12 泣く子も黙る鎌井太刀
その声を聞いた撫子は、
「ひぃっ!」
と声を上げ、紳士クンが今まで見た事もないような怯えた表情で、
その声の主の方へ振り向いた。
するとそこに、細身で手足が長く、やや青みのかかったストレートの黒髪を、
腰の辺りまで伸ばした女子生徒が立っていた。
目つきはかなり切れ長で鋭く、まるで、磨きぬかれた日本刀の様な威圧感があった。
そんな彼女の前ですっかり縮み上がった撫子は、おずおずと彼女に言った。
「ス、スミマセン太刀お姉さま。これは、あの、何でも、ありません・・・・・・」
「・・・・・・」
露骨にうろたえる撫子に、太刀と呼ばれた彼女は無言で疑いの目を向けたが、
すぐに隣の紳士クンに気がつき、こう言った。
「撫子の隣に居るのは、妹か?」
(い、妹⁉)
いくら今女子部の制服を着ているとはいえ、何の疑いもなく女扱いされた事に、
紳士クンは大きなショックを受けた。
しかしそんな中、撫子が次に言った言葉はこれだった。
「は、はい、この子は今日からここに通う事になった、私の妹です・・・・・・」
「ええっ⁉ボクは男──────モガッ⁉」
姉のまさかの発言に、紳士クンは思わず声を上げたが、その口を再び撫子が塞いだ。
しかし、紳士クンがチラッと言った『男』という言葉に、太刀が鋭く反応した。
「男?男だと?まさかお前、本当は男なのか?
男の身でありながら、この聖堂に足を踏み入れたのか?
もしそうならば──────」
と、太刀はおもむろに右手を背後に回し、後ろ襟から背中に手を入れ、
そこから細長い物を取り出した。
ちなみにそれは木刀であった。
そして太刀はその木刀の切っ先を紳士クンに向け、こう続けた。
「粛清する」
そのあまりの迫力に、紳士クンはそれ以上何も言えなかった。
そんな紳士クンに、撫子が小声で耳打ちをした。
「ここは下手に逆らわない方がいいわ。
この聖堂は男子絶対禁制の場所だから、もしあんたがここで男だって事がバレたら、
副会長の鎌井太刀お姉さまに、半殺しにされちゃうわよ?」
(そ、そんなぁ・・・・・・)




