10 女子しか居ない
「ここよ!さ、早く入って!」
「は、はい!」
愛雛先生に案内されてやって来たのは、
女子部の校舎の裏手にある、教会の様な建物だった。
真っ白な壁に薄く透き通ったブルーの屋根。
その屋根の所には、さっき鳴っていたと思われる鐘があった。
洋式の結婚式もできそうな、そんな建物だ。
建物を眺めるのもそこそこに、紳士クンは正面入口にある、大きな木製の扉を開いた。
ギギィッという年季の入った音とともに、その大きな扉がゆっくりと開き、
建物の中の光景が紳士クンの目に飛び込んできた。
入口から真っ直ぐに細い通路が伸び、その両脇に横長の椅子が並び、
その椅子に白い制服を身にまとった女子生徒達が腰を下ろしている。
通路の正面には、大きな十字架を背にした女性の白い像があり、
その手前に、生徒会長である令を中心に、数人の女子生徒が並んでいた。
その中には撫子の姿もある。
(そういえばお姉ちゃんも、生徒会に入ってるって言ってたなぁ)
とか考えながら、紳士クンは自分がどの席に座ればいいのかと周りを見渡した。
そしその時、「あれ?」と声を上げた。
一体どうしたのかというと、この教会に居るのは女子生徒ばかりで、
男子生徒の姿が一人も見当たらないのだ。
それどころか教師も女性ばかりで、男性教師の姿は全くない。
(どうしてここは、女の人しか居ないの?そういえば入学式は、
男子部と女子部でそれぞれ別の会場でやるって言ってたような・・・・・・)
そうなると、導き出される答えはただひとつだった。
(え⁉まさかここって、女子部の入学式の会場なの⁉)
そう悟った紳士クンは慌てふためいた。
すると愛雛先生が紳士クンの背中をポンと叩いて言った。
「さ、早く席に着いて」
「あ、あのっ、愛雛先生っ!」
紳士クンは、まさかと思いながら尋ねた。
「こ、ここって、女子部の方の会場なんですか⁉」
「そうよ?」
何を分かりきった事を、という風に愛雛先生は答えた。
しかし紳士クンは全く納得できなかった。
紳士クンは(見た目は女の子でも)歴とした日本男児である。
常識的に考えるなら、男子部の会場に案内されて然るべきなのだ。
それが何故に愛雛先生は、紳士クンを女子部の会場に案内したのか?
ただ単に愛雛先生が間違えたのか?
それとも他に理由が?
そう思った紳士クンは、愛雛先生にまた尋ねた。
「あの、どうしてボクを女子部の会場に?」
「え?だってあなた、女──────」
と愛雛先生が言いかけた、その時だった。
「あああああっ⁉」




