地雷女神との邂逅
「私は思うのです!ただ生命が尽きる事で優れた生き物の経験や知識が世界からこぼれ落ちてしまう事がどれだけ次元の損失になっているか!」
純白の薄衣を纏った白髪の美麗な・・・うん、これ以上取り繕ってもあれだから自分に正直に言おう、目の前に全身真っ白のめちゃくちゃ綺麗な人がいて何かを熱弁してる。
この状況は一体なんなのだろうか。
自分はどうしてここにいるのだろうか。
「だというのにこの世界で最強である貴方は昨日死にました!何で勝手に死んでるんですか!貴方は敵無しのはずでしょう!?!?」
何を勝手に死んでいるのか。だって?ひどく自己中心的な女だな。俺にはわかる、こういう女は美人でも絶対に付き合っちゃいけないタイプだ。所謂地雷女って奴だ、関わらないに限る。
それにしても何故死んだのだろうか。
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時は昨日に遡る。
俺、ウェイン・ギルフォードはグラブ王国直下暗殺部隊「黒煙」の隊長を務めていて、その日も任務を終えて自宅の書斎で寛いでいたところだ。
この部隊に所属して5年ほど経つが、もう1000人以上の悪人を始末してきた。まあ「この国にとっての」という注釈は入れておくべきだろうか。特段苦労する事もなく、淡々と任務をこなす俺の事を、俺を知る人は皆「死神」と呼んでいたが正直ありふれた2つ名だと感じていたし、そんなに難しい任務でもないのに何故周りは囃し立てるのか不思議で仕方がなかった。
そんな事を考えながら、椅子の後ろ2本の足を軸にしてふらふら後ろに体重を傾けていたのだが、たまたま変えるのを忘れていた燭台から蝋がこぼれ落ち、その蝋が椅子の足を滑らせ、俺は後ろに倒れ・・・てはいない。
倒れる寸前で椅子の外側に両手を力強く突き出し華麗に立ち上がる。見られてなくてよかった、恥ずかしいから。
俺は恥ずかしさを隠すために歯をつい食いしばってしまった。
プチっ
あ、忘れてた。失敗しないから使うことなんてなかったけど、一応規則だからと毎回仕込んであった奥歯の毒を歯を食いしばった拍子に潰してしまった。
並大抵の毒であるならば暗殺者は耐えることができるようにトレーニングしている。俺も世に出回ってる9割9分は耐えることができる。しかし自害用の毒は別だ。ちゃんと死ぬ奴じゃないと役割を果たせないという事で、1000年以上生きている古代毒龍の毒を歯に仕込んでいた。
仮にも死神と呼ばれていた男。その毒を持ってしても一舐め程度では死なない。
そこでガラスで作った擬歯内にたっぷりと毒を入れて奥歯に入れてある。なので絶対死ぬ!終わった!
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「俺・・・めちゃくちゃダサいじゃん」
あーそういえば昨日そんなことあって死んじゃったか。我ながら情けないもんだ。
「そうなんです!めちゃくちゃダサいんです!折角この世界で最強だったのに勿体ない」
そう女神を自称する地雷系美女は言っているが、最強?そんな話は聞いたことがない。
「いや、最強ではないんじゃないか?あくまで俺は暗殺者だったわけだし、最強ってのはそれこそ王国の筆頭魔術師だったり騎士団長だったりするんじゃ無いのか?」
率直に疑問を伝えると女神は予想していたのかすぐに返してくる。
「そんな肩書きで実力が変わるんだったら当の筆頭魔術師や騎士団長が貴方に嫉妬して暗殺部隊に送り込まれる事もなかったでしょうね」
ニヤリと、したり顔で言ってくる、何だって。俺は嫉妬で暗殺部隊に入れられたのか。確かに最初は騎士団と魔術師の兼務を打診されていて、何故暗殺部隊になんて思ってたが、そんな裏があったなんて俺は知らないぞ!
「おい、いくら何でもそれはあり得ないんじゃないか?だって暗殺部隊だぞ?そんな事を理由に適性のない人間をもし配属でもしたらすぐ死ぬだろう」
「はあ、貴方は地力が強すぎていたから失敗しなかっただけで、暗殺者の適性なんて一ミリもないですよ。あったらこんなことで死ぬなんてありえないですよ、正直言って馬鹿すぎます!何回も彼らが仕掛けた罠を強引に壊すから最近では諦められてたくらいなんですから!」
少し前屈みになり胸を強調するようにこちらに寄りながら話しかけてくる。うん、地雷だな。こういう女や地位に縋り付いてくるタイプの女は絶対に関わっちゃいけない。
すると女神風の女性はジト目でこちらを見ている。なんだ、本当に地雷でも踏んだのか?
「私、これでも神様ですから」
「ああ、そう言っていたな」
何を繰り返しいうんだ。何回も繰り返していう女、地雷だな。
女神は地団駄しながら目を釣り上げて急に叫びだす。
「地雷だ地雷だうるさいんですよ!!地獄に送ってやろうか!この馬鹿最強!」
ほら間違ってなかった、地雷じゃないか。