8 マシュマリティーな感触
(ええぇっ⁉ボク、女の人に抱き締められてる⁉)
その事実が、紳士クンを激しく緊張させると同時に、
ちょっとオトナの、イケナイ気持ちへといざなった。
「この私から逃げるなんて事、絶対に許さないんだから」
そう言って令は紳士クンに体を密着させる。
すると、令の胸元に実ったマシュマリティー
(マシュマロみたいに柔らかいという意味)なふたつの果実が、
紳士クンの背中にポヨリとあたった。
(わっ⁉わっ⁉わわわっ⁉)
紳士クンは色んな意味でピンチだった。
このままでは令に、どんな目にあわされるか分かった物ではない。
下手をすればこの後、
十八歳未満の方には法律的にお見せできないような展開になってしまうかも知れないのだ。
著者的には全然オーケーなのだが、ウブな紳士クンはそういう訳にはいかなかった。
紳士クンは見た目こそ女の子みたいではあるが、
家族以外の女性と接するのは、とても苦手なのだ。
(こ、こんなのダメだよ!な、何とかして逃げないと!)
そう考えた紳士クンは、必死に令の両腕の中でもがいた。
しかし紳士クンの体をしっかりと抱きすくめた令の腕は、
そう簡単に振りほどく事ができなかった。
「うふふ♡」
そんな中令は、左腕で紳士クンの体を抱きすくめながら、
右腕を自分のスカートのポケットに入れた。
そしてそこから小型の霧吹きを取り出し、
その霧吹きのノズルを、紳士クンの顔に向ける。
それをシュッとひとふりすると、中から吹き出た霧状の液体が、
紳士クンの顔全体にかかった。
「うわっ⁉」
突然の出来事に、咄嗟に目をつむる紳士クン。
おかげでそれが目に入る事はなかったが、鼻と口の中にしっかりと入ってしまった。
(う、な、何これ?)
紳士クンの鼻と口に入ったそれは、ほのかに甘い香りと味がした。
(こ、これって、香水?)
と、紳士クンが思ったその時、意識が急激に薄れていき、
少しもしないうちに紳士クンは完全に意識を失い、
目を閉じてその場に倒れこみそうになった。
「おっと」
そんな紳士クンを、背後の令がしっかりと両腕で支えた。そして、
「ンフフ♡」
と不敵な笑みを浮かべ、生徒会室の扉を開け放った。
今日は入学式という事もあり、その部屋には誰も居なかった。
そんな生徒会室に令は、気を失った紳士クンを、ズルズルと引っ張って連れ込んだ。
そしてこれ以上ないくらいに妖しい笑みを浮かべ、
今は令と紳士クンしか居ない生徒会室の扉を、ゆっくりと閉めた。
バタン、と、気味が悪い程に乾いた音が、辺りの廊下に響いた。




