ハイスペック!ハイクオリティーな演劇部!
とりあえずどうしたものか。
今から学校だし。
出かけるまであと1時間以上あるけどさ。
しかも今日は大掃除と、教室移動だっけか?後は部活の新入生勧誘の作戦会議。
会議は出ないと部長がうるさそうだしなぁ。
ちなみに、・・・部長というのは『演劇部をナメるな!』が口癖の、ひとつ上の先輩の月野瞳だ。
当初、女子部員は杏瑠しかいないと思ってたんだが、実は短期留学でオーストラリアに行っていた月野先輩がいたのだ。
話は変わるが、部長が帰ってきた直後に杏瑠が友達を1人部活に連れてきた。
それも女子だ。
それで、女子が三人に増えたのだ。
でもってその部長というのが『美人でモデル体型とルックスは学校で一、二を争うほどのもの・・・しかし血も涙もない鬼性格』で高校の男子達に知られている。
血も涙も無いは確実に言い過ぎだけどな!
というわけで、バックレて帰るわけにもいかない。
・・・すぐに帰って来れるならセリナをこのまま放置できると思ったのに!
もしも、長時間放置して家の中とか歩き回られたら困る。
でもって父さんとかに見つかった日には・・・
「お前、俺に内緒で女の子なんぞ勝手に連れ込んで・・・しかも裸で放置だと?」
「いやこれには深いわけ」
「万死に値する!!」
「ちょっと待っ、ウアァ・・・!」
想像しただけで冷汗もんだよ!
「あぁぁあ!!」
頭を抱えるしかないこの現状、しかもさらに状態を悪化させる出来事が起きた。
というか自ら起こしてました。
「朝からドタバタうるさいぞ、どうした?」
「マジか!」
いつもは静かにしてるのに今日に限ってうるさかったらそりゃこうなるだろう。
でも、いきなりノックとかせずに入って来ちゃったよこの人っ!
この状態に焦る俺。この光景に硬直する父。
最悪の可能性が現実に?!
「幸信」
「はひ?!」
思わず声が裏返ってしまったが、そんなことは気にしてられない、生きるか死ぬかだもの!!
ところが、父の口からは予想もしない言葉が出てきた。
「犬って、意外に可愛いんだな」
「・・・はい?犬?」
父さんが指を指すとその方向にはベッドがあり、その上で布団をかけて安らかに眠るセリナがいた。
人間ではなく、犬の姿だ。
「戻ったんだ・・・」
「何がだ?」
俺の安堵に父さんが何事かわからず疑問に満ちた眼差しを向けて来たがスルーした。
よし!問題は一応解決だ。
俺はその後セリナを父さんに押し付けていつもより早く学校に向かった。
まぁ押し付けたというか父さんが、この犬は好きだ。と言ってきたからそうしたんだけどね。
勝手に人間になりませんように!
そう祈りつつ家を出ることにした。
いやそもそも、犬が人間になったというのも、俺の錯覚かもしれない。
うんたぶんそうだ。
犬を飛ばしてしまって動揺したせいだろう。
+++
学校の正門前まで来たところで、校外ランニング帰りのバレー部軍団に出会った。
相変わらず筋肉が引き締まってて凄いな・・・
ちなみに俺の筋力は腹筋なら連続20回で、腕立ても連続で20回やったらだいぶきつい。
完全にへとへとになる。
そんなアスリート集団の中にあいつがいた。昨日今日とその名言のお世話になった人物だ。霧下梓貴。
数々の格言らしき言葉を残しているのが彼だ。
見た目はだいぶ厳ついが、優しい奴である。
邪魔をしたらいけないので、とりあえず敬礼してみたら、あちらも気がついたらしく、敬礼で返してくれた。
良い朝ですな。
そんなことを思いながら教室に向かった。
下駄箱で靴を履き替えて、昇降口から廊下に目移すと見慣れた人物が二人いた。
「おはよ~櫻井く~ん」
「あぁ、櫻井か。おはよう」
「おはようございます、どうしたんですか二人揃って廊下で?」
そこにいたのは演劇部の女子メンバー、小野崎翔子。通称しょうちゃんだ。
なんとなくふわっとしている。
もう1人、無愛想なのは月野瞳。演劇部の厳し麗しき部長だ。
ちなみにしょうちゃんは同学年で、クラスは杏瑠と同じだ。
「あんちゃんを待ってるの~。今日の部活は新入生をどうやって勧誘するか作戦会議だよ~!って」
この間延びした声の主がしょうちゃんだ。
「他の奴らにも伝えるためにここにいるのだ」
部長は簡潔に述べた。
なるほど。わかりやすい。
「じゃあ、あとは三島と藤田と橋本のバックレ組とあんちゃんだけっすね」
三島、藤田、橋本は俺同様に部長に怒られまくった奴らだが、俺とは違って未だにバックレる癖は抜けていない。
「そうそう~。でも、作戦会議ってなってもあいつら遊ぶだけだから私は伝える必要ないと思うんだけどね~」
笑顔で腹黒いことをいう奴なんだよね~しょうちゃんって。
見た目は、身長150センチちょっと、長いストレートの黒髪ツインテールで顔立ちはなかなか整ってる。
そして、オプションとして大きめな黒ぶち眼鏡が若干ずり落ちてて、長めのセーターに手が隠れてわずかに白い指先が見えるという萌えポイント付きだ!
ちなみに今日はニーハイソックスとスカートの間にちょっとだけ見える太ももの絶対領域がハンパないっ!
今年のミスコンは学年一位を狙えるだろう。
え?なぜしょうちゃんだけ紹介が細かいのかって?
特に意味はないが、強いて言うならば俺的にストライクゾーンだからだ!
性格はちょっとお断りだけど。
「櫻井くん、いくら部長さんが綺麗だからってそんなガン見しちゃだめだよ~」
こいつ、天然も入ってるのだろうか?いや、ただの腹黒精神から来る何かだろう。
しょうちゃんの脚付近を見てたのは気付いていたはずだ。結構ガン見してたし。
今はしょうちゃんに触れるべきではないな。たぶん地雷だ。
「いや~、部長、久しぶりに見たらまたお綺麗に」
「ふざけてないでさっさと教室に行け」
「・・・はいすみません」
怖いよ部長、その押し殺した声めっさ怖いよ!
どっちにせよ地雷だった。
しょうちゃんがくすくす笑っていた。
やられたね、こりゃ。
+++
キーンコーンカーンコーン・・・・・・
なんやかんやで部活の時間に突入!
その間の出来事は、主にクラスメイトの神村優歩という馬鹿が適当に馬鹿やって俺も巻き込まれて大惨事になっただけなので割愛。
言えることは、神村はルックスだけはなかなかなのに馬鹿で残念!
やっぱ、あんちゃんだな!俺の癒しだわ!
でもって今、俺は部室にいる。
「・・・部長って、髪綺麗ですよね。」
神村から逃げるために早く来たのは良いが、部室には部長しかいなかった。
つまり、気まずい!!
無難に褒めて時間をつなぐことにした。
「そうか?」
そう言って髪に触れた姿は優雅だった。
「見た感じ、パサパサしてないし枝毛とかないですよね。あの枝毛っ子のしょうちゃんより長いのに、何か特別なことしてるんですか?」
ちょうど、しょうちゃんが枝毛をハサミで切っているのを思い出した。
「櫻井は長い髪が好きなんだったな。」
部長は少し微笑んでいた。
ちょっと好感度アップしてくれたかな?今まで相当怒らせて来たからな~
まあ事実しか言ってないから嘘ついてないし、いいよね!
「・・・何もしてないが、杏瑠だってそうだっただろう?」
あぁ~、確かに。
困ったな、話続けないと気まずいし。
「・・・でもあんちゃんはバッサリ切っちゃって今、肩につくかつかないかくらいじゃないですか」
「そうだな。なぜ杏瑠は髪を切ってしまったんだろうか?櫻井、お前理由を知ってるか?」
そういえばなんでだろう?
俺がロング好きなのは知ってるはずだったのにな・・・皆目検討がつかない。
まあ短いあんちゃんも可愛いし。別にいいけどね!
「・・・わかんないです」
「そう、来たら聞いてみるか」
その時いきなり部室の扉が開いて、まさかのあいつが入って来た!
「やっほー!幸信~!遊びに来たよ!!」
・・・残念な子、神村だった。
「優歩!貴様は演劇部をナメてるのか?」
「いいじゃん瞳~!堅いこと言うなよー。あ。幸信、ここ座っていい?」
うわぁ、入って来てそうそう完全にナメているようにしか見えない!
「いや、お前何で部室に・・・、帰宅部は自宅に帰れよ、そういう部活だろ帰宅部は!」
「そうだ、帰れ!そもそも私は先輩だぞ?いつまでも子供のころのように呼び捨てにするな!」
鬼の如く凄む部長。
対して何事もないかのように座り込む神村。
この2人は小さい時からの友達らしい。
「幸信ー、帰宅部は部活じゃないよー?てか、ここ漫画ないの??」
コイツはさらに部長を煽るんだからたまったもんじゃない!
「演劇部をナメるな!!」
ヤバイ!部長がそろそろ暴れだしそうだ!
「そうだ、ナメるな!漫画なんかねーよ!!」
「え?これは?」
ニタニタと笑う神村が手にしていたのは物凄い見覚えのある少年漫画だった。
「あっ!!?」
そう。俺のかばんから出てきたものだ。
てか、詳しく言えば霧下に借りたやつだ!
「・・・櫻井。お前神聖な部室にそんなものを・・・・・・」
ひぃい!!!鬼部長現る?!
「こ~んにちは~」
そのとき、あの間延びした声と共にしょうちゃんが入ってきた!
「・・・翔子、来たか。来たところ悪いが、この馬鹿を部室から追い出してくれないか?」
神村を指差しながらそう言った。
ほっ!俺は大丈夫だった!!
「え~面倒臭いですよ~、たしかに優歩ちゃんって糞みたいにうるさいですけどね。あ、糞はうるさくないか。まぁ邪魔しないって誓うなら生かしておきましょうよ~」
「生かすか殺すかってレベル!!?」
思わず突っ込んでしまった。
「流石は翔子!言うことがハンパないわ!邪魔はしないから大丈夫よー?」
神村はあっけらかんとしているが、軽く口元が引き攣っている。
「そう、ならいいわ。あとは杏瑠と」
「失礼しまーす」
部長が名前を挙げた瞬間に杏瑠が入ってきた。
やっぱりかわいいなぁ~!
あ。デレ顔は見せないようにしないと・・・気持ち悪いからな。
「あんちゃ~ん、遅かったね~、ナンパでもされてたの~?」
・・・何?あんちゃんらがナンパだと?!
しょうちゃんの言葉に一瞬たじろぐ俺。
「されてないよ!しかもあれ三島くんが今日は行かないって言ってきただけだし」
ちょっと焦るあんちゃん。
なんだ三島の野郎か、ナンパじゃないならよかった。
「何?三島来ないのか!どうせサボりだろう!」
「でしょうね。」
可愛く杏瑠が笑う。それにつられてみんなが笑った。
そういや、最近は他の男子陣の出席比率が良くない気もするな。なんでだろ。
「あ~。そういえば~藤田くんさっきC組の人達と帰ってましたよ~」
え、藤田もサボり?
これは明らか部長が頭に来るよ・・・
「あいつらぁぁぁ!!演劇部をナメている、明らかにナメている!」
あぁ、本格的に部長がキレそうだ!!
「てか、橋本に至っては部活自体辞めたって言ってたよ!志田先生からもそう聞いたし。」
「「「「え!?」」」」
一同一致で仰天だ!
「なんで神村その情報知ってんの?」
俺の疑問は当然だ、神村は志田先生とは全く設定はない。そして二人が話してるのも俺は見たことがない。
「いや~!入部届け持って行ったら、退部届け持ってる橋本がいてさ!それで知ったのさ!」
活発にハキハキと喋る神村。
嫌な予感がした。特に右隣にいたその瞬間の部長の顔は見たこともないくらい変顔していた。
言うなれば、ムンク『叫び』だ。
「ま、まさかお前、演劇部に入ろうなんて思っていないだろうな!?」
部長が問うた。
「ん?悪い?」
神村は、あたかも普通なのに何か?と言わんばかりの態度。
「アッーーーーー!」
部長は髪を掻き乱して発狂していた!
「え?部長、落ち着いて!」
あんちゃんはどうしていいかわからずあたふたしていた。
「へぇ、馬鹿女も入るんだ~」
しょうちゃんは腹黒いことでも考えているのだろうか?ニコニコしていた。
そして、俺はといえば、「わ、わー楽しくなりそーだなー」と、まるで他人事のようにそっぽを向いて、そう言うことくらいしかできなかった。
演劇部はこれからもっと楽しくなりそうです・・・。
俺は気がついていなかった。
この出来事の数々が俺にとってどういう意味をなすのか。