2 紳士クンは意外と近くに居る
これが正しいかどうかはともかく、そう考えた彼は、
更に己の男らしさを磨くべく、エシオニア学園の男子部に入学した。
そこは偶然にも紳士クンと同じ学校だったのだが、
兆太郎はまだ、その事には気づいていなかった。
(待っていてくれ蓋垣。俺はこの学校で、お前に見合うような男らしい男になって、
必ずまたお前に告白するからな!)
固くそう誓った兆太郎は、その想いを胸に、男子部の校舎へ向かって歩いていた。
そして、庭園の中心部に位置する噴水のある丸池の所に差し掛かった時、
兆太郎は池の向こう側に、自分のよく知った人物が居る事に気づいた。
それを見た兆太郎は、思わず心の中でこう叫んだ。
(あれはまさか、蓋垣⁉)
噴水越しでややぼやけているとはいえ、その人物のシルエットは、
限りなく紳士クンのそれに近かった。
しかしその人物は、その身に女子用の制服をまとい、女子部の校舎へと向かっている。
(どうやら俺の勘違いみたいだな。俺の愛する蓋垣は、
確かに女の様に可憐で清楚だが、性別は男だからな)
そう考えた兆太郎はフッと苦笑し、踵を返して男子校舎の方へ歩いていった。
そして真っ青に染まった空を見上げ、
(蓋垣は今頃、何処で何をしているんだろうなぁ)
と、愛しき人に想いを馳せていた。
ちなみにその紳士クンは、エシオニア学園の女子の制服を着て、
女子部の校舎に向かって歩いていた。
実はさっき兆太郎が噴水の所で見かけた紳士クンらしき人物が、
正にその紳士クンだったのだ。
兆太郎はその事に気づかなかったが、紳士クンの方も、
あの兆太郎がエシオニア学園に入学しているとは、思いもしなかった。




