子犬と俺と美少女と!
セリナというのは、あんちゃんが劇で演じた役の名前のひとつだ。
正確にはセリティーナだったが、俺は縮めてセリナと呼んでいた。
結構初期の劇だから誰も覚えていないだろう。
それにしても、どんな役をやっても可愛かったわ。あ~、ギャルのときも良かったがロリータも良かった・・・。
家にお持ち帰りしたかったぜ全く!
もちろん物理的に本体をではなく、写真とか撮っておけばよかったわ!!もったいないことしたわ!
・・・そんなことを考えているのがばれているのか、はたまた、顔がにやけ過ぎてて気持ち悪かったのか、抱いていたセリナが心なしか嫌そうな顔をしていた。
「セリナは本当は表情豊かなんだろうな。杏瑠とは違ったな、大きくなったらべっぴんさんになるぞセリナは!」
セリナの頭をくしゃくしゃと撫でながらダンボールな中を確認すると、中には白い封筒が一通入っていた。
中を見ようかと思って手に取ったが、父が夕食だ!と言ってきたため、食べに行った。
昼食をあまり食べなかった分、父特製ビーフシチューを多量に食べて、食欲を満たした俺は眠気に襲われて、すぐに自室に戻り寝てしまった。
あ。もちろんセリナには餌として牛乳をあげた。
無論、ペットフードなど家には無いのだからしょうがない。
子猫の方も牛乳が与えられていた。
「何を与えて良いかわからない時はとりあえず牛乳だ」
これが父の言葉だ。今さっき発言された言葉だ。
格言みたいに聞こえた俺はおかしいのだろうか?
ちなみに父が撫でしだきまくっていた子猫の名前はダマだそうだ。
由来が気になるがスルーした。
とりあえず俺は食べ疲れて眠ったセリナを自室に持って行った新聞紙を敷き詰めたダンボールにそっと置いて、ベッドに倒れた。
+++
ピピピピピピピピッ
そうだ今日は学校だ・・・起きないと。
でもいつも以上にまだ眠い。後ちょっと寝たいな。
時刻を見ると、
午前5時・・・・・・
あ、目覚ましの時間変えるの忘れてた。
あと2時間眠れるね!ラッキー!
おやすみなさい。
「わんっ!」
・・・犬?なんか近い。
「わんっ!」
目を開けると目の前に犬がいた。
え、なんでうちに犬?
あ。そっか母さんが、なんだっけ名前?あー、そうだ。セリナだ・・・朝からよく吠えるね、このワンコ・・・・・・
無視して再び目を瞑ると首元に何かが当たった。
そして、
がぶっ・・・
「ちょっ、痛ぇ!!!なんだ?!」
いきなりの首筋の痛みに、咄嗟に手で思いっきり振り払ってしまい、セリナが勢いよく吹っ飛んでいってしまった。
床か何かに激突した音が響く。
同時に、焦った俺の眠気なんかも吹っ飛んでいった。
「うぁぁあ!!セリナぁああぁぁぁあ!大丈夫か?!!」
ベッドから出てセリナの姿を確認しようとしたが、俺の目に映ったのは・・・
うつ伏せで倒れている裸の少女でした。
・・・
暫く状況が掴めない俺。
自分の目を擦ったり、顔に平手打ちと古典的な事を色々とやってみて、これは夢でないことが判明した。
「・・・・・・うぁあぁ??えっ?誰だよこの娘?!しかもなぜ全裸!!」
ヤバい!わけわかんない!てかセリナはどこにぶつかって今どこにいるんだ!?
そしてこの小学中学年から高学年くらいの少女は誰なんだ?!
《わけがわかんないときはとりあえず目の前の物から片付けろ》
霧下の言葉を思い出した。
なるほど、お前の言葉は役に立ち過ぎるぜ霧下!
とりあえず少女を救命(?)だ!
全裸はまずいから服を・・・いや、服はないから布団にしよう。
ベッドから布団を引っ張って行き、裸を見ないように目をつ瞑って布団をかけた。
足下からは寝息が聞こえる。
・・・ちょっと安心した。
あとは、ベッドにでも運んで寝かせよう。そしてセリナだ。
あいつはどこだ??
「ごめんよ叩いて飛ばしてしまって」
見渡す限りどこにもいない。
あの大きさで入り込める隙間はこの部屋にはない。
ファンタジーやSF、ミステリーが大好きな俺にとっては、怪しいのはこの少女。
それらに満たされている俺の脳には以下の想像ができた。
一つは、この少女=セリナ説!
この少女、よく見るとセリナに似て可愛いらしい顔立ちだ。
美少女タイプか。
・・・言っておくが俺は幼女好きとかいう、いわゆるロリコンではない!断じて違う!!
二つ目は、この少女は捕食者説。
一瞬にしてセリナを食べてしまったということだが。
捕食者が突然一般市民の家に現れるというのはなかなかの確率だ。
最近、映画や小説でもそうそうない設定だろう。
まぁ現実にはどちらもありえない。
馬鹿だな俺・・・現実と空想が一緒になることなんてありえない。
とりあえず昨日の読みそびれた母さんの手紙を読もう。そうすれば何かわかるかもしれない。
封筒を手に取り、中を覗くと予想通りの物が入っていた。
内容物は二枚の紙、
一枚目にはこう書いてあった。
『久しぶり、幸信くん。元気ですね?
元気にしてることを前提に話しますね。
その2匹の動物は私の今までの研究の中でもトップクラスの成果を出したプロジェクト、その名も【新ProjectE】から生まれたの。
出来栄えはもはや芸術的!!
美しく、主人に従順で、優れた能力を持ち・・・あぁもう褒めるところしかないわ。
あ。でもそんなこと言ったら幸信くんが惨めになっちゃうかもしれないわね。
大丈夫!あなたは私が気持ちよく頑張った中では間違いなくナンバーワンの出来栄えよ!』
「おいおい!なんか生々しく聞こえるぞ!」
顔が熱い、たぶん赤面してるな、これは。
母さんってぶっちゃけ馬鹿なんじゃないか?
そんなことは置いといて二枚目だ、
『ということで、【新ProjectE】の完成体の二匹を幸信くんとお父さんにプレゼント!
ちなみに届いた段階で犬、猫共に生後一日よ』
・・・え?!どういうことで!?
しかも生後一日??生まれたばっか?それにしては大きい気がするんだが。
『驚いた?この子たちの成長は通常よりも遥かに早いの。
そして、この子達の凄いところはね、・・・なんと人に変身できるの!嘘じゃないわよ?
そのうち何かの拍子に人間になってびっくりしちゃうから先に言っておいてあげるわね(はあと)
あ。来週家に帰るからよろしく!
じゃあね。母より。』
この瞬間、俺の頭の中でさっきのこの少女=セリナという方程式が成立した。
変身って、SFとかファンタジーの世界の話じゃなかったんだ・・・。
その時、俺はその現実に半ば興奮して、寝ている裸の美少女と母からの手紙を交互に見ながら、もうすぐ高校2年生になろうとしている平凡な16歳には想像もつかないような不思議な出来事に巻き込まれるような気がしてならなかった。