1 いきなり絶体絶命
綺麗な夕日が空に浮かぶ放課後だった。
とある中学校の体育館裏に、二人の男子生徒が向かい合って立っていた。
その内の一人は、長身で肩幅が広く、筋肉ムキムキの手足に、
太い眉毛、つり上がったイカツイ目つき。
名前は伴 兆太郎といい、この学校で最もケンカが強く、
よその学校の生徒からも、『番長』と呼ばれて恐れられる、
とっても怖~い男だった。
そしてその正面に対峙する彼は、そんな兆太郎よりも頭ふたつくらい背が低く、
華奢で手足が細い。
髪は耳が見えるほどのショートヘアーで、
瞳はつぶらでややタレぎみになっており、
男子の制服を着ていなければ、女の子にも見えるような顔立ちをしている。
そんな彼の名前は蓋垣 紳士といい、実はこの物語の主人公。
その紳士クンが、ある日の放課後、
番長の異名を持つ兆太郎に体育館裏に呼び出されたのであった。
ハタから見ると、
二人がこれからタイマンのケンカを始めようという雰囲気では全くない。
ガタイの大きい兆太郎が、そのイカツイ目つきでもって紳士クンを睨み、
対する紳士クンは、小さい体を更に縮こませ、兆太郎の視線に震えている。
という訳で、物語の開始早々、紳士クンはピンチに追い込まれていた。
イカツイ兆太郎を前に、紳士クンは完全にビビッている。
(うぅ・・・・・・どうしてケンカ番長の伴君が、
ボクなんかをこんな所に・・・・・・)
紳士クンは必死に考えるが、
兆太郎に呼び出されるような心当たりは何処にもなかった。
そんな中兆太郎は、紳士クンの方に一歩近づいた。
「ひっ」
恐怖におののく紳士クン。
しかしその恐怖のあまりに足が固まってしまい、逃げ出す事もできない。
そんな紳士クンに兆太郎は、一歩、また一歩と近づいてくる。
そしてとうとう、紳士クンのすぐ目の前まで歩み寄った兆太郎。
手を伸ばせばすぐに、紳士クンに掴みかかれる距離だ。
紳士クンはもはや、逃れる術を失ったのだった。
(あわわわ、どうしよう・・・・・・)
目を泳がせる紳士クン。
そんな紳士クンを、兆太郎は一層イカツイ目つきで睨んだ。
そしてその大きくてゴツゴツした両手で、紳士クンの華奢な肩を掴んだ。
「う、うう・・・・・・」
紳士クンは恐怖で何も言えなかった。
もはや絶体絶命。
紳士クンはこのまま兆太郎に痛い目にあわされてしまうのだろうか?
それともカツアゲをされてしまうのか?
はたまたその両方?
紳士クンの頭の中で、あらゆる想像がかけめぐる。
そんな中兆太郎は、ドスの利いた低い声で、
「蓋垣っ!」
と、紳士クンの苗字を叫んだ。




