土魔法使いの憂鬱
今日も俺には、何も起きなかった。
まあ、起こす気がないのが駄目なのだが。
昔いたギルドの奴らは、やたら張り切って高難易度の仕事ばかり受けてたっけな。
ドラゴンの息吹で下半身だけローブが焼け、街に着いたら露出狂扱いされたり。
ダンジョンの奥深くに行ったら何故か俺の杖だけボスに折られたり。
何故か王様との謁見の時には、謎の腹痛に襲われたり。
極め付けは、リーダーと、俺の幼馴染が出来ていたり。
そのあと、理由なくギルドを追い出されたり。
今考えても波乱万丈で酷い人生だった。
けど、今程退屈はしてなかった。
「王様、起きてますか」
一人逡巡に耽っているとドアの向こうからメイドの声が聞こえる。
「起きているから、少し待って…」
言葉を言い終える前にドアが勢いよく開くと十五人のメイド達が一斉に俺の身体を起こし上げ豪奢な衣装を着ましていく。
「王様、我等になぜ手をつけないのですか? 」
一人のメイドが喋り出すと次から次に言葉が飛び交っていく。
やれ、お手つきになる為に来たのに何故襲わないのか。
とか。
やれ、私の胸結構いい感じじゃないですか。 とか。
やれ、嗚呼このまま後輩にも抜かれて、処女のまま人生を全うするのね。
とか。
「いや、あのね俺もう子供二人いるから」
そう言うと一人のメイドが股間の辺りをなでながら、耳元で柔らかい息で撫でてくる。
「それは正妻のローサ様だけですよね。 側室の方でも最低一人は産んでいます」
ゆっくりした指先で股間をより的確に触ってくる。
「いや、本当に駄目だから! そろそろ! 」
全てを言い終える前にドアの方を向くとそこには一人の鬼が立っていた。
「貴方達なにをしているのかしら」
腰まである赤い髪をを靡かせ颯爽と俺の前にくると豪快に唇を貪られている。
横目で、メイド達を見ると何事も無かったかのようにベッドメイキングをして部屋から出て行ってしまった。
長い粘膜の交換のあと糸を引きながら離れていく唇。
目の前の女性は、とても麗しい仕草で手を俺の顔にそえて。
「貴方、覚悟してね」
その言葉と共に右頬に激しい衝撃がきて意識を失ってしまった。
次に意識が目覚めると、いつもいる玉座に座らされていた。
「それでは、王よ今から謁見したい者を呼びますがよろしいですか? 」
俺が何かを言う前に大広間のドアが開かくと一人の男が入ってくる。
「王様、お久しぶりでございます」
無駄に膨よかな男が広間の真ん中で傅くと後ろから荷を肩に担いだ男達が入ってくる。
目の前の男が顔を上げると柔和笑みを浮かべていた。
「王様、貴方様が封印した魔王の城から拝借した荷物はこれで全てでございます」
「ああ、すまない」
俺が曖昧な顔で返事を返していたら、座席の横から威圧感を感じる。
「よくぞ、届けて下さいました。 ゆっくりと休まれよ」
隣で圧を撒き散らしながら膨よかな男を睨みつけている。
「メイド達、礼の品を払うからこの者を別室にお連れなさい」
メイド達は鶴の一声で一斉に動き出すと男があれよあれよと連れていかれた。
「貴方良い?」
二人しか居ない部屋で可愛いらしい笑みを浮かべながら此方を睨んでくる。
「ああいう輩は、一度でもスキを見せたら絶対に貴方との縁を離さないものなのだから、決して油断はしない事良いわね。
「…はい」
意気消沈しながら返事をするとローサは、花が咲いたような笑みを浮かべ此方に優しく微笑んでくる。
「まだ王になって日が浅いからある程度は、私が補助して上げるから心配しないで」
優しく左手を包んでくれる。
そこら彼女の優しさがゆっくりと伝わってくるようだった。
「王よ、次の謁見人がいるのですが? 」
いつの間にか戻ってきたメイドの一人が冷めた目で此方を見ていた。
「ん! 頼む呼んでくれ」
態とらしく咳払いをすると、メイドは諦めた用に人を呼びに行った。
「これは、当分先かな・・・」
メイドの諦めに似た独り言が静かに囁かれた。
「疲れた」
一人寝室のバルコニーで呟くと、空に向かって両手を広げる夜の中にあって一際輝く星の横に黒い球体が連れ添うように浮かんでいた。
「なんだか可哀想な事したな」
魔王との決戦は闘いにすらならなかった。
奴が喋りだす前に土で動きを止めそのまま、球体に固め空に打ち上げて終わる。
「今考えても、ダメだろう」
俺は盛大に溜息をつくと背後から人の気配があった。
「貴方、溜息をつくと幸せが逃げるわよ」
赤い髪の妻が横に並ぶと薔薇の香りが鼻腔をくすぐる。
「良かったのよ、だって誰にも被害が出なかったんだから魔王以外は」
ローサも同じ様に二つの星を眺めている。
「勇者として戦いたくなかったの? 」
俺の問いに彼女は間髪入れずに答えが返って来た。
「当然じゃない面倒なこが一瞬で終わったんだから、これで国内の政治に集中できるんだから」
あっけらかんと答える彼女がとても羨ましいと感じてしまった。
「貴方も私のせいで王族に縛り上げごめんなさい」
ゆっくりと頭を下げる彼女。
月の光に照らされて赤い髪がよりその赤さを増している。
「まあ、多少の不自由は仕方ないさ」
彼女の頭を触りながら、顔を上げさせる。
「けど、代わりにこんな可愛い奥さんが貰えたんだら文句は言わないよ」
彼女の顔がゆっくりと朱を帯びていくと、無理矢理に唇を奪われた。
何度目になるか分からない接吻をしながら彼女の唇が嫌らしく艶めいた。
「じゃあ、今日も頑張りましょうね」
その言葉と共に俺はベッドに押し倒され、また精も根も尽きるのだった。
「本当、此れだけが憂鬱だ」
そして俺はベッドにもう一度倒れこんだ。