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紳士クンの、割と不本意な日々  作者: 椎家 友妻
第一話 紳士クンの入学式
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6 エシオニア学園

やがて紳士クン達を乗せた令の車は、エシオニア学園の正門に到着した。

 「うわぁ~」

 車から降りた紳士クンは、エシオニア学園の正門の前に立ち、感嘆の声を上げた。

 エシオニア学園の正門は、まるで西洋の城の様に巨大で、

五メートルは軽く超えるであろう鉄製の門から、

えも言えぬ威圧感と風格が漂っている。

その門をくぐると、噴水のある丸い池を中心に緑豊かな庭園が広がり、

その奥に、古代ヨーロッパの洋館を連想させるような、大きな校舎があった。

学園の周りは高いレンガの塀で囲まれていて、外の町並みとはおよそ異質な、

ある種の別世界がそこに広がっていた。

 「なかなかステキでしょう?」

 紳士クンのかたわらに立った令が、微笑みながら言った。

 「は、はいっ!とても綺麗で立派な所ですね!

こんなステキな学園に通えるなんて、ボク感激です!」

 エシオニア学園の光景にすっかり見入った紳士クンは、興奮気味にそう言った。

するとその紳士クンに、背後に立つ撫子が言った。

 「とりあえずあんたは、その汚れた制服を何とかしないとね。

この学園は、身だしなみにはとっても厳しいからね」

 「う、うん。でも、どうすればいいの?」

 「男子部の校舎の職員室へ行って事情を話しなさい。

そうすれば予備の制服を貸してくれるはずよ。私が校舎まで案内──────」

 「私が案内してあげるわ」

 紳士クンの問いかけに撫子がそこまで言った時、令が途中で口を挟んだ。

 「え⁉令お姉さまがですか⁉」

 「ええ、私が」

 驚きの声を上げる撫子に、令は事もなげに頷く。

 「で、でも、こんな事で令お姉さまの手をわずらわせる訳には・・・・・・」

 「紳士ちゃんの制服を汚してしまったのは私の責任でもあるんだし、

撫子さんはこれから入学の儀の準備をしに行かなくてはいけないでしょう?」

 「そ、それはそうですけど、でも・・・・・・」

 「早く行かないと、タッちゃん(・・・・・)に怒られるわよ?」

 「うっ・・・・・・」

 タッちゃんという名に、撫子の顔が一瞬ひきつった。そして、

 「ま、まあ、仕方ないですね・・・・・・」

 と言った撫子は、紳士クンを令から少し離れた所に引っ張って行った。

 「ど、どうしたのお姉ちゃん?」

 紳士クンが声を潜めて尋ねると、撫子も声を潜めてこう返す。

 「いい事紳士、くれぐれも気をつけるのよ?」

 「え?気をつけるって、あの令さんっていう人に?」

 「『お姉さま』を付けなさい。

でね、あの令お姉さまは、見た目はおしとやかで上品なんだけど、

中身の方は、その、お、おて──────」

 「『お転婆(てんば)』だとでも言いたいのかしら?」

 ヒソヒソ話をする蓋垣姉弟の背後から、令がヌッと顔を出して言った。

 「わわわっ⁉い、いえいえ!決してそんな事はないですよ⁉

わ、私もう行きますね!紳士!令お姉さまに粗相のないようにね!」

 撫子はそう言うと、逃げる様に校舎の方に走って行った。

そんな撫子の後姿を眺めながら、令は口を尖らせて呟く。

 「私がお転婆だなんて失礼しちゃうわ。

撫子さんだって、私に負けないくらいのお転婆さんなのに。ねぇ?」

 「え?えーと・・・・・・」

 令にそう言われた紳士クンは、どう答えたものかと言葉を詰まらせた。

 (お姉ちゃんだって(・・・)っていう事は、やっぱりこの人もそうだって事?)

 そう思った紳士クンに、令はニッコリ笑ってこう言った。

 「それはともかく、私たちも行きましょう?急がないと式が始まってしまうわ」

 「そ、そうですね」

 紳士クンは頷いてそう言ったが、背中の辺りに、何とも言えない悪寒を感じていた。



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