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4.一次試験

5年後


ヨーシュリア王国首都、バスタリ。

「やっと着いたなー。ここがバスタリか」

商業が盛んなバスタリの街並みを見回しながら1人の少年が呟く。少年は肩に大きな巾着袋を担いでおりバスタリ出身の者ではない様であった。

「にしてもすげー都会だなー。俺の村とは大違いだ。明日の試験の為とは言えこの街に来れて良かった」

さて宿でも探すかなーとぶらぶらと歩き始めた所、一際賑わっている所があった。気になったので足を向けてみる。近くに寄ると1人の商人の男が輪の中心で必死に何かを話している様であった。

「本当なんだ!俺の店にボロボロの女があのA級のボットガを売りに来たんだよ!しかも2体!それだけじゃない!B級のシャルガネも4体連れてきたんだ。あのアルバーンに乗せてな!」

それを聞いている者たちは、驚嘆の声を上げる。

(まじかよ…。A級のボットガってオレンジ色の鳥見たいな見た目の生き物だよな。知能は低いけど攻撃力が高いっていう…。B級のシャルガネもボットガに対してそんなに強くはないが俊敏で捕まえるのが大変な生き物なのに…それを数体もアルバーンに乗せてやって来た!?…すげーなそいつ…)

「証拠に俺の店にそいつがあるんだ!誰か商業ギルドに運ぶのを手伝ってくれねぇか!?」

「あ、俺手伝いますよ?」

少年は小さく手を挙げ名乗り出た。



「いやー助かったよ。君みたいな若い子が手伝いに来てくれて。あれを運ぶのに1人ではキツイからな」

(そりゃあボットガもシャルガネも全長3メートル位あるからな。1人じゃ運べねーだろ)

商人の案内について行くと一軒の店の前にたどり着いた。どうやらここが彼のお店らしい。店の中に入るとオレンジ色の大きな鳥と黄金の鬣を持った灰色のおでこから縦に二本並んでツノが生えた馬の様な生物が山盛りにされていた。

(確かにボットガとシャルガネだな)

「名乗り出たって事は君の天命は勿論生活魔法なんだよな?」

「はい、そうです」

「そうか助かるよ。俺の天命は防御魔法なんだが、あまり身体強化は苦手でね」

男はそういうと身体強化を自分に掛け90キロあるシャルガネを二体担ぎ上げた。

「君の収納魔法はどの位入れられるんだ?知り合いの生活魔法の子に聞いた時は大体こいつら三体位って聞いたんだが」

「んー1,000,000㎥位です」

「えっ!1,000,000㎥!?」

商人は驚いて担いでいたシャルガネを床に落とした。


「いやー本当に助かったよ……?「グリムです」グリム君!あっはっはっはっはっ!それにしても最近の若い子は凄いなー」

グリムの収納魔法でボットガ2体とシャルガネ4体をしまいつい先程商人ギルドへ買取をお願いして来てからというもの商人のテンションが高い。

「こいつらを売りに来た女ってどんな奴だったんですか?」

「ん?おお、グリム君と同じくらいの歳の子だったね。銀髪の子で顔はよく見えなかったが小柄な女の子だよ。なにかの皮を剥いで作った服を着ていたんだがボロボロ過ぎて何の皮かは分からなかった」

「よくそんな奴から買おうと思いましたね」

「俺の商人魂が疼いたんだよ!金の匂いがするってな!おかげでだいぶ儲からせて貰った。あの子は俺の女神様だ!」

「ははは」

いい歳したおじさんが両手を組みありがとう女神様〜と天を仰いでいる様子には乾いた笑いしか出てこなかった。

「所で!グリム君は、どうしてこの街に来たんだ?」

「明日、試験があるんです」

「試験?明日の試験と言えば…魔法騎士の精鋭が集まるヴァルサイト学園の入試試験かい?」

「そうです」

「えぇ!?上級騎士の出身校80パーセントを占めるあの学校に生活魔法の子が行くなんて聞いた事ないぞっ!」

「俺は何が何でも上級騎士になりたいんです」

グリムの表情は凄く真剣で冗談を言っている様には見えなかった。

「あっはっはっはっはっ!そうだよな。生活魔法だからって騎士になっちゃーいけないって言う事はない。それにグリム君は周りの生活魔法保有者とは違うみたいだしな。頑張ってこいよ」

商人はバシバシとグリムの背中を叩き激励した。

「お、忘れていたがグリム君にもお礼をしなきゃな」

「あ、それなら…今日泊まる宿を探しているんです。どこか良いところありませんか?」

「おお、それなら俺の知り合いの店を紹介してやる」



次の日

試験会場には朝からヴァルサイト学園の試験を受ける者達で溢れかえっていた。定員などは決まっていないが1,000人程の受験者がいる様だ。

その中で異様な格好をした者が一人。ボロ布の様なスカート…否、腰巻きを付け腰には石で作った刃物が刺さっている。上には何の毛皮か分からなくなった汚いマント風の物を羽織っており、顔は見えないが華奢な体型の為女の子であろう。そしてその子の手には太々しい白い綺麗な猫が抱き込まれていた。

「注目されてる…」

「儂が超絶キュートだからだろ」

「…………」

「何か言えわんか!」

「…サエ、可愛い…」

「…………」

太々しい白猫は無言でポカポカと女の子を叩き始めた。

注目されていたのは、女の異様にボロボロな格好と白い綺麗な猫の様な物が喋っているからであった。だがその事実を誰も教え様とはしなかった。

(何だあいつら?)

その様子を遠目に見ていたグリムもまたその異様な光景をただ見ているだけであった。


キィーン

「えーそれでは只今からヴァルサイト学園の入試試験を開始致します」

大規模なテレパシー魔法を使っているのか試験管の声が直接頭に流れ込んできた。

「一次試験の内容は、体力測定になります」

女の声が頭に流れた直後、目の前に木刀が現れ地面に落ちた。そして目の前には木刀と一緒に出現した丸い球が浮いていた。

「今お配りした木刀をこれから1,000回振っていただきます。その後、終わった人から右ブースにある砲丸投げ、100メートル走、10キロ長距離走を行なって頂きます」

「こんなもん楽勝だろ…って、おもっ!」

1人の受験者が木刀を拾い上げるとすごい重量感に驚いた。

「そちらの木刀は10キロあります。それと皆さんの目の前にある球は魔道具です。1000回振るまでつきまといますのでいかさましないようにお願いします」

受験者からどよめきが起きる。

「それでは、これより一次試験開始とさせて頂きます。ご健闘を祈ります」

それっきり女の声はぱたりとしなくなった。

「はっ、こんな試験ぱぱっと終わらせて一位通過してやるぜっ」

1人大声で意気込む少年がおり、勢いよく素振りをこなし始めた。それに倣い他の受験者達も素振りを開始する。

「よし、儂も頑張るとするか〜」

注目を集めていた女と白い猫の内の白い猫が肩をブンブン回すと木刀を持ち素振りし始めた。

(え、お前がやるのかよ!?)

グリムは心の内で突っ込む。

「こんなのありかよ〜!」

周りの受験者も騒ぎ出すが試験管は微動だにしなかった。

(なるほど…体力測定とは言っていたが別に魔法を使ってはいけないとは言ってなかったしな…これはありなのか)

周りを見てみると少女達の他にも機械仕掛けの物が代わりに木刀を振っていたりと各々何かしらで対応している様であった。

(にしてもあの猫は、使い魔か何かか?)

すごい勢いで素振りをする猫を遠目に見ながらグリムも着実に回数を重ねていく。


「っしゃ〜1,000回終わり〜!」

「儂も終わったぞ!」

一番最初に騒いでいた男と白猫の素振りが終わった様だ。2人は競い合うかの様に右のブースに行き砲丸投げを始める。5キロの砲丸を男は軽々と投げ飛ばし134メートルの記録を叩き出した。凄い腕力の持ち主だ。続いて白猫が小さい肉球で器用に砲丸を持つとぽいっと投げ飛ばした。その所作に反して砲丸はぐんぐんと飛躍する。そして、ヴァルサイト学園の外壁にめりこんだ。

『記録:受験No.896 測定不能』

「あれ?やり過ぎたか?」

観察していた受験者の殆どが口をあんぐりと開け驚愕していた。そんな事など露知らずうるさい男と一匹の白猫は100メートル走へと移る。どうやら同時に走るらしい。クラウチングスタートで勢いよく走り出す両者。白猫は何故か二足で走っていた。うぉぉぉぉぉと雄叫びをあげながら駆け抜け僅差で白猫が負けた。

『記録:受験No.457 9秒47』

『記録:受験No.896 9秒55』

人の子の癖にやるな、お前こそなどと握手を交わしながら両者は最後の種目、10キロ走へと休む事なく挑んだ。まるで短距離走をしているが如くすごいスピードで走り抜くと程なくして完走してしまった。

『受験No.457,896 4項目終わりましたのでまた始めからとなります。素振り1,000回からやり直して下さい』

「へっ?終わりじゃないのか?」

「これをまた繰り返すのかよ〜」

事態を観察していた受験者の一部からそんな声が上がる。

「もうやってらんねーよ」

そして匙を投げるものが続出した。

「スチュワード先生、早速出ましたね。リタイア者が」

「受験者が多い分試験の難易度を高くしているとは言えこんな事でリタイアする奴らなんて上級騎士どころか騎士にすらなれん」

「あはは、ごもっとも」


白猫達が2週目に入った所でグリムもようやく素振りが終わった。ちらっと白猫の飼い主?の女を見ると試験開始時と変わらぬ場所に突っ立っていた。否…立ちながら寝ていた。

(よくこんな状況で寝てられるな〜。ってか、もしかして白猫が本体なのか?)



『これで一次試験は終了となります。皆さまお疲れ様でした』

日が大分傾いた頃、試験管の声が頭に鳴り響いた。殆どの者が終わったーと地面に倒れこむ。

『今から一次試験通過者の受験No.を読み上げます。読み上げられた者のみこの場に残って下さい。呼ばれなかった者は脱落者となります。即刻お帰り下さい』

(ん?最後何か辛辣じゃないか?…この試験に合格できなかった奴には用はないって事か…?)

グリムは試験管の本性を薄々感じ取っていた。


『以上の者が一次試験合格者となります』

(っしゃぁ、合格した!)

グリムは小さくガッツポーズを取り喜びを噛みしめる。周りを見るとざっと500人ほどの受験者が残っていた。半数の者が落とされた様だ。合格者の中にはあのうるさい男と白猫と飼い主もいた。

『明日は、二時試験を受けてもらいます。ですが二時試験はチーム戦となりますので各々チームを組み明日の二時試験に臨んでください。それでは、今日は解散と致します。皆様お疲れ様でした』

その声がやんだ途端チーム作りが開始する。あのうるさい男は人気の様だ。皆群がっている。白猫の方は意外に人が来ない。否、1人近づく者がいた。どこかの貴族なのか見た目が派手な野郎だ。

「おい、貴様。貴様の天命は何だ?」

「……………?」

女はぽけーっと男を見上げる。

「貴様だよ、この汚いどぶネズミが!」

無反応の女に苛立った貴族が女の銀髪を引っ張る。

「…痛い…」

餌につられて女の近くを離れていた白猫がピクッと反応する。そしていきなり巨大化し全長4メートルの本来の姿に戻った。男の元まで一気に跳躍すると男の上に馬乗りになる。

「ひぃ!なんだこいつ!なんでこんな所にアルバーンがいるんだ!?」

「お前、儂の主人に何してんだ?」

「ひぇぇ、食べないでくれっ!」

貴族は可哀想なくらい怯え切っていた。それはそうだろう。可愛くて太々しい白猫だと思っていた生き物がいきなりアルバーンに変身し自分の上にいるのだ。怖くて当たり前だ。

「サエ…もう大丈夫…」

「む?許していいのか?」

「大丈夫。私よりその人の方が可哀想」

「……主人がそう言うなら…」

アルバーンは、女の言う通り貴族の上から退いた。そしてポンッと白猫の姿に戻った。女は白猫を抱っこすると撫で撫でし始めた。

「サエ…良い子…」

「むぅ…悪くない」

白猫…否…アルバーンは、頭を撫でられるのが好きらしい。

その一件以来益々女に近づく者はいなかった。チームを組んだ物達が着々と帰って行き遂にグリムと女の子だけになってしまった。

「あ、あの〜」

「?」

女の子は、ぽけーっとグリムを見上げてくる。その表情に一切敵意がない事を感じほっとする。

「何だ、お前?」

白猫が警戒して声を掛けてくる。

「あ、嫌、もう俺らしか残ってないし一緒に組まないかな?」

「……よろしく」

まわりを見て察したらしい少女はチームを組むのを承諾してくれた様だ。

「良かった!俺、グリム。よろしく」

「…アイリス。よろしく」

「儂はサエモンだ」

ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ

突如、盛大なお腹の音が響いた。

「お腹…空いた…」

どうやらアイリスのお腹の音だったらしい。

「…良かったらこれから飯にでも行かない?明日の試験の為にもアイリスの事詳しく知りたいし」

「…うん。でも…お金ない…」

「え?俺もそんな持ち合わせあるわけじゃないけど…それでも良いなら奢るよ」

「問題ない。これから昨日商人に売った商品の換金に行く。それから飯に行くぞ」

アイリスの代わりに流暢な言葉で白猫が説明してくれた。



白猫の案内で昨日取引した商人の店へとやって来た。

「ここは…」

戸を開けて入ると店主が1人立っていた。

「やあ、よく来たね。待っていたよ!…あれ?グリム君も一緒だったのか。何だか面白い組み合わせだな」

「む?小僧の知り合いか?」

「あぁ…昨日ちょっと荷物運びを手伝ったんだ」

「いやぁ〜君達が売ってくれた商品を1人で運べなくてな。困っていた所をグリム君が手伝ってくれたんだ」

「ほう…そうだったのか」

(やっぱりアイリス達が昨日のボットガの売主だったのか…)

「昨日は持ち合わせが無くてすまなかった。ほら、これが買い取り価格だ」

カウンターの上にどかっと置かれた袋にはお金が大量に入っていた。

「…ありがとう…」

アイリスは大量の貨幣が入った袋を持ち上げた。そして困った顔をする。

「どうした、アイリス?」

「これ…どうしよう」

「どうしようって?収納出来ないのか?」

こくりと頷くアイリス。

「私、魔法使えない…」

「へっ?」

(魔法が使えないってどう言う事だ?試験で疲れて使えないって意味か?)

「主人は、自分で魔法が使えん。だから収納魔法も出来ない」

「「自分で魔法が使えない!?」」

グリムと店主が驚愕の声を上げる。

この世界ではすべての人間が何かしらの魔法を使える。天命の違いはあれど自分で魔法が使えないなんて聞いたことがなかった。

「それが本当だとして…なんで魔法騎士なんかになろうと思ったんだ?」

「サエにもっと世界を見ろって…」

「主人には胸張って生きて欲しいからな」

腕に抱いたサエモンをぎゅうっと抱きしめるアイリス。


「なら…俺が預かっておくか?」

「はっ!?」

グリムの申し出に商人が驚きの声を上げる。

「って…流石に嫌「よろしく」…えっ!?いいのか!?」

こくりと頷くアイリス。

「グリムなら安心」

「儂も主人が良いなら、それで構わん。もしネコババしたらお前の事噛みちぎってやる」

「わ…分かった」

アイリスから預かった貨幣が凄く重く感じた。

「人の金を預かるなんて聞いた事ないが…まあ、グリム君なら大丈夫だろう!この子はいい子だからな」

強めに背中をバシバシと叩きながらグリムの事を保証してくれた。

「そう言えば今日の一次試験はどうだったんだ?勿論受かったんだよな?」

「受かりましたよ。明日の二時試験がチーム制なのでアイリスと組むことになったんです」

「ほおー?それは幸運だったな」

「はい。足手まといにならない様に頑張ります。所でこれから作戦を立てるのを兼ねて夕飯を食べに行こうと思うのですがどこか良い店を知らないですか?」

「おお、それなら俺の知り合いの店があるぞ」


商人から紹介された店に訪れると人気の店なのか中はお客さんで溢れかえっていた。それぞれこの店の人気商品を頼んで食す。サエモンもアイリス達と同じ物を食べており、その事を問うと儂は偏食などしない!と豪語していた。

「俺は西にある小さい村から来たんだ。アイリス達はどこ出身なんだ?」

「東の山…」

「山?」

「儂と主人はここに来る前、ツァーベルの山の中に住んでいたんだ」

「何か訳ありみたいだな…」

(服もボロボロだし…本当に山の中に住んでいたのかもな)

「まあ良い…俺にも都合があるからな。俺はどうしてもヴォルサイト学園に合格したい。だから明日試験をパスする為にもアイリスの能力について詳しく教えてくれないか?」

こくりと頷いたアイリスは少し無言になるとサエモンを見つめた。

「…儂から説明しよう。主人はあまり喋るのが得意じゃないからな」

口の端に食べ物をつけたサエモンが腕を組み説明し始める。

「この世界に生まれた人間は神から与えられた力と称される天命を授けられるのはお前も知っているよな?」

「ああ、常識だろ」

「うむ。この世の魔法は生活魔法、回復魔法、攻撃魔法、特殊魔法、防御魔法、解析魔法の6つに分類されこの中で1番得意な魔法が天命と言われている」

小さい肉球を器用に使い指を折って説明するサエモンが可愛らしい。

「主人の天命は特殊魔法だ。その中でも特殊中の特殊なものだ。魔力があるのに自分で魔法を使う事が出来ない。だから生活魔法すら使えない」

「さっきも店でそんな事言ってたよな。今迄収納とかどうしてたんだ?」

「山で住んでたからな。貴重品なんて持ってないし収納する必要もないだろ」

「…なるほど」

「主人の魔法は契約術だ。だがどんな生き物でもいいわけではない。儂みたいな高貴な獣でないと主人と契約する事は出来ない。そこら辺にいる獣だと主人の魔力に怯えて逃げてしまう」

「凄い魔法だな。流石特殊魔法だ…。それで?サエモン以外に契約獣は後何匹いるんだ?」

アイリスがこてんと首を傾げる。サエモンがいきなり黙った。

(何かまずいことでも聞いたか?)

「ぜろ…」

「ゼロ?」

「0だ。儂以外に契約獣はいない」

「………」

(俺は凄い奴らとチームを組んでしまった様だ…)



「えっ、相部屋!?」

「申し訳ございません。ヴァルサイト学園の試験の影響で全て満室でして…」

昨日から泊まっている宿にアイリス達の部屋を用意出来ないか問い合わせをしてみるとグリムが泊まっている部屋が広い為相部屋してくれと提案された。

「儂は構わん。変な事するようであればお前を食うだけだ」

「私はどこでも大丈夫。外でも寝れる」

事の発端は明日の試験に向けてお互いの実力を確かめ店を出た後、ふと聞いた一言から始まった。

『アイリス達はどこで寝泊まりしてるんだ?』

『…?外…』

『外?』

『儂らは野宿だ。泊まっている宿などない』

『はっ!?』

いくら山暮らしが長かったとは言え、流石に屋根の下で休んだ方が良いだろうという考えからの行動であったが部屋が空いていないらしい。

「…仕方ない。野宿されて何かあっても困るしな。相部屋にします」

「畏まりました。ごゆっくりどうぞ」

宿の受付嬢が笑顔で見送ってくれた。


部屋に着くとアイリスはキョロキョロと室内を見回っていた。

「室内…5年ぶり…」

「えっ!?」

驚愕の一言が聞こえたが、アイリスはキラキラと目を輝かせ室内を見回しているだけであった。

「アイリス…暫く野宿で大変だったろうし、先にシャワー浴びて来なよ」

「うぉっ」

アイリスはこくりと頷くとサエモンを抱えて風呂場へと向かった。

その背中を見届けるとグリムは、ベッドに腰を下ろし深いため息を吐いた。

(色々とぶっ飛んだ奴らだな…。明日の試験大丈夫か…?)

頭を抱えたい気分だったが、天命が生活魔法のグリムでは誰もチームを組んでくれないだろう。その為アイリスとサエモンにすがるしかないのだ。


暫くするとアイリスがサエモンを抱えて戻って来た。アイリスは浴室にあったバスローブを着ている。

「アイリス…髪かわしてあげるか?」

「っ!お願い!」

喜んだ表情をするとサエモンを抱えたままてけてけとグリムの前までやって来た。

「そこ座って」

ベッドにアイリスを上がらせてその後ろから生活魔法の温風で髪を乾かしていく。数分もすると完全に髪が乾きサラサラになった。数十分前までのアイリスと比べると見違える様だ。

「よし、アイリス乾いたぞ…あれっ?」

「シー、主人はもう寝た。お前も寝ろ」

髪を乾かしている間に寝落ちしてしまったらしい。サエモンは腕の中から静かに抜け出すとアイリスを横に寝かせて布団をかけてやっていた。

(甲斐甲斐しい猫だな…)

心中そんな事を呟きつつもグリムも風呂場に向かう。

「おい、小僧」

「ん?」

「ありがとな」

サエモンはそれだけ言うとそそくさとアイリスの横に潜って布団を被った。

「…ぷっ…」

グリムは1笑いすると、今度こそ風呂場へと向かった。


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