プロローグ
洞窟内に咆哮が唸る。
吐き出される赤い炎は超高温となり直接浴びれば灰をも残さず。
鱗に覆われた巨大な身体は鋼をも通さず、巨大な鉤爪は鉄をも斬り裂く。
旅人や商人、はたまた幾人もの冒険者。そして同種の魔物すら恐れをさせる巨大な存在。ドラゴン。
そんなドラゴンに対するは僅か四人。
無謀にも思えるが、彼等は誰しも自信あり気な表情で向かう。
一人は聖剣を持つ勇者少年アルス。
二人目は拳と足で戦う武道家の青年リッラ。
三人目はトンガリ帽子を被り杖を持つ魔法使いの少女ライラ。
四人目は聖職者の格好をした補助回復師の少女ウエリィ。
「勇者様指示を!」
そう言ったのはライラ。
アルスは剣をドラゴンに向けた。
「俺とリッラが特攻して分散させる。ウエリィは俺達に身体強化の魔法をかけて、ライラはあいつの目くらまし。そのうちに攻撃だ」
言い終えると同時にドラゴンへと特攻を仕掛けるアルスとリッラ。
詠唱を唱え始めるウエリィとライラ。
ターゲットを絞り込まれないよう左右にそれぞれ動き、攻撃をし始める。
剣で斬りつけ、拳で叩く。
もちろんドラゴンもただられるだけではなく、鉤爪や尻尾で反撃をする。
尻尾で吹き飛ばされたリッラは壁に激突。
「リッラ大丈夫か!」
「あ……ああ。流石はドラゴン。油断してなかったとはいえまともにくらってたらやばかった」
「良かった。魔法はまだか!」
「今終わったわ!」
「こっちも」
アルス達の身体は光で包まれ、ドラゴンの攻撃を紙一重で躱す。
ドラゴンの瞳は黒く染まり、何度も大振りで空を斬る。
その間にもアルス達は攻撃を続けた。
身体強化の魔法が施されたアルス達は尋常じゃないほどのスピードを出し、一太刀、一撃が鱗をも破壊し内片まで到達する。
ドラゴンの視界は魔法により暗くなっているが、嗅覚はまた違う。
鼻は大きく広がり鼻腔に広がるにおいで居場所を特定した。
「こいつ、今ので俺達の……まずい! 火炎息だ!」
周囲の空気がドラゴンの口に集まり、喉奥から赤い光が集まる。
「させねえ!」
吐き出されそうになる炎。
リッラの拳で顎下を当て無理やり閉じ、口は爆発音を放ち煙が上がる。
ライラが杖から放った魔法のロープがドラゴンの体中に巻き付き動けなくした。
「勇者様、今です!」
「ああ!」
渾身の放った一撃がドラゴンの胴体を斬り裂く。
ドラゴンはピクリとも動かず息絶えた。
「やった……やったぞ。やったぞ!」
「やりましたね」
歓喜の声援で洞窟内が木霊する。
アルス達だけではない、強大な敵を討伐して帰還した英雄の出迎えのような、そんな歓声が洞窟内に響かせた。
「終わったぞ。来てくれ」
アルスが叫ぶと、洞窟の奥や岩かげから現れる人だかりの数。
数十人はいるだろうか。
みなそれぞれ道具を持ちドラゴンの死骸に群れる。
「すげえ。流石は勇者。またの名を龍滅職と呼ばれてるだけあるな」
群れる人だかりと離れ、遠くで巨大なドラゴンの屍を剃り残した顎鬚を触りながら見上げる男。
グレーのマントを羽織り、腕の腕章には兎のエンブレムが入っていた。
男が所属している配達ギルドのエンブレムだ。
パシンと頭を叩かれ痛みを感じる。
「なにすんだよ」
「呆けてんじゃねえぞルベット。仕事しろ運び屋」
「うるせえ! その前にお前達、解体屋が仕事しないと動けねえんだよ!」
「落ち着きましょうよ。ご主人」
頭の上に獣の耳が生え、目は見えているのか疑問なほど細い糸目の獣人少女。
そんな少女がルベットの背中を数度叩く。
「とりあえず俺達も仕事するか。道具は持ってるな」
「はい、手袋、精神安定水、ロープ、承認用紙にその他……こんな量少なくていいの?」
「ああ、むしろそれぐらいで十分。ロサナ、お前はドラゴン運ぶのは初めてだろ。今の俺達の仕事は解体されて詰められた物を荷馬車に運ぶのが第一の仕事だ。まずはあいつらが仕事しないと話にならんが」
ロサナと呼ばれた獣人少女は先ほどルベットの頭を叩いた人達に視線を移した。
蟻が死骸に群がるように解体屋と思われる人達がドラゴンに群がり、一部を鋭利な刃物で刺して斬り解体している。
鱗を刃に当て、魚の鱗のように一気に削ぎ落す。
鱗が無くなると表面はツルっとした光沢のように光が反射し、その部分に刃を入れていく。
手際の良さから場数を踏んで経験しているのが、素人目のロサナからしても分かる。
「そのあと防腐法師、測定師、詰め師、記載師そして俺達運び屋へと来る」
木箱に詰めこまれるまでの流れ作業。
箱の横には王都ルベンダルト、そしてその下には各箱に爪、鱗、肉片とそれぞれ記載されていた。
どんどん山積みに置かれる箱の数。
「このままだと木箱で現場が圧迫してしまう。さあ仕事だ。荷馬車の中にどんどん載せるぞ。中に御者がいるからその人に渡すんだ」
現場に到着した荷馬車に箱を載せていく。
載せども載せども減らない木箱。
箱の中の重量は仮に軽くても、それを何十往復もするのだ、足腰の負担は尋常ではない。
暫しの時間が経ち、運んだ箱の数は数百と超え十数台の荷馬車を満杯へとした。
まだ山積みの木箱が大量に置かれていた。
明らか人手不足なのは深刻だが、それは他を見ても同じ光景なので手伝いなどは期待できないだろう。
いつまで続くのか不安になるロサナ。
ルベット達の元へ、ルベットと同じマントを着た別の運び屋が話しかけてくる。
「ああわかった。ようやくノルマ達成したし。そろそろ別の運び屋と交代だとよ」
「まだこれだけあるのに交代できるの?」
「ああ、だから第一の仕事と言っただろ? 今度は俺達が御者と交代して荷物を街の各組合へと運ぶのが第二の仕事になる」
「まだやるの……」
重労働から解放されないと知り、ロサナの耳と尻尾は垂れ下がる。
「そうしょげるな。今回は特別だしこんな事は普段はないさ。それに荷物を運び終えれば俺達の仕事は終わりだ」
「頑張りましょう!」
御者と交代し、満杯にさせるとルベットは公証人の元へと向かう。
「王都まであれを運ぶんで羊皮紙に署名か捺印をくれ」
黒いローブを着て髪型を七三分けにしたお堅そうな人物に羊皮紙を差し出す。
視線を移したのち羽筆で署名した。
「さて荷物を運びに行くか」
鞭打ち動き出す荷馬車。
「ご主人。わたし達とは違って急ぎ足で洞窟から出て行く人たちは?」
ルベットと同じマントを羽織りベレー帽を被った数名の男女が荷馬車と並列して駆けだす。
足には光を放ち、荷馬車よりも速く走っていた。
目的地は同じ洞窟の外。
「ああ、あれは俺達と同じ同業者でありライバルの別組合の飛脚だ。まあ伝令係とも言うべきか。今回の収穫が思った以上に量が多くて各街の組合へと連絡して増員要請しに行くんだろう」
「あれもわたし達と同じなんだ」
「まあ本来なら俺達が請け負うんだけど、今回みたいな特別な例だと他組合とも手をとったって感じか」
「へえ、手を取り合うって素晴らしいねご主人」
「いや、独占してるのがバレたら罰金。最悪捕まるからな。実際にあの場には衛兵もいたし、そう判断せざるおえなかったと思える」
「……いやな現実を聞いちゃった」
「そういうな、独占しなかったおかげで仕事が回ってきて儲かる飯の種と考えればいいさ」
ロサナの耳と尻尾は再び垂れ下がる。
ルベットの手はロサナの頭を撫でた。
「まあお前が俺と出会ったときのように何も知らないおかげで色々知識を得られてるんだ。良かったじゃねえか。それに色んな職業がいるおかげで世の中上手く回ってるんだからな。もちろん俺達運び屋という職業にもな」
ルベットは楽観的にはははと笑い。
現実を知ったロサナはため息をついた。
二人を乗せた荷馬車は走る。荷物を届けに王都へ向かうために。
と言うわけで、久々の新作投稿となります。
まずは異世界物の王道であるドラゴンを出しつつ、討伐後の処理キャラ達
つまりは本編で出てきた解体処理の職や本題の運び屋の仕事などを書かせていただきました。
ちなみに運び屋として今回の題材にしましたが、本文には他に様々な職業がいます。
しかし色々だすとごちゃごちゃして見にくいとなると思いましたしプロローグなのでこの辺で
また絡みのある話とかあれば出していこうと考えています
また不定期更新なので1話目以降出来たら投稿していこうと思います