白馬編18
3月になり昼間も暖かい日が続くようになってきたある日
渡辺が解雇された。
理由はいくつもあった。
そう、遊びすぎ。
でも、そんなこと言ったらみんなそうだ。
渡辺に理由を尋ねると、訳が分からないと言う。
渡辺は頭が悪いからこいつに聴いても仕方がないと思い、周りのスタッフに聴いてみた。
すると、前々からパトロールの人々から目をつけられていたようだ。
そこに来て、キッカケというのが
「夜酔っぱらって、風呂場で転んで額を切ったので、帰ってもらうのだ」
と。
この内容に僕は納得いかなかった。
バカだけどいい奴だし、レンタルでもちゃんと働いていたはず。
契約は3月いっぱいだし、理由が明らかにおかしい。
この頃、ホテル側も3月になると暇な日が増えてくるので、ブラジル人などを契約満了せずに帰していた。
おかしいと思っていた。
お別れ会の時も、まだ3月に入ったばかりなのに・・・と思っていた。
そんな勝手な事があるかと思った。
僕も、一年目とはいえこのグループ会社の社員だ。
パトルールが偉そうに威張っているけど、ただの先輩であるし上司だ。
意見を言う権利はある。
今までの、レンタルのゆめっちの件や、その彼氏の件、パトロールの偉そうな態度などなど怒りが溜まっていた僕は、パトロール隊長の大塚さんという奴に会いに行った。
そこで渡辺の件はどうしても会社として、人を雇用する側としておかしい事をまくしたてた。
この頃、軽井沢でもトイレ掃除の件で失敗をしているが、僕のいい方は幼稚だった。
感情に任せて乱暴に言うだけ。
大塚隊長も頭に来たんだろう
「なんでお前みたいなやつにそんなこと言われなきゃならないんた!」
喧嘩したかった。
ぶん殴りたかった。
でも出来ない。
社会人だから・・・・
涙が出て来た。
そうだった。
僕はリフトの脱索という失態を犯しているし、パトロールにはお世話になってる。
そこに来て、軽井沢のスタッフが偉そうに、隊長に突っかかっている。
こうなるよな・・・・
そう考えたら、冷静になれた。
「でも、解雇の理由がそれでいいのですか?会社ってそういうことしていいのですか?」
少しは冷静に問い詰めたつもりだったが、聞く耳を持たなかった。
隊長は最後にこう言った
「お前ならあーいう奴を雇うのか?よく考えろ」
納得いかなかったが、全く力が及ばなかった。
普通アルバイトでも契約があるし、明らかに契約違反であると思う。
でも、今後僕にもこの大塚隊長の言葉が響いてくるのだ。
その後、僕もこういう解雇の仕方をせざる負えない状況が来るのだが、そのたびにこの時の言葉を思い出した。
色々な理由で、僕らの遊び仲間も次々と白馬を去って行った。
最後に、みんなでスノーボードを滑った。
コルチナには新雪が溜まる急なコースがあって、誰にも荒らされないうちに従業員の僕らがその新雪を「喰って」やろうという事になった。
この通称BⅭコースが快適で、新雪が降るとボードの板を上げながら直滑降する。
まるで雲の上をフワフワと飛んでいるみたいな感覚。
この時ばかりは最高の気分だった。
バカには相応しいお別れ会となった。
しかしある夜。
僕は車で白馬駅に居た。
渡辺と幸子を迎えにきたのだ。




