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紳士クンの、割と不本意な日々  作者: 椎家 友妻
第一話 紳士クンの入学式
13/103

9 愛雛先生

「──────ブ?」

 意識の遠くから、声がした。

 「──────大丈夫?」

 声は次第にハッキリと聞こえるようになり、

そこにペチペチと頬を叩かれる感触も加わった。

 そして、

 「ねえ、起きなさい。大丈夫?」

 という声で、紳士クンは目を覚ました。

 「ん・・・・・・ん、あれ?」

 ゆっくりとまぶたを開けた紳士クンは、ハッと我に返ってガバッと上半身を起こした。

すると目の前に、紺色のスーツを着て、

細いフレームの眼鏡をかけた女性が、腰を屈めて紳士クンの顔を覗き込んでいた。

 「あ、起きた」

 目を覚ました紳士クンを見て、その女性はホッとしたように言った。

 「あ、あれ?ボク・・・・・・」

 この状況をまだよく飲み込めない紳士クンは、目をパチクリさせて周りを見回した。

 ここはどうやら校舎の廊下のようで、

紳士クンはその端で横たわり、気を失っていたのだ。

 (え・・・・・・と・・・・・・

ボクは何でこんな所で寝転んでいたんだろう?

それにあの会長さんも、何処かに行っちゃったみたいだし・・・・・・)

 そもそも紳士クンが気を失ったのは、

令が使ったあの妖しい香水のせいなのだが、

紳士クンはその辺りの記憶があいまいになっていた。

そんな紳士クンの目の前で、正面に居た女性が、右掌をヒラヒラさせて言った。

 「お~い大丈夫~?まだ頭がボ~ッとしてる?」

 「あ、いえ、もう大丈夫です!」

 紳士クンは慌てて立ち上がりながら言った。

その紳士クンに、女性は心配そうに続ける。

 「ホントに大丈夫?まだしんどいんだったら、保健室まで連れて行ってあげるわよ?」

 「いえ、ホントに大丈夫です!ご心配をかけてスミマセン」

 「まあ、大丈夫ならそれでいいけど。ところであなた、新入生よね?」

 「あ、はい、そうです。って、ああっ⁉そうでした!」 

 入学式の事をすっかり忘れていた紳士クンは、慌てた声を上げた。

 「い、急いで会場に行かないと、式が始まっちゃう!」

 そう言って慌てふためく紳士クン。

そんな紳士クンを見て、女性はおかしそうにクスッと笑って言った。

 「心配しなくても式までにはまだ時間があるわよ。

私も今から行くところだから、ついてらっしゃい」

 「あ、ありがとうございます。その、初対面なのに、こんなに親切にしてもらって」

 「あはは、そりゃあ私はこの学園の教師だからね。それくらいは当たり前よ」

 「あ、先生だったんですか?」

 「そうよ。私の名前は(まな)(びな)(さい)。担当科目は体育よ」

 と、愛雛先生が自己紹介をした時、校舎全体に、教会の鐘の様な、

カラーンカラーンという音が響いた。

するとそれを聞いた愛雛先生は、

 「わ!大変!もうすぐ式が始まるわ!」 

 と言ったかと思うと、踵を返してそのまま走り出した。

 「あ、ま、待ってください!」

 自分一人では会場の場所も分からない紳士クンは、慌てて愛雛先生の後を追った。

すると愛雛先生は走りながら紳士クンの方に振り向き、

爽やかな笑顔を浮かべてこう言った。

 「会場までどっちが先に着くか競争よ!」

 そして愛雛先生は、更に走るスピードを上げた。

 (ええっ⁉め、めちゃくちゃ速い!)

 紳士クンが度肝を抜かれるほどに、愛雛先生は足が速かった。

流石は体育教師というところか。

するとその前方を歩いていた、ちょっと年配の女性教師らしき人に、

 「コラ!廊下を走るんじゃありません!」

 と、教師の身である愛雛先生が叱られた。

 「ひぃいいっ⁉ごめんなさいぃっ!」

 まるで先生に叱られた生徒の様に、愛雛先生はしょんぼりとして立ち止まった。

それを少し離れた後方で見ていた紳士クンは、

 (愛雛先生って、ちょっとおっちょこちょいな人なのかな?)

 と思い、少し親近感を持ったのだった。



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