』という名の災難が。
小さい方ではなく、大きい方だ。
おまけに本日のそれはいつもより一際大きい様子で、
紳士クンのお腹の奥が、ピーゴロロと嫌な唸り声を上げ始めた。
(うぅ・・・・・・さっきまでは何ともなかったのに・・・・・・)
と、紳士クンは突然の便意の到来にひどくとまどったが、
こういうものはラブストーリーと同じで、突然始まってしまうものなのだ。
そして今回の便意は、胃腸のピーゴロロ具合からして、
かなりシャバシャバ状態である事が予想された。
カチカチ状態であれば、門をしっかり締めれば踏ん張る事もできるが、
相手がシャバシャバでは食い止めるのが困難。
いくら今まで幾多の尿意に耐えてきた紳士クンでも、今回ばかりは相手が悪い。
(と、とにかくトイレに行かなきゃ・・・・・・)
という決断を紳士クンが下すのに、それ程時間はかからなかった。
紳士クンは、弁当を食べ終えてからも話を続ける笑美を、
「ちょ、ちょっとゴメン・・・・・・」
と言って制し、ガタンと席を立った。
「ん?どうしたん乙子ちゃん?」
と尋ねる笑美に、紳士クンはやや声を震わせながら答えた。
「ちょっと、トイレに・・・・・・」
「ああ、じゃあウチも一緒に行く」
「あわわ!ちょっと待って!」
「え?何で?ウチもおトイレに行きたいんやけど」
そう言って眉を潜める笑美。
その目には、
『二時間目の体育の時といい、何で乙子ちゃんはウチを避けようとするのん?』
という感情が浮かんでいた。
そしてそれは紳士クンにも良く分かったが、
(そ、それでも笑美さんと一緒にトイレに行く訳にはいかないよ!)
と考え、
「ご、ゴメン笑美さん!」
と言い残し、逃げる様に駆け出した。
そして笑美が、「あ」と声を上げる間に紳士クンは教室を出て行き、
その場に残された笑美は、やや物悲しげに視線を床に落とした。




