ボロいアパートの一室の話
僕のうちは貧乏だ。
父は事故で僕が産まれて早々に死んだ。
それからは母が一人で育てているが、母は高校中退で、就職するにもブラック企業ぐらいにしか雇ってもらえない。
だから母はパートやアルバイトで頑張って稼いでいる。
僕さえいなければこんなことにはならなかったんだ。
母は16で僕を産んで、両親からも見放され、ずっと一人で僕を育ててきた。
僕が暮らすボロいアパート。
二人で暮らすボロいアパート。
無理して高校に通わせてくれる母。
僕がいなければ、母が両親と喧嘩することはなかった。
僕がいなければ、母は高校に通っていられた。
僕がいなければ、母はこんなボロいアパートの一室で暮らす必要もなかった。
僕がいなければ、『僕がいなければ』なんて言う僕に母が怒ることもなかった。
母は僕にありがとうと言ってくれた。
母は僕に笑顔と元気をもらってると言ってくれた。
だから母は頑張り続けて、今日も無理して働き続ける。
そんな母を労いたくて、僕もバイトを始めた。
ただでさえ二人揃うことの少なかったアパートは、お互い一人の時間ばかりが増えていく。
一緒の時間が減っていたが、それも今日までで終わりだ。
明日は日曜日。
母の日だ。
この日の為に働いて、この日の為にプレゼントを用意した。
翌日になって母を迎えに行くと、母が通るであろう道に車が突っ込んでいるのが見えた。
誰かが轢かれたらしいと通行人が話しているのを聞いて、慌てて誰かを確認しに行く。
その遺体が身につけた服は、母が朝着ていったものだった。