4 令の真意
そんなこんなで、紳士クンがこの学園に入学してから、丁度一週間が経った。
幸い(と言っていいのかは分からないが)
紳士クンは顔つきも体格も女子と何ら変わりはないので、
周囲の女子生徒達には全くバレる事もなく、普通に女子生徒として過ごしている。
(はあ、ボクは将来、どんな人間になっちゃうんだろう・・・・・・)
そう考えて溜息をつくのが、最近の紳士クンの日課となっていた。
そんな紳士クンが靴箱の所で上履きに履き替えていると、背後から、
「ごきげんよう、乙子ちゃん♡」
と声をかけられた。
その声に振り向くとそこに、ニッコリと微笑んだ令が立っていた。
「あ、ご、ごきげんよう・・・・・・」
その令に、ややひきつった笑みで挨拶を返す紳士クン。
すると令はニコやかに続けた。
「この学園にはもう馴れた?」
それに対して紳士クンは、今の気持ちを正直に吐き出す。
「え~と、どうしてボクがここに居るのかが、未だに分からないんですけど・・・・・・」
「ああ、そうね。この事は、ちゃんとあなたに話しておいた方がいいわね」
令は一転して真剣な顔になって言った。
「え?な、何か重大な理由があるんですか?」
令の真剣な面持ちに、紳士クンは息を飲んだ。
そんな紳士クンに、令はゆっくりとした口調で語り出した。
「どうして私が、本当は男子部の方に入学するはずだったあなたを、
女子部の方に半ば無理矢理入学させたのか?」
半ばじゃなくて、完全に無理矢理だと思うんですけど、
と言いたかった紳士クンだが、ここはグッと我慢をした。すると令は、
「それはね・・・・・・」
と言って、ここで意味深に言葉を切った。
まるで、今から話す事実が、さも重大であるかのように。
その何とも言えない緊張感に耐えられなくなった紳士クンは、
次の言葉を促すべく聞いた。
「そ、それは、何なんです?」
それに対して令は、紳士クンの目を真っ直ぐに見据え、こう言った。
「何だか、面白そうだったから」
「えーっ⁉」
令の言葉の内容は衝撃的でも何でもなかったが、
それがむしろ紳士クンには衝撃的だった。
「そ、そ、そんな理由でボクを女子部の方に入学させたんですか⁉」
「乙子ちゃんは女の子の制服を着た方が似合うし、女子部の方に入学した方が、
私が楽しい学園生活を送れると思ったのよ。」
「令お姉さまだけが楽しんでどうするんですか⁉ボクの意思は⁉」
「大丈夫よ。乙子ちゃんも存分に、ここでの学園生活を楽しんでくれればいいから」
「そ、そういう問題じゃなくてですね・・・・・・」
「じゃあ私、そろそろ行かなくちゃいけないから、また後でね」
令はそこまで言うと、さっさと校舎の廊下を歩いて行ってしまった。
その後姿を紳士クンは、呆然とした表情で見送る他なかった。




