10話「奴隷事情その5」
今回は長めなのでゆったりした時に見るのがお勧めです
ロサナが消息が途絶えたと言う報告を受け、ルベット達は場所を変えた。
ハブネスが所持している、店のとある一室。
部屋には二つのソファーがあり、うち一つにルベットとラキルラは座っている。
対面するはハブネス、後ろに護衛するように立っている人物は取引でいた男魔術師と、大鉈を肩に担ぎ見下ろす男。
鉈男の顔は傷だらけで、どう見ても堅気ではない。
荒れ事には慣れている様子でもある。
男魔術師と鉈男の両名は相当警戒していた。
「ほっほっほ、ルベットと言ったかのぅ。お主から殺気が漏れて。怖い怖い」
護衛に守られているおかげか、ハブネスはニコやかな表情をして余裕綽々といった様子。
「あれだけ気持ちよく飲んでるのに、それが誘拐されたって聞かされたらね。酔いなんて覚めるほどのぶち切れ案件だよ」
「それはすまなかったのぅ。今回は私達が追っていた賊のアジトが判明した緊急の案件で、信頼ある配達人の、お主を丁度思いだしてねぇ」
「まあいいが、それで本当にロサナとイルアは誘拐されたのか?」
「間違いなく」
ルベットはため息をついた。
「んで、どこの馬鹿で屑が誘拐したんだ?」
「この町を拠点として活動をしている盗賊ギルド“ユーエル”」
「ユーエルっつと、魔物の密漁で有名な所じゃん」
「そうじゃ。密漁程度だと私達の商売に関係なかったので目を瞑っていたが。ここ最近奴隷にまで手を出し始め、被害まで出てきたからのぅ。お灸を据えなならん」
「なるほどな。場所が場所な上に調子乗り始めたってわけか」
「それから訂正すると、あの娘を狙ったんではなく奴隷のイルアを狙ったらしいのじゃ。ロサナという小娘はたまたま一緒にいたからという理由となるじゃろう」
「らしいってなんでわかるんだ? 確かにロサナはイルアと一緒にいたはずだが」
ルベットはそう疑問を呈した。
答えるように、ハブネスは指を鳴らす。
扉が開かれると、一人の男がロープで括り付けられ身動き取れずルベット達の前に放り出される。口には口縄も付けられ喋られない状態であった。
「こいつ確か……あの店の雇われ店長か」
「そう、この屑が自白したわけじゃ。恩を仇で返してむかつく男だよ」
男は恐怖に怯え、逃げようとするも身動きできず地を這う芋虫のように進むしかなかった。
だが扉にはハブネスの部下が待ち構え逃げる事は不可能であった。
「何人か仲間を捕まえたのに成功して拷問して吐かせたからで確定したわけさ」
「ん? ならなんでその時にロサナとイルアを助けなかったんだ?」
「彼女達には悪いが、撒き餌になってもらったのさね」
「撒き餌?」
「奴等の拠点はこの港町とはいえ、私達の目を欺くほど。隠れ家の場所なる場所が見当たらなかったわけじゃ」
「つまり、イルアとロサナは囮と言うわけか」
「今はこの町で収まっているが、いつしか王都でも幅を広げてしまう。その時にあんた達の仕事にも支障をきたすのが容易に想像できよう。壊滅させる為にもあの小娘達には死んだら死んだで諦めてほしい。もちろん、巻き込んでしまった詫びに相応の金は出すさね」
「はは、なるほどなるほど確かに、俺ら下っ端だと替えが効くかもしれないわな。ギルドとしても利害の一致……」
にこやかな表情をしながらルベットは数度頷く。
だが、次第に額に血管が浮き出始め、ゆっくりと息を吸いながら口を開く。
「ふざけるな」
ただそう言い放つ。
威圧的に反論の余地さえ見いださせない。そんな一言。
「俺はまだいい。だがロサナ。あいつは俺が直々に指導して、これからって時に被害にあったわけだ。それがなんだ? お前達の抗争に巻き込まれて死んだら、諦めろだぁ!?」
ルベットは机を叩いた。
「そんなに盗賊ギルドを潰したければ探したければ、俺がお前の首根っこ掴んで連れて行って一緒に潰してやろうか」
「てめぇ! 黙って聞いてりゃ調子のんじゃねえぞ!」
鉈男は大鉈をルベットに突き付けた。
殺し合いに発展しそうなまでの一触即発。
「これこれ、若者は血の気が多くて困るのぅ。これかだから喧嘩はよくない」
「しかし婆様!」
「なぜに私がお主に伝えるかわかるかのぅ。伝えずそのままこちらが解決しにいく事もできたじゃろう。じゃがな、今回伝える事は私達からの情報の共有。そして互いの信頼、信用してほしいから言っておるのじゃよ」
「確かに。僕達ではロサナさん達を見つけるのは到底不可能ですね。ここはこの人達に任せてみてもよいのでは?」
ラキルラはそう言った。
事実、ハブネスの言う事は間違いではなかった。
実際行動を起こした所でロサナの居場所を見つけられなければ意味がない。
むしろ知れ渡ってしまったら、今以上に危険に晒してしまう恐れがあるからだ。
ルベット達には知らなくてもハブネスは情報を知っているからして、その情報を得るためにも協力せざるをえないのだから。
それがルベットに冷静になる判断材料を作ってしまう。
「信用信頼ねえ……。どうせ概ね潰して商売ルートを自分の物にしたいって事だろう」
先ほどとは打って変わって、ルベットは冷静な表情で冷静に言った。
ハブネスもニコやかな表情から一変、笑みは消えていた。
「正解か。本当にできたらこんな回りくどい事せず、そのまま潰してるわな。それができないってのが本音だろ。俺もあんた達には同意する部分はあったよ。表向きは健全な奴隷商だろうしな。ラキルラお前なら理由わかるだろ」
ラキルラは頷く。
「この国が定めたのだと、奴隷商が保護下にある奴隷が揉め事を起こした際には、公防ギルドと組合に報告する必要がある。報告しない場合は相応の罰則が科せられ、最悪業務停止もありえる。とか」
「抜け穴として、今回みたいに“手助け”って理由でなら、ペナルティなしに動かす事もできるからな。そりゃ俺達を利用したいわけだわな。なっとくだー」
自問自答するかのように何度もルベットは頷く。
それが煽りと思われたらしく、鉈男は怒声を放つ。
「お前は何がわかる! 婆様が今まで苦悩の中どれだけ必死にやってきたか!」
「理解はできるよ。理解は、だけどさ……やり方が汚いんだよ」
「なら、てめえになにか代案があるというのか!」
「まあない事はないさ」
「それはなんだ」
ルベットは指を一つ立てた。
「ラキルラ含め、奴隷商には絶対不可能。今この場で俺にしかできない事さ。話しに乗るなら俺はあんたの思惑に俺は当然利用されてやるよ」
「よかろう言ってごらん」
同時刻、倉庫街付近の住居街。その一棟にある盗賊ギルドのアジトユーエル。
他の建物と同様の外見であり、パッと見た程度だとアジトだとは区別がしにくい見た目になっている。
建物内には地下へと通じる階段が存在しており、進むと大きめの石壁牢獄が存在していた。
さらってきた奴隷などを隔離して入れる場所。
その中にロサナとイルアが捕まり閉じ込められていた。
元々が大人数を収容する場所でもあるせいか、ロサナとイルア二人だと広い。
体力を消耗しているからか立ち上がる事もせず両者とも壁にもたれかかっている。
「ごめんなさい」
捕まったあと、イルアは何度もロサナに謝罪の意を述べていた。
イルアの精神は相当に参っているのがロサナにはわかる。
ロサナ自身もこの状況に精神的疲弊を感じていた。
「何度も謝らなくていいよ。わたしがあの時、もっとしっかり確認してたら上手く撒けてたんだけどねぇ」
「ううん、私が足を引っ張らなければロサナだけでも逃げられたのに」
「気にしないで、結局相手のほうが強かったんだからどの道捕まってたよ。それよりもわたし達が捕まってどれぐらい経ったんだろ。時間的に夜なのかな?」
ロサナ達が捕まって早数時間。
地下だからか外を確認できるような小窓もない。とどのつまり完全に外界との隔離部屋ともいえる。
灯りという灯りは壁にかかっている松明の火。
十分な光とはいえないが、ないよりかは幾分マシな程度である。
鉄格子には鍵がかかっており、力づくで開ける事も逃げ出す事も不可能であった。
「そうだ」
ロサナはそう言うと、思いだすように懐から一つの笛を取り出す。
「それは?」
「前に仕事で合図に使った笛」
「それを鳴らせば外に聞こえて助けを呼べるね!」
ロサナは首を横に振った。
「ううん。今は鳴らしてもまだ聞こえないと思う。それ以前にただ鳴らした所で、こないと思う」
「そんなぁ……」
「だけど、これを鳴らす事で獣人だけなのかな? 音に反応して頭痛を引き起こすんだよ」
「ならロサナも?」
「うん、わたしももらうね。だけど、もし開けたのが獣人ならこれを鳴らして脱出できるよ」
「チャンスは一度っきりってことだね」
ロサナは笛を懐にしまった。
「それにしてもご主人。今頃わたしの事探してくれてるのかなぁ……」
ロサナは思わずそう呟いた。
この環境下の中でもっとも信頼に置ける人物を思い出したからだ。
「ロサナのご主人ってどんな人なの?」
「……うーん、適当で酒好き、だらしがなく、仕事も本気なのかわかんない。サボろうともしてたし。本当に大丈夫なのかなって思ったりも」
暗がりの中、ロサナの表情はわかりにくい。
なのだが、ただの人族であるイルアはロサナが今どういった表情なのか組み取れる。
「けど、けどね。それ以上にね。とてもとても良い人。わたしに気遣ってくれるし。一緒に居たい人」
声だけでも嬉しそうに話しているのがイルアには伝わってくる。
「わたしね。こんな状況でもきっとご主人は助けにきてくれる。そう思ってるんだ」
「よっぽど信頼しているんだね……」
「うん!」
純粋で、とても。そう、とても羨ましいとイルアは思ってしまった。
「けど、私達がここにいる事も向こうは知らないし。もしかしたら助けてくれるかわかんないよ」
だからこそ、こう口走ってしまう。
同じ奴隷なのにこうも違う。妬ましさもあった。
「ううん。きっとご主人は助けてくれる」
「だけど、こう何時間も経って未だに見つけてくれないんだよ? このまま見つからず遠くに売り飛ばされるかもしれない! あなたのご主人だって……!」
イルアは自分の頬に伝う感触を感じた。
手で拭うが止まらない。
涙を流しているのに気づく。
「確かに、時間かかってるかもしれない。だけど、わたしは彼を信じてる。わたし達は助かるよ」
ロサナはイルアに近づくと、優しく包み込むように抱きしめた。
イルアは痛感する。自分は嫉妬していたのだと。同じ立場と思い込みたかったのだと。
不甲斐なさに対して悔し涙を流す。
「ごめんなさい喚き散らして……」
「ううん、いいの。それよりも何だか外が騒がしい。どうしたんだろ?」
イルアは耳を澄ませるが聞こえない。
地下だからか、音が入らないはずなのだがロサナの耳には何かしらの情報が入っている。
「何だか数人こっちに向かってくる。捕虜がどうのって」
次第にイルアの耳にも階段を降りる足音が聞こえ、扉が勢いよく開く。
ロサナ達が入っている鉄格子の前には槍や手斧を持つ軽武装の男が三人。
一人は人族であり、二人はロサナと同じ獣人であった。
戦闘準備に入っているのか、イルア達の処遇がこの時点で理解した。
「くそっ! こんな夜ふけに公防の奴等がアジトに踏み込んで来るなんて。最悪こいつらを盾にして逃げるぞ」
追い打ちをかけるように男の一人がそう言った。
盾にする。つまりは自分達が逃げるための人質になると言うのと同義。
助けを叫ぼうが外には聞こえない。
ただし、より大きな音響があれば話は別だろう。
「お前達はそこにいろ」
扉が開かれていくと人族の男が一人が中に入って来る。
ロサナよりも一回りも大きい巨漢な男。
残り二人は獣人。牢の外で待っていた。
「さあ来い」
男はイルアの腕を掴み立ち上がらせようとした。
「だめ、させない!」
ロサナはイルアを庇うように男に体当たりをかます。
だがビクともしない。
「こいつなにしやがる!」
男はイルアを突き飛ばすと、ロサナを掴もうとする。
だが、ロサナの持ち味である聴覚を活かし、寸の所で避ける。
何度も繰り返す事で男を苛立たせより一層、動きを単調にさせる。
暗さも相まって、男の視野も狭ばる。
更には男が暴れてるおかげで他二人は巻き込まれるのを恐れ牢獄の中に入って来れない。
おかげかロサナにとっては優位の立場にいた。
「この!」
ロサナはかけ声とともに地面を蹴り上げ、男の顔面に殴りつけた。
殴られつつも男はそのままロサナの服を掴むと、壁に投げつけた。
「身体能力には自信あるようだがな、軽いんだよっ!」
痛みがロサナの背中が広がる。
身体を起こそうとするも中々起きあがれない。
「やっとおとなしくなったか。おい、早くこいつら運べ」
外で待っていた獣人の二人は中に入って来る。
イルアはロサナの前に立つと両手を広げ庇うように守る。
「わ、私は大人しく連いくていくから。ロサナだけは連れて行かないで」
「だめだ。そいつは俺の顔を殴りつけた」
訴えるも虚しく拒否される。
ロサナとイルアは男達に腕を掴まされ無理やり立ち上がされる。
「そうだな。二度と抵抗できないよう骨の一本二本折っておくか」
男は手を伸ばそうとしたその時。
ロサナは叫ぶ。
「イルア。耳を塞いでっ!」
とっさの事で理解は出来ずにいたが、イルアは従うように両耳を塞ぐ。
視線はロサナの口に咥えていた笛に注目した。
勢いよく息を吐くように笛を鳴らす。
耳を斬り裂くような甲高い汽笛音。
更には地下だからか音が反響し、より高音がイルアの耳にも飛び込む。
音が止むと獣人の男二人とロサナは頭を抱えうずくまっていた。
「今だ!」
イルアはロサナの腕を掴むと男達の横を通り抜け外に続く階段へと向かう。
しかし、ロサナは笛の影響で動きは遅く、更には敵の一人が人族であるせいか即座にロサナのマントは男に捕まる。
他獣人の二人は未だに床に突っ伏し頭を押さえていた。
「先に行って助けを呼んできて!」
ロサナはイルアの身体を外に逃がすように背中を押した。
イルアは一瞬の戸惑いを覚えつつも、振り返らず階段を駆け上った。
男は後を追いかけようとするもロサナに足をつかまり、つまずいた。
「放しやがれこの糞女!」
「絶対に離さない!」
「このっ!」
男はロサナを何度も足蹴りに叩きつけるも、ロサナはそれでも必死に男の足止めをすべくしがみ続ける。
「てめえら起きたなら、外に逃げた商品を捕まえて来い!」
いつの間にか回復し起き上がった獣人二人はロサナ達の横を通り抜けて行く。
ロサナは獣人の一人を掴もうと手を伸ばすが、男に蹴り投げつけられ思わず離してしまった。
「ようやく放しやがったな。その手足潰して身動きとれなくしてやる!」
悔しそうに涙を浮かべ男を睨みつけるロサナ。
男はロサナの首根っこをつかむと、持ち上げた。
額から血がでているせいか、目に入り見えにくくなっている。
助ける者はこの場に居らず、今度こそ絶体絶命であった。
そんな中でもロサナには言葉にする。
「助けて……助けてご主人!」
ふとロサナの嗅覚に知ってる匂いに鼻がヒクついた。
視線を鉄格子の扉の方に向けると、懐かしい姿が目に映る。
ルベットを模した幻覚。そうロサナにとって最後に会いたかった人物がルベットだと思い込んでいたからだ。
だが幻覚は男に向かい殴りかかった。
男も手に持っていた手斧で攻撃しようとするが、避け男の腕に向かい殴り突けた。
鈍い音が鳴り響くと折れる腕。
男は苦悶の表情を浮かべロサナから手を離した。
幻覚はロサナを落ちないように受け止めた。
「遅れて悪かった。よく頑張ったな」
懐かしささえ覚える声がロサナの耳に入る。
そしてそれはもっとも聞きたかった言葉。
ロサナの目の前にいる人物は幻覚、幻聴ではない。
紛れもないルベットであった。
「ご主人……ご主人……」
ロサナはルベットに顔を埋め抱きしめた。
掠れる声で呼ぶ。
「この野郎。よくも俺の腕を! 腕をっ!」
男は腕を抑えながら怒りをあらわにしている。
ルベットはロサナを守るように後ろに隠す。
「ああ、邪魔だったからな。もうここには用がないわ。あとは公防にでも捕まっててくれ」
「くそが! もういい、お前等は殺す! 絶対に殺す!」
男は手斧でルベットに向かい振りおろすが、ルベットによって止められた。
「なっ! 動かねえ! それになんだその腕は!」
男は驚きの表情を見せる。
ロサナも男と同様にルベットの腕を見て驚きを表す。
ルベットの両腕は黒い靄のようなもので覆われ、手斧を掴んでいたからだ。
「お前に教える必要はねえよ」
ルベットは手斧ごと男を引き寄せると、殴りつけた。
まるでボールに投げられたかのように男は吹き飛ぶ。
そのまま壁に激突すると石壁が剥がれ男の上に乗った。
ロサナは警戒を続けるも、男はピクリともせず動かない。
「し、死んだの?」
「いや、だいぶ加減したからな。死んではないと……思う。多分」
頬をかきながら歯切れの悪い言い方をする。
ルベットの腕の黒い靄は晴れるように無くなり、人間の腕が現れた。
「ご主人腕が」
「ああ、まあ……」
ルベットは鞄に手を入れると魚の干物を取り出しなぜか食べ始めた。
「ご主人なんで今?」
「まあ腹減ってたからな。そんな事よりも傷の方は大丈夫か?」
優しくガラス細工を扱うように触れ、ロサナの顔を上げさせた。
微かな光でもロサナの顔にはいくつか傷がつけられているのを確認はできた。
「顔も結構ひどい傷だな。外にでたら治療師に治療してもらうといい」
「だ、だ、だい、大丈夫このぐらい」
次第にロサナの顔は紅潮させ、慌てて押しのけた。
「そうか。まあけど傷が残ると何言われるかわかったもんじゃないし治療しとけ」
「う、うん……」
「とにかくだ。今は早く脱出するぞ。どうも改修補強もされずにいるから、ここら周辺建物自体含めだいぶ脆くなってるらしい」
ロサナは改めて壁を見ると、一面ヒビが入っていた。
この場がいつ崩れてもおかしくない状態。
ロサナはルベットの手を取ると、急ぎ足で階段へと昇り始める。
すると爆発音が鳴り響き、地面が揺れた。
「くそっ! 建物が崩れる!」
ルベットはロサナの頭を抑えるとしゃがませた。
しばらくし、揺れは収まると周囲は暗く何も見えない状態にあった。
「ロサナ無事だな」
「うん。けどさっきのは」
「多分、ここの賊と公防が戦ったんだろ。その際に爆発物を使ってって感じか」
ルベットは階段昇降口付近を手で押し上げようとするものの、完全に防がれているせいかビクともしない。
戻ろうと下るが、牢獄の入り口は崩れ去り後戻りは不可能になっていた。
幸いといえるのは階段通路は運良く崩落は免れていた。
「ロサナ。外の様子はどうなってる?」
「とても騒がしいかも……。危険だから離れてる人も多い」
「仕方がない。今日は二度使いたくなかったけど。やるしかないか」
「どうするの?」
「ここにいた所でいつ助けにくるかわからんし、こじ開ける」
ルベットは上り出口付近で待機すると、全身を集中させるように呼吸を吐く。
「なに……これ……」
急激な悪寒がロサナを襲う。
海が近いせいでもなく、夜の冷え込みのせいでもない。
ロサナの目の前にいるルベットに対してだ。
「ロサナ……しゃがんでろ!」
轟音と共に崩れ埋もれていた瓦礫や木材が宙に舞う。
開かれた空は暗く、夜なのがロサナの目に映る。
「ご主人……?」
ルベットは全身が黒く靄のようなものを覆う。
光を吸い込むほどの漆黒。
ロサナはそれがなにか今、理解する。
「瘴気」
反応するかのようにルベットはゆっくりと振り替えると、ロサナに手を伸ばした。
ルベットに対する恐怖なのかは定かではない。
だが、ロサナは一歩、後退りを無意識にしてしまったのである。
「腹減った……」
「へ?」
腹の虫が鳴る音。
同時にルベットに覆われていた瘴気は拡散しルベットは元の状態に戻る。
「ご主人今のは……」
「……そんなのあとあと。ロサナとにかく混乱している今のうちに外に出るぞ」
崩落した建物。周囲には石や木材が散乱。
夜にも関わらず、おおごとな事件からか野次馬の群れが集まっていた。
「ほら見てみろよ。今回のロサナ達を誘拐した賊が捕まってる」
ルベットの指さす方向にロサナは視線を移した。
賊と思わしきは皆、手枷を付けられいる。
手枷の間に縄で繋がれ先頭の人物に引っ張られる形で連行されている。
その中にはロサナ達と対峙して、外にでた獣人二人もいた。
「あの先頭にいる人って?」
「公防ギルドの奴だな」
賊は全員軽武装に比べ、全員が全員甲冑を身にまとい装備の質も全く違っていた。
後方には国に所属しているからか国旗を掲げている。
抵抗する者は居らず賊は全員大人しくしていた。
「本当に終わったんだ」
「ああ。やっと終わったな」
「ご主人。本当にありがとうって、どうしたの?」
ルベットは腹を抑えていた。
「いやぁ、安心したら腹が減ってな」
「もうご主人ったら。あはは」
緊張が解れたおかげかロサナは嬉しそうに笑う。
人混みの中、かきわけるようにルベットとロサナに近づく人物。
イルアであった。
「ロサナ!」
「イルア!」
歓喜からか涙を流し抱き合った。
ルベットは二人の様子を微笑ましく眺めていると、突如背中を叩かれ振り返った。
叩いた人物はラキルラだった。
「ルベットさんやりましたね」
「ラキルラか。ロサナもイルアも助け出せたし壊滅もできたわけで、これで一件落着だろ」
「ええ、こちらもルベットさんの言いつけ通り上手くいきましたよ」
ロサナが不思議そうにルベットの事を見た。
「ああ、ロサナを助け出す前にこの町の公防に連絡してな。駆り出してもらったわけよ」
「その時に敵アジトの場所を追い込み一網打尽に出来たわけなので、向こうは助かっていましたよ」
興味なさげに「そっかー」っと言いながら頭をかいた。
「そんな事よりも宿に戻んぞ。腹減った!」
次の日、ルベット達はラキルラの馬車に乗り込み優雅な旅路で王都へと戻る。
「それではルベットさん、今回はありがとうございました」
「こっちとしてはもう二度と依頼受けたくないけどな。今度は正規の冒険者を護衛に選抜しとけよ」
「父にはそう伝えておきます。あ、ロサナさんにお伝えしたいことが」
「はい?」
「イルアさんの事で」
ロサナはゴクリと喉を鳴らしラキルラの話に耳を傾けた。
「次は別のまともな職場として斡旋してくれるそうです」
「本当!」
「ええ、ルベットさんが話をつけてくれたそうで」
ロサナはルベットに視線を向けるその目はキラキラと輝く。
ルベットは気だるげに手をヒラヒラとさせた。
「もう話は済んだろ。さっさと行け」
「奴隷のご利用があればお申し付け下さい。またの機会をお待ちしております」
クルセルラビットに戻ったルベットとロサナはアドレナの前に立たされていた。
エラメル港町での出来事の噂が耳に入り、その聴取をしていた。
ロサナが必死で弁明のおかげか事なきをえたのであった。
ようやく一段落です。
ちと奴隷関係は冗長すぎましたね。
本来なら2話か長くても3話程度で収めるべきでした。
本編で出てた公防は2話の公認環境防衛ギルドと同じです。
主に町に常駐している防衛ギルドと認識していいでしょう、今でいうなら警察がわかりやすいですね。
それから主人公が放っていた瘴気ですが、またここらも掘り下げていけたらなって感じで今回はちょいだしさせてもらいました。
仮に掘り下げるとしてもまだまだ先になりそうな予感がします。