白馬編17
雪が横殴りに降る寒い夜
3月だというのに、まだまだこんな夜がある白馬
男子寮の前に僕は春ちゃんを呼び出した。
「付き合ってください!」
「・・・いまはちょっと」
はい!!
何時ものヤツ。
当たり前ですが。
「じゃ!きょうはありがとう。またね」
若さは怖い。
振られてもなんとも思わなかった。
ゲーム感覚だったからかもしれない。そんな気持ちが伝わっていたのかも。
白馬に来て、女のコに真面目な顔して話をしたのはこれが最初で最後だったかもしれない。
それだけふざけて過ごしていた。
僕は完全にラテンというノリを勘違いした痛い日本人だった。
でも、毎日が楽しくて仕方がない。
そんなエネルギーが満ち溢れていて、仲間も春ちゃんもみんな好きだった。
中には、こういうデッカイ「あいのり」みたいな場所が合わなくて、噂だの裏切りだのというネガティブな情報に押しつぶされて、帰宅してしまう人もいれば、精神的におかしくなってしまう人もいる。
そんな人が身近にいた。
那須君だ
那須君は、白馬に来てから僕の二段ベットの上に寝ていたが、毎日寝言がひどい。
というのも、今に始まったことではなく、軽井沢の最後の方からおかしい。
初めて会った時は普通の青年だったが、仕事で精神が押しつぶされたのだと思う。
遊園地の時も、上司の人が
「蛍光灯が切れているものをリストアップして、全て新しいものに取り換えてください」
との指示に那須君がリストアップした紙を見ると、へんな画が書いてあって、上司から
「こ・・・これは何ですか?」
と質問を受け
答えが
「はい!リストアップしました。コレくらいのが2個と・・・・」
と、蛍光灯の種類を画とジェスチャーで伝えようとしたのだ。
那須君の頭の中には、ワットとかアンペアとかいう概念が無いのだ。
それを見た上司は、即部署移動を命じ、現在の飲食になったのだ。
白馬でも、初めはレストラン勤務だったが、独自の時間シフトを理解できず、結果、遅刻欠勤が半端なく増えたので即刻移動になった。
どういう事かというと、中抜けが理解できずに、何時何時に持ち場へ出勤してよいか解らないのだ。
途中まで同部署の柴咲君が面倒見ていたが、上司も見かねて、二人とも移動命令が下った。
移動先は
「カラオケ」
ホテルにあるやっすいしょぼいカラオケ施設で、ボックスを時間で借りるヤツ。
別名「飲食の墓場」
勤務体系は夕方から夜だけ。
那須君と巻き添えの柴咲君は、場末のスナックのボーイみたいな制服を着てそこで働いていた。
そんな那須君は意外にきれい好きで、休みの日には部屋の掃除をしてくれる。
誰もしないので助かっていたが、ある日、洗濯物もやってくれるというので部屋の3人は那須君に頼んだ。
仕事を終えて部屋に帰ってみると、びちょびちょの洗濯物がキレイに畳んであって、各ベットに配布されていた。
寮にあったのは二層式の洗濯機で・・・・
というか、脱水って概念は?
聞くところによると
「忘れていた」
そうだ。こういうテンパった行動がとても目につくようになっていた。
そんな那須君
入社当時の履歴書には
「将来の目標はホテルグリーンプラザの副社長になることです」
と書かれていた。
社長じゃないんだ・・・・・
末恐ろしい会社員だと思った。




