26 実はバレていた?
「怖かったよ乙子ぉっ!」
もはやお互い入れ替わっている事も構わず、撫子はそう言って泣きじゃくった。
そんな撫子の肩にそっと手を置いた紳士クンは、
「もう大丈夫だから」
と優しい口調で言った。
今までは撫子に助けられてばかりだった紳士クンは、ちょっと複雑な気持ちだった。
だがそれは決して嫌な感情ではなく、大切な人を守れたという達成感だと実感した。
(これでボクも少しは、男らしい男に近づけたかな?)
と、心の中で密かに思っていると、そんな二人を傍らで眺めていた太刀が、
撫子の肩に手を置いて言った。
「行くぞ撫子。この盗撮魔の後始末がまだ残っている」
その言葉に、撫子と紳士クンはギョッとして太刀の顔を見た。
「た、太刀お姉さま・・・・・・」
「えーと、これは、その・・・・・・」
撫子と紳士クンは、この期に及んで必死に言い訳を考えた。
しかし太刀は特に怒った様子もなくこう言った。
「言い訳はいい。こうやって盗撮魔が捕まった事だし、細かい事は追求しないから安心しろ」
それを聞いた撫子は目を丸くして言った。
「ほ、本当ですか?」
「私を信じろ。それより──────」
と、太刀は紳士クンの方に視線を移した。
「な、何でしょう?」
緊張のあまり身をこわばらせる紳士クン。
その紳士クンに、太刀は珍しく優しい口調でこう言った。
「良い働きだった。感謝するぞ」
「え?あ、ありがとうございます」
太刀の思わぬ言葉に、紳士クンはそう返すのが精一杯だった。
すると太刀はすぐにいつもの真剣な口調に戻り、
「それでは撤収するぞ!」
と言って踵を返し、気絶した隠子を引きずりながら、保健室を出て行った。
その太刀の後姿を眺めながら、紳士クンは思った。
(あの人、この後太刀お姉さまにどんな目にあわされるんだろう?)
するとそんな紳士クンに、令がボソッとこう言った。
「あの盗撮犯の子は、生きてこの学園から出られないかもね~」
その冗談にも聞こえない令の言葉に、紳士クンは苦笑いを浮かべるしかなかった。